ひまわり

夏のある日 Ⅰ

 船着き場では、虹の橋へ向かう何艘なんそうもの涙色のお船が、ゆっくりと旅立って行きます。


 でも、いつまでたっても、出発するようすのない船がありました。


 とうに、出航の時間は過ぎているのに、この船の乗客が来ないのです。

 その船の渡し守は、乗客たちがやってくる山沿いの道を見ました。

 もう幾度、その道に目をやったことでしょう。でも、依然、この船の乗客は、やってくる気配すらありません。


 山々の間では、ひまわりの花の黄色が見え隠れしています。それらのお花は、遠く離れた船着場からでも、まるでお日様やお月様の光のようにキラキラと輝いて見えました。それは、あの花たちが、もともとは虹の橋に咲く花だったからでした。

 虹の橋の花は、希望の花。

 青い鳥が虹の橋から運んだ種子が、この山間やまあいで花開いたのです。


 ひまわりを見ていた渡し守は、はたと思い当たったように船のさおを置きました。棹の先に着いた鈴が澄んだ音を立てました。

 渡し守はその鈴のに見送られるように船着場を後にして、山沿いの道を歩き始めました。


 船着場に向かう乗客たちは不思議そうに、渡し守を振り返りました。

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