夏のある日 Ⅶ

「いきている、それだけ。いきていることは、それだけさ。」

 渡し守はそうつぶやくと、犬と猫を抱きしめました。

「虹の橋は、安息の地。飢えも苦しみも痛みもない。不安も恐れも、みんな地上においていけばいい。だから、怖がることなんて何もないさ。」


 犬と猫は、それでも不安そうに、渡し守を見上げて言いました。

「ぼくたちが、ぼくたちを山に置き去りにした人の幸せを願うことができなくても?」


 渡し守がうなずくと、また、ふたりはたずねました。

「ぼくたちが、恨んでいても?」


「恨みは、虹の橋には持っていけないよ。悲しみも、苦しみも、飢えも病いも、人間の身勝手さも、全部地上において、きみたちは、安息の虹の橋へと渡るんだ」


 渡し守は猫を抱きかかえ、船着場への道を歩き始めました。犬はひまわりの枯れたつぼみくわえ、渡し守の後に従いました。


 渡し守は、犬の咥えている絶望の蕾もこのこたちと一緒に虹の橋に着いたら、きっと再び希望を思い出しよみがえるだろうと、信じていました。



 おつきさまは かける

 おつきさまは みちる


 かなしみも みちてはかけて

 よろこびも かけてはみちて


 おつきさまは みちる

 おつきさまは かける


 おひさまのひかりを うけて

 宇宙そらのなかで 

 今日も 明日も


 ねこのいのちは ここのつひとつ

 生きては 消えて 

 消えては 生きて 

 闇も光も ひとつのうちに

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