夏のある日 Ⅱ

 渡し守は、山沿いの道を歩き続け、山間やまあいのひまわりのお花畑までやってきました。


 満開の花畑の中で、一輪のひまわりだけが、つぼみのままで干涸ひからび枯れてしまっています。

 その根元から、すすり泣く声が聞こえてきました。


 渡し守は、そっと、枯れた蕾に近付きました。


 影がふたつ、地面にうずくまって声を殺して泣いています。 

 そのふたつの影は、確かに、渡し守の乗客でした。

 渡し守は、ふたつの影に、そっと手を差し伸べました。


 ふたつの影は、それでも顔を伏せ泣き続けていましたが、一向いっこうに渡し守が立ち去るようすがないので、大きな方の影がやっと顔を上げました。

 そして、泣きはらした目で渡し守を見ると、力なく首を横に振りました。


 渡し守が、優しく言いました。

「船に乗る時間だよ」


 すると、もう一つの小さな影も顔を上げて、強く首を横に振りました。


 ふたつの影の周りには、破り捨てられた虹の橋行きの切符が、散らばっていました。

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