Scene24「侵蝕」
―――鳳市埠頭沖。
それが近付いてきた時、最も先に対応したのはガーディアン部隊を擁した鳳市警だった。
とりあえず、通信を試み。
何の返答も無い事を確認。
海底から迫ってくる
その二十発近くの爆薬量からして、如何にアビスガーディアンだろうと一発でも命中すれば、大破は免れないはずだった。
巨大な水柱が沖で何度も上がり、それを水上で確認していた部隊は相手への命中を確認して突撃。
回避行動すら取らなかった敵の愚かさに僅かな疑念を抱きながらも接敵した。
そうして、彼らは海上へと浮上してきた敵機を視認し、確かに魚雷が命中し、爆発したのだろう相手の姿を確認し、その悍しさに顔を引き攣らせた。
アビスガーディアンかと思われていた相手はディザスター級。
しかし、それは下半身だけの事。
上半身に彼らが見たのは無残に吹き飛ばされながらもまるで骨格のような白いフレームを紫とも灰色とも付かない気味の悪い肉が汁を飛び散らせながら蓋っていく光景。
ガーディアンを取り込んだ奈落獣。
そうとしか思えない姿はもはやアビスガーディアンとすら言えなかった。
肉に埋れるようにして各部にマウントされた複数のミサイルポッド。
そして、背部から突き出る巨大な塔とも見える装備。
しかも、それらは一つ一つ形が違っていて。
『あれはまさか?! 各機さんか―――』
市警隊の隊長が背筋を焦がす猛烈な死の気配に回避を伝えようとした瞬間。
奈落獣の背中から肩に倒され向けられた武装が火を噴いた。
【
ディザスター級のみに許された超絶の破壊兵器。
HEA砲。
重粒子の圧縮、縮退、加速が産み出す超出力ビーム兵器が隊長の指示に即座に反応したカバリエ級ガーディアン達を襲う。
辛うじて。
本当に辛うじて隊長機の支持が間に合ったのは奇蹟に等しい。
膨大なエネルギーがその肉の砲身から発射された時、射線上には彼らの機体の一部。
腕や足しか存在しなかった。
キュゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――。
海水を割り、超距離を蒸発させる一撃が埠頭ギリギリで減衰し切った時。
ガーディアン隊はその機体の装甲表面を融解させられながらも、まだ撃破されておらず。
『ぐぅ?! か、各機。あれらの背後に背負われているのは全て
『た、隊長!!? アレをッ!!?!』
『な、何?! まさか、あの状態から回復すると言うのか?!!』
部隊の全員が驚いたのも無理は無い。
本来、規格外兵装と呼ばれるものは捨て身の一撃。
一発討てば、その時点で機体が爆散するか。
あるいはそうでなくとも大破して使い物にならなくなるというのが相場なのだ。
それを加護も無しで回復させていく。
しかも、その砲塔までもゆっくりとではあるが、確実に形を取り戻しつつあった。
『あんなのが一体でも市街地に入ったら?!! 各員!! 悪いな……お前達の命をくれ!!!』
隊長の言葉に誰もが躊躇無く答えた。
彼らこそは鳳市を護ってきた警察の顔。
その自負は防衛軍にも引けを取らない。
無辜の市民達が死ぬというだけではない。
彼ら誰もが市の出身者であり、彼らの家族や友人、恋人は其処にいる。
引けるわけが無かった。
『おぉおおおおおおおおおおおお!!!! トール!!!!』
『アカラナータァアアアアアアアア!!!!』
『フツノミタマッッッ!!!!』
各々の加護が解放され、機体から発されるAL粒子が警官、否。
戦士達の雄叫びに応えて、敵機を捉えた。
マシンガンの一撃がALの空間歪曲を伴って、相手の胴体を粉砕し、ALの本流が相手を覆滅、破砕せしめ、自らの機体が受けた全てのダメージをAL粒子として解き放ち、ハルバードが敵半身に食い込み、割り切った。
乱戦。
そうなれば、近接格闘に向かないディザスター級に対してチャンスが生まれる。
その予想は概ね正しく。
しかし、更なる相手の能力によって、事態は予想外の展開を迎える。
斬り掛かったカバリエの一体が、胴体を半ばまで断ち切って離脱しようとした瞬間、
『がッッ?!!? こ、こいつら?!! オレ達を取り込む気か!!?』
何とか離脱しようともがくものの。
まるで肉の壁に飲み込まれるようにして機体が埋没していく。
その間にも内部、コックピットには黒いオーラのようなもの。
アビスエネルギーが漏れ出し、操縦者に纏わり付き始めた。
『あ、ぐぁああ、お、オレの中に入ってくるなぁあぁああ?!!?』
『侵蝕能力?!!? だが、後ろに下がればッッ!! クソッ?!』
乱戦の最中。
彼らが何とか相手に立ち向かえているのは近接格闘戦を軸に相手へ張り付くようにして戦っているからだ。
だが、侵蝕を嫌って、後ろに下がれば、規格外兵装の恰好の餌食になるのは間違いない。
『ダメだ!! 此処で不用意に撃たせれば、市街地にもッ!! 卑怯なッッ!!!!?』
『今、助けるッッ!!!』
同僚の一機が取り込まれつつある機体を引き剥がそうと接近した時だった。
その後ろからガシッと肉の腕が胴体をホールドするように掴んで自らの方向へと引き込む。
見れば、どの敵機も市警隊のガーディアンに突撃し、組み付こうとしていた。
『うぁああああああああぁあああああああああ!!!?!』
『や、止めろッ!!? く、来るなぁああああああ!!!?』
『隊長ッ!!! 隊長おおおおおおおおおおッッ!!?!』
そうして、次々に機体を取り込まれ、侵蝕を受けた機体が停止していく。
『本部!! 本部!!』
通信しようとした隊長機だったが、その後ろから最初に規格外兵装を撃った機体が組み付き。
機体の制御が次々に奪われて、アビスエネルギーがコックピット内部に漏出していく。
彼らの断末魔の如き叫びが終った頃。
全てのガーディアンを取り込んだ七機の自立型アビスガーディアン【
最初に懸念された規格外兵装による無差別攻撃は無く。
しかし、何かを探し回るようにして徘徊し始めた敵の重大性を鑑み、都市の全住民に避難勧告が出されたのはそれから数分後の事であった。
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