夏のある日 Ⅵ

 与えられたその場所で、ただひたすらに生きているだけの命を、おのれの身勝手さゆえに重荷を背負わせ、安息の地に向かうことさえ、人間は阻害するのか。


 渡し守は泣き続けるふたりを見つめながら、くやしさで唇をかみました。


 人間というのは、なんて残酷で身勝手で思い上がった生き物なのだろう。

 山の中では生きるすべを持たないことはわかりきっているはずなのに、どうして、そんな場所をわざわざ選び、置き去りにして捨てるなんてことをするのだろう。この子たちが命を落としてから、霊能力者とやらに高い代金を払うのなら、なぜ、山の中に捨てる前にこの子たちのためにそのお金を使おうとしなかったのか。もし、そのお金がふたりを捨てた時にはなかったとしても、他にも選択肢は必ずあったはずなのに。


 後になってから、どんな言い訳や言い逃れを思いついても、すべて愚かなおためごかしに過ぎないのだ。

 取り返しがつかなくなってから、どれだけ、悩みいたとしてもしても、こぼれたミルクも水も、決して元には戻らないのだ。ましてや、命というものは。

 

 なぜ、人間には、それがわからないのだろう。

 その上に、なぜ自分のしたことに向き合いも背負いもせず、なんとかして少しでも自分だけは楽になろうとするのだろうか。

 

 でも、すぐそのあとに、渡し守は、思い直しました。


 それが回り回って、そう思う人間たちを苦しめている。

 その身勝手さや思い上がりが目隠しになり、耳も塞いでしまうのだ。自分に都合つごうの良いことだけしか見えなくなって、聞こえなくなって、自分で作ったわざわいうずに、ぐんぐん巻き込まれていく。

 渦にもてあそばれていることさえも気付かずに。

 それが幸せだと勘違いしたまま。

 さらには、そういったもの同士でだまし合い利用しあうことさえはじめる。

 なんて、因果なことだろう。


 渡し守は、ふうと深くため息をつきました。

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