Scene46「抗う者達」


 世界各地の衛星が、あらゆる情報網が、各地のレーダーが、急速に接近しつつあるローレシアの連邦の空軍所属の無人偵察機が、その融けた氷床の上に横たわるコロニーシリンダーへと目を向けていた時、其処には既に多くの者達が集っていた。


 世界に喧嘩を売った片割れ。


 スーパー級と目される世界の敵を乗せて大気圏へと突入してきた白銀の戦艦。


 数時間前に数十機のファランクス級と基地を破壊して逃げ果せたライトニング級。


 何とか彼らと合流しようとして途中でテラネシアからの追及を逃れたカバリエ級。


 オリハルコン。


 剛刃桜。


 テスタメント。


 彼らが一箇所に集まったのはほぼ同時刻。


 それと共に彼らは落ちてきたコロニーシリンダーとギャラクシー級戦艦を見付けて、それが自分達の時代の代物。


 それも一緒に戦った相手だと悟っていた。


『こんなところでまた会うとは……我々はどうやら互いに情報交換するべきらしい』


 白銀の戦艦の最中からザートで出てきたイゾルデがモニター先の艦長席にいる神野に告げたのが十数分前。


 それから集った彼らは互いの事情と情報を刷り合わせ、自分達がほぼ同時期に過去へと飛ばされていた事……そして、現在落着したコロニーがケントやリーフィスが護ろうとして護れなかったはずの相手である事を確信していた。


 会話に加わっていたコロニー代表者の女性の声にルミナスの二人は最初呆然としながらも、彼女達が助かった事を喜んだ。


 彼女達が自分達の助けられなかった相手なのか。


 あるいは別時間軸の同じ人間なのか。


 それは分からずとも、大勢の人達が救われた事に変わりは無い。


 複雑ながらも彼らが自分達と境遇を共にする人々がいる事を喜び合う時間が持てたのは精神的にも重要な出来事だった。


「それでだが、この場所は過去という事でいいのか?」


 モニター越しにブリーフィング中の神野が訊ね、過去組がそれぞれにこの世界で収集した情報を開示する。


 それを艦のサーバー内の情報を照らし合わせれば、正しく過去そのものという事が分かるのにそう時間は掛からなかった。


「それで君達は過去改変によって大勢の人々を救ったわけだな?」


「今のところは、だ」


 剛刃桜の中で七士が頷く。


「だが、未来に戻る為の手掛かりが無いのは実情だ。この世界の未来は変えられたかもしれないが、それ以上にオレ達は此処で生きていくか帰る手段を探すかの二択を選べずにいる」


 オリハルコンを整備中のリーフィスが僅かに唇を噛んだ。


 彼にとって彼がいた未来で遣り残した事は多い。


 それをどうにかしたいと願うのは他の誰もが思っていた事だろう。


「グラビトロンⅡを使って何か出来ないかと模索していたが、今のところ出力上限を上げてオーバーロードさせても、ブラックホールが生成されるだけで、タイムトラベルに関する事象を引き起こせるとは考えられない。タイムトラベル時に遺されたデータの詳しい解析は行っている最中だが、少なくともブラックホールキャノン同士の衝突レベルの事象と更に何かしらの干渉が必要なのではないかとの推測がなされている」


 ケントが自分の愛機の中でギャラクシー側にタイムトラベル現象発生時のデータを送った。


「何かしらの干渉とは……グラビトロン級のパーツが何かのパーツと融合した事を指すのかな? 輸送していた君達の意見を聞かせて欲しい」


 此処に来るまでにグラビトロン級のパーツ輸送の話をしていたチームテロリスト+何でも屋の代表として剛刃桜の中から七士が頷いた。


「奈落獣が執拗に狙っていたパーツは大型のガーディアンの残骸が抱えるようにしていた何かだ。それがグラビトロン級のパーツと何らかの相互作用を及ぼしたとすれば、その実情を知るのはそれに詳しい人間だと思うが、コロニー側の見解を聞きたい」


 今まであまり口を挟まずに情報を整理していたコロニー側の女性が思案するような顔になりながらも何とか言葉を紡ぎ出す。


「もしかしたら、その大型のガーディアンは大帝剣ジークガイロスかもしれません」


「それは確かグラビトロンの超重力崩壊を食い止めたガーディアンの?」


 ケントの声に頷きが返る。


「はい。操縦者の方の事は存じ上げませんが、あのガーディアンがグラビトロンの崩壊を超能力によって受け止めてくれたおかげで我々は未だに生きているんです」


「という事は……まさか、彼らが拾ったグラビトロン級のパーツと融合したという残骸は……そもそもグラビトロンのパーツだった可能性があると?」


「はい。グラビトロンの中枢がまだ少しだけ生きていたのかもしれません。それがグラビトロン級の攻撃による超重力崩壊の余波で活性化、この時代へのタイムトラベルへと繋がった可能性は十分にあります」


 女性の声にその場で会議する誰の顔も少し苦いものとなった。


 その中枢部品とパーツはもう失われているという話は先程していたからだ。


「とりあえずはグラビトロン級の情報を解析してみるしかないわけだ。貴方達は我々よりもグラビトロンの事に詳しいはず。解析をお願い出来ますか?」


 神野の声に女性が頷いた。


「では、当分の予定は決まったが、此処からどうやって脱出し、隠れるか。それを話し合おう。そう時間は無いと考えてくれ。正直に言って、艦の収容人数を大幅にオーバーしている……この状態での戦闘は不可能だ」


 神野の言葉に誰もがそれはそうだと頭を悩ませる。


「あの……これは提案なのですが」


 女性の声に顔を上げれば、彼女はガーディアンに乗る誰もに決意した瞳で告げる。


「コロニーの人々を此処に残していってくれませんか? 我々にとっては貴方達も此処の人達も未来人という事になります。ですが、此処よりも未来に行きたいかどうかと言われても疑問が残る。貴方達に助けられた手前、貴方達に迷惑を掛ける事はしたくない。ですから、グラビトロン級に直接関わっていた数十人のスタッフ以外は此処に下ろしてもらって、連邦に保護を求めようと思います」


「貴方達はそれでいいのですか?」


 初めてクリフが発言した。


 それに女性が頷く。


「はい。シリンダー内の人々は自分達の状況を未だによく分かっていません。でも、時間が経ち過ぎていたら、きっと寂しい思いをする人も出るでしょう。ですから……」


「ですが、グラビトロン級に関わっていた人々もそうなのでは?」


「我々は研究者です。家族がいる者もいますから、此処で降りる人間はいるでしょうが、それでもこのタイムトラベルという事象や自分達がいた境遇を研究したいと思う人間も少なからずいます。そういった少人数だけを受け入れて貰えれば、皆さんのご期待に沿える働きが出来ると考えているのですが……」


 神野が他のメンバーとの意見調整を手早く終わらせて欲しい旨を心苦しそうにしながらも女性に伝え、彼女はそれを快諾すると数十人の白衣の男女達との話し合いの時間を所望した。


 その間にも連邦の保護を求める事にしたコロニーの人々がギャラクシーから運び出された救命キットとテントの中へと次々に避難していく。


 そうして、彼らが一応の次の行動に向けて動き出した時だった。


 融けた氷床の向こう側からの閃光がギャラクシーの張るALフィールドに弾かれて、コロニーシリンダーの上部を掠め、崩落する瓦礫に人々が逃げ惑い始めた。


 既に展開していたイゾルデ部隊が崩落する外壁をビームとミサイルで打ち砕く間に攻撃が来た方角へと剛刃桜、グラビトロンⅡ、テスタメント、イゾルデ専用ザートが其々の得物を向けて、フィールドを全開にする。


『光学観測開始。敵は……アビス反応検知?! これはアビス・ビーストです!!?』


 ギャラクシー級のオペレーター達が慌しく情報を集めながら、その望遠映像を各自の機体に補足しながら転送した。


 その映像の中、海の内部からゆっくりと溢れ出す海水を押し退けて、黒い巨人の如きモノが現れる。


 それにテスタメント内部でファリアが目を見開いた。


「あれは?! 此処に来る途中でテラネシアと戦っていたアビス獣です!?」


「オリハルコンカイザーはまだか!?」


 その声にUマシンの整備を他の人員と共にしていたリーフィスが苦い顔をする。


「悪い。後……五分くれ!!」


「貸しだぞ」


「ああ!!」


 ケントが避難している人々を護るように重力フィールドを同時に展開し始める。


 それにテスタメントが自機の両肩を翼の如く開き、光学兵器を悉く防ぎ切るフィールドを重ね掻けする。


「こちらはケントさんと私に任せて下さい!!」


 それを見て、七士が剛刃桜を前に出した。


「バックアップを頼む」


 イゾルデがその背後に付く。


「小型が出てきたら、こちらで対処する。行くぞ!!」


 その元テロリストの声に押されるようにして剛刃桜が高速で地表スレスレを飛翔する。


 それにローラーダッシュとブースターを用いてピッタリと付けたザートが周辺からの奇襲を警戒しつつ、少しずつ露になっていく巨人の姿に目を細める。


「敵は人型か。小型はまだ見えないが、用心しろ。奇襲してきたにしては周辺が静かに過ぎる。何かあるかもしれない」


「分かってる」


「可愛くないな。こういう時くらいは姿相応に応えてもいいんだぞ?」


 その悪い冗談に七士が苦笑した。


「いつからそんなにお喋りな女になったんだ?」


「貴様に負けてからだ!!!」


 刹那。


 本当に静かに過ぎた突撃中の彼らに地表の下からドリル場の触手が襲い掛かる。


 それは生ゴミが腐ったような紫色をして、突如として彼らを串刺しにしようとし―――。


「この程度か!!!」


 イゾルデの神掛かった勘が機体の跳躍を選ばせ、即座に自機の全長と比べても数倍の間を開けて、フルオートのライフルが周辺に乱射された。


 奇声を上げて千切れ飛ぶ肉片のおぞましさを見てしまった者達が顔を引き攣らせる。


 しかし、その間にも巨人と距離を詰めた剛刃桜が背後に浮かぶ刀剣の中から片刃の大刀を取り出して、飛び上がりながら斬り掛かった。


 海沿いの地形。


 それもまだ岸に上がり切っていない人型。


 動き難い事この上無いのは分かっている。


 頭部を狙って放たれた刃が軽く相手を真っ二つにするかと思われたが、途中で斬撃の軌道が変わる。


 ガギンッと甲高い音をさせて、巨人の体表から無数に刺々しい槍衾が大刀の面に当たって砕けていた。


 もしも、そのまま斬り掛かったままの姿勢ならば、胴体どころか。


 全身を槍衾に貫かれていただろう。


 咄嗟の防御と同時に背後へと跳躍するように距離を取った剛刃桜が今までの敵とは違うと。


 大刀を手放して背後へと戻し、方手持ち出来る細い刀身の剣を両手に携えた。


「後方の部隊も地下に気を付けろ!! 下部にフィールドを張れ!!」


 イゾルデ隊のザート達が隊長の指示よりも先に次々と避難民達やギャラクシーを護るように下方へとALフィールドを厚く展開し始める。


「どうする? お得意の緑色の炎で槍衾を強引に突破するか?」


 その現在の後方担当の声に首が横へ振られた。


「削り尽くす。此処から先、何があるか分からない以上、無用な消耗は避けるべきだ」


「では、好きにしろ」


「言われずとも」


 七士が剛刃桜を急加速させ、巨人が合わせて振り下ろそうとしていた腕を擦り抜け、槍衾が腕横から放たれる寸前に緑炎を纏わせた切っ先で横一線に切り落とした。


 その腕に三点バーストで追い討ちを掛け、ザートが剛刃桜に四方八方から迫ろうとする槍衾に銃撃を加え手折っていく。


 そんな支援を背景にして小柄な機体が左右に揺れながらヒットアンドアウェイを繰り返し、敵の表層や指や関節といった小さなパーツを斬り落とし、細切れにしていった。


 敵の攻撃発生が斬り落とす直前の至近となっても、フォローに回ったザートがマシンキャノンや近接用のダガーの投擲、ALフィールドでの一瞬の攻撃遅滞などを駆使して、剛刃桜のバックアップを完璧にこなしていく。


 時間にして高速戦闘は凡そ1分。


 巨大だったはずの敵は今や手足を半分以上欠けさせながら、海岸線で動けなくなりつつあった。


 芸術的なまでの戦闘技能の調和。


 互いに指示しているわけでもないのに絶妙なタイミングで入るフォローとそれに支えられた攻撃の数々は連携というにはまったく相手の攻撃で自機が破損しそうな際どさの中で成立する曲芸に近かった。


 一歩間違えば、大惨事。


 だが、危うげなく。


 それを遣り遂げる男と女。


 二人のリンケージの想像を絶する操縦に他の機体の中で感嘆の声が響く。


「これで終わりだ!!」


 七士の声と同時に剛刃桜の両手の刃が巨人を真上から三枚に下ろした。


 敵が反応し切れない程の早業の後。


 その下ろされた断面に弾丸の雨が打ち込まれて、敵をグズグズの肉塊へと変えていく。


「とっとと撤収に掛かるぞ」


「ふ、急かさなくとも、そうする」


 互いに認め合った様子の声をギャラクシー内部の客室にソフィアと共に避難したアイラが拳を握り締めながら聞いていた。


「―――」


 外の様子は映像で回ってきている。


 それを見て、何を思うのか。


 隣のソフィアが険しい顔こそしていないが、真剣に自分の主と慕う男を見つめる同年代の心境を何となく察した。


「私にも……ガーディアンさえあれば……」


 今現在、ギャラクシーにそういった機体は存在しない。


 それが何よりも悔しい事なのだろうと、ソフィアにもアイラの事が理解出来た。


 自分にも何か出来るはずなのに。


 誰かに任せ切りにしてしまう。


 自分が役立てる場所に自分がいない。


 その苦悩は……過去に来てから……祖国の悲劇を防ぐという大願を自分の手では出来ずに見ていたソフィアにとって理解可能な感情だった。


『神野艦長さん!! すいません!! エピオルニスちゃんを動かすのはもう少し待って下さい!! 今、出力の調整をしていて、後もう少しで動けるようになると思いますから!!』


 そこに音声が響いた。


 ギャラクシーの艦長席で青年が、オペレーター席で数人の男女が、『エピオルニス……ちゃん?』と微妙な表情で呟く。


『今、システムチェック中だから!! マナがこの機体を動かせるようになるまであと少しだけ待ってて!!』


 コロニーシリンダーの先端部。


 巨大なkm単位構造物。


 今や桜色に染まったエピオルニスの内部で今も懸命に機体の制御系を調整していた二人が声を上げる。


『もし、他の奈落獣がいたとしても、今の私なら、この機体と一体化した私なら、皆さんを安全な場所まで誘導するくらいの時間は稼げると思うんです!!』


『マナ君。焦らずやってくれ。それまではこちらでやる。君が私達を助けてくれたようにな』


『は、はい!! 艦長さん!!』


 その遣り取りが一部、艦内で放送され、今まで険しい表情で緊張を強いられていた者達に僅かながらも笑みを浮かべさせた。


 自分達はまだ大丈夫。


 必ず助かるという希望が確かに誰の胸にも知らず灯っていたのである。


 だが、そんな試練を潜り抜けてきた彼らの前に突如として絶望が通り過ぎた。


 海中からの巨大な光芒が僅かに上空を掠め。


 その余波で海岸線沿いから湧き出した膨大な瀑布の如き塩を含んだ数百度にも為る高圧蒸気が周辺を吹き抜ける。


 疎らな木々が一瞬の蒸気の海に温度を奪われて凍り、塩と氷の華を裂かせた。


 明らかな戦略級のビーム砲撃。


 もしも直撃していたならば、大抵の戦艦を沈めるに足るだろうエネルギ-の本流を目にして、ギャラクシーと白銀の戦艦を筆頭にしてオペレーター達が忙しなく解析を始める。


『荷電粒子砲と思われます!! 沖の海中400mよりの膨大なアビスエネルギーを感知!!』


『AL粒子の波形がハイパーボレアの大型マシンザウルスのものと酷似!!』


『予測では最低出力でも数km四方を全て焦土に出来ます!!』


『敵影補足!! 全長323m!! 母艦級と思われます!!』


『敵影より多数の小型機影!!? 備えて下さい?! 現在敵54機、尚も増大中!!』


 入り乱れる声が示す敵。


 それが本来、この時間軸にいないはずの力そのものだと気付いて、ギャラクシーの艦長席で青年が目を細めた。


(まさか、我々以外にも時空転移者がいた? いや、ハイパーボレアがこのタイミングで仕掛けてくる意図が見えない。もしかしたら、他の転移者が情報を何者かに流した? く、判断材料が少な過ぎる!!)


 一つだけ確かなのは敵が明らかに自分達を狙っているという事。


 そして、その力は少なくとも強大であるという事実。


 彼が唇を噛んだ時。


 本来、立ち入り禁止のブリッジのドアが勝手に開いた。


「?!」


 思わず背後を振り返った信一郎の目に宇宙のコロニーで白銀の戦艦が一部の研究者達と共に保護した二人の少女、サーラとケイティーが映る。


 この数十分で装備のしっかりとしたギャラクシーに事情を説明されて移されたのだが、どうして彼女達が戦闘中でロックされているはずの場所に入ってこれたのか。


 まるで理由が彼には分からない。


 オペレーター達の一人が子供達を外に出すべく動き出そうとしたが、それを信一郎が手で制し、自分の席から立ち上がって二人の前まで行くと腰を屈めた。


「どうしたのかな?」


 それにサーラと呼ばれた何処を見ているのか分からない瞳の少女が呟く。


「混沌の鍵」


「?」


 ケイティーと呼ばれた少し芯の強そうな目付きの悪い……悪くなってしまった少女が呟く。


「倒さなければ……この星はもう……」


 信一郎が二人の意味不明の言葉に目を細める。


「君達が何を言いたいのかは分からない。だが、今攻めてきてる敵が危ないって事でいいのか?」


 二人がコクリと頷いた。


「分かった。じゃあ、安心して部屋に戻るといい。我々は決して屈しない。少なくともそんな肝っ玉の連中は此処にいない。君達も研究者の人達も護り切ってみせる」


 二人の頭を撫でて外へ出て行くように言った信一郎が再び艦長席へ座ると。


 閉まる寸前の扉の先から声が掛かった。


「「外なるもの……緑炎はやがて全てを喰らい尽くす……どうか、忘れないで」」


 プシュンとドアが閉じられ、ロックされた。


 艦長席で二人の少女の忠告を胸に留めながら、信一郎は剛刃桜の姿をモニターの一つに見る。


 その機影は内部から少しずつ溢れ出す緑色の炎に染まり始めていた。


(今は忘れよう。まずは生き残る事だ……)


 意識を切り替え、深く息を吐いた青年は声を張り上げた。


「対空戦闘準備!! 艦を後方に下げて支援に徹する!! 通路でギュウギュウ詰めになってる人々がいるのを忘れるな!! 攻撃を受ければ、大惨事だぞ!!」


 ギャラクシーがゆっくりと後方へと下がり、それを庇うように白銀の戦艦が前に出た。


『こちら白銀シロガネ!! Uマシンの整備完了!! これよりガオーカイザー発進!!』


 どうやらイゾルデ隊のオペレーター達はそう呼んでいるらしい。


 戦艦の後方のハッチが左右に開かれ、其処から猛然とライオン型のガーディアンと列車や航空機が飛び出した。


『こちら剛刃桜。これより敵陣に突入を開始する。各機は遠距離での援護と陣地の防衛を。敵母艦を撃滅後、後方に下がる為の退路確保を要請』


『こちらギャラクシー。神野信一郎。了解した。コロニーの人々は必ず守り抜く。細かい位置指定があれば、ミサイルによる航空支援もこちらで行おう。何かリクエストはあるか?』


 信一郎の声に僅か思考した七士が機体を前方に加速させ、背後にイゾルデを抱えながら的確な支援ポイントをギャラクシー側に送る。


『敵陣の中央突破中に左右と後方からの妨害を牽制してくれ。こちらは槍の穂先、側面の防御と敵の意識をそちらに向ける攻撃を要求する』


『分かった。各砲座に目標地点への砲撃を指示!! 敵陣に穴を広げてやれ!!』


 オペレーター達が一斉に指示を各セクションに飛ばし始めた。


『こちらガオーカイザー!! 荒那達の後方から援護に入る!! 退路の確保と敵陣の中央の制圧はこちらで受け持つ!!』


 リーフィスが七士達の突入組みの後ろへと向っていく。


『ケント!! Gマイクロミサイルの残弾は!!』


『残り2発だ』


『じゃあ、それは包囲された時の為に取っておけ。今から言う地点に合図したらブラックホールキャノンを一発打ち込んでくれ。こっちのプライマルユニオンの支援をお願いする』


『了解した。死ぬなよ。相棒』


『了解だ。相棒』


 二人が互いにフッと苦笑しながら、通信を切る。


 その合間にも海面から敵の第一陣が顔を出し始めていた。


 望遠レンズに映し出された敵影の正体に信一郎を筆頭に多くの戦場を見ていた者達の顔が引き攣る。


 それは……少なくとも人型でありながらも、アビスの影響を色濃く受けた生物のような物体だった。


『何だ―――こいつらは?! 半漁人? いや、奈落獣なのか?!!』


 ケントが嫌悪感に顔を僅か歪める。


 まるで意思を持ったかの如き生々しい呻き声を上げながら彼らに迫り来る12m強の巨人達。


 彼らは全身を弛んだ皮膚と鱗に覆われ、首筋にエラを持ち、アビスのエネルギーを凝集させたと思われる黒い三叉矛ジャベリンを手にしていた。


『押し通る!!』


 剛刃桜が容赦無く両手の剣で海中から顔を出した正面の敵を真っ二つに切り伏せ、その青白い血飛沫を緑炎によって蒸発させながら、突入していく。


 イゾルデのザートも左右から攻撃動作を読んで、敵の攻撃寸前に相手の出鼻を挫いて戦線に明確な穴を穿っていく。


 それに続くリーフィスがガオーカイザーを人型モードに変形させ、上陸する半魚人の如き奈落獣を次々にクローアームで撫で斬りにした。


 その周囲ではUマシンが渦を巻くようにして搭載された兵器を使用し始めた。


 誰もが生き残る為に戦闘を開始する。


 その最中、一人戦場から取り残されたアイラは艦内で拳を握っていた。


 自分もその最中に飛び込み。


 少年の傍で働きたい。


 その強い強い衝動が彼女の周囲に溢れ出したかの如く。


 僅かな空間の歪みによって、その姿が揺らぐ。


 しかし、その事象の中心で共に七士達の様子を祈るように見ていたソフィアは気付かなかった。


 新たな戦いを世界中の多くの者達が見た時。


 彼らが見たのは奈落の化身達を前にして戦う勇士の姿。


 人種も、民族も、国家も無く。


 生き残る為に抗う者達の背中。


 急行しつつある連邦軍の正規軍の部隊は後に語る事となる。


 自分達が見た神話の光景を。


 歴史の転換点を過ぎた過去に新たなる時代が到来しようとしていた。

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