きんもくせい

明けの三日月 Ⅰ

 虹の橋行きの船を待つ船着き場。

 ちいさなそのこは、渡し守の歌う唄を、じっと聞いていました。




  みかづき みちる

  みちると まんげつ

  まんげつ かける

  かけて 明けのみかづき 

  二十六夜のおつきさま


  ねこのいのちは ここのつ ひとつ

  月夜のように みちて かけても

  また みちる

  ねこのいのちは ここのつ ひとつ




 渡し守は、歌い終わると言いました。

「一生には、春夏秋冬があるというよ。百年の一生にも、たとえば数ヶ月、数日しかなかった一生にも春夏秋冬はあるんだよ。ひとつの命それぞれに、それぞれの春夏秋冬があるんだ。この世に生まれる前に去って行くことになった命にも、もちろん、春夏秋冬はあるんだ。わかるかい?」

 ちいさなそのこは、渡し守の腕の中で、こくんとうなずきました。


 自分の目や耳や鼻では出来なかったけれど、かあさんねこのおなかの中で、かあさんねこの目や耳や鼻を通して感じた色や音や香り。

 喜びや楽しさ、驚きや優しさ。

 朝がくる気配。 夜が来る気配。 

 そして、また朝が来る気配。

 昨日とは、ちがう今日の気配。

 今日とは、ちがう明日の気配。

 金木犀きんもくせいにつぼみがついて 小さな花が咲きこぼれる気配。


 ひとつの朝からひとつの夜の間にだって、金木犀のお花のひとつひとつにだって、春夏秋冬があるのかなと、ちいさなそのこは思いました。


 木の枝の葉っぱの陰に、

 小さい小さいつぼみがついて、

 小さい小さいお花がさいて、

 そっと静かに散っていく、

 お花の中の春と夏と秋と冬……。


「かしこいこだね」渡し守が言うと、そのこは、だって、かあさんねこのこだものと思いました。

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