第10話 説明
食堂を出てから、なんか後ろからついてくる人がいるんだけど。。。
しかも、1.2.3.4人もいる。
最初は行き先が同じだけだと思ったんだけど、あの目は違う。間違いなく睨まれてる。
あ、一人が携帯でなんか喋ってる。TFC?またあの言葉だ。
あ、人増えた!って、ええええ、なんかどんどん人が来るんだけど!
「・・・トモりん、こっち」
「うん」
小走りでそこの曲がり角を曲がる。
後ろの連中も小走りでついてくる。
なにこれ?なにこれ?僕が何をしたー?
「・・・と、トモりん、走る」
「うん!」
トモりんが素直な子で助かった。とりあえず、走ろう。
し、しかし辛い。走るの辛い。お腹痛い。
「ふひー、ふひー」
「パパ大丈夫?」
「だ、・・・だいじょうぶ、じゃ、ない」
角を曲がるごとに、人が増えてる。みたところ、男も女も部署すら違う人達も。
C級ゾンビ映画じゃないんだから勘弁してよー。
「う・・・うぁ、こっちからも・・・」
前からも人が来た。こっちを見た途端眼の色変えて追いかけてくるとか、どういうことですか・・
「こ、こ、こっち」
通路を右に曲がる。
ここからなら、近くにエレベーターがある。そのエレベーターなら医療エリアに直行してるのでちょうどいい!
お、追いつかれる前に乗り込まなくては。
「ふひー、ふひー」
「パパ汗びっしょりだねー。ともこ、汗拭いたげるー」
なんとか、エレベーターのボタンを押して、目的階である医療エリアへ。
エレベーターの中でヘタってる僕に、可愛らしい花がらのハンカチで汗を拭ってくれるトモりん、やっぱり天使!
しかも、トモりんは全然疲れた様子もない。こんなに小さいのに体力あるんだなぁ。
しかし、さっきのはなんだったんだ。
やっぱりTFCについて調べたのがバレたんだろうか。ということは、追ってきた彼らはすべてスパイ?
いやいや、それにしては行動が大胆すぎるでしょ。
ーーー
「ターゲット、エレベーターに乗りました。医療エリアに向かったと思われます。
・・・はい、はい、了解しました。それでは、解散いたします。」
「ミッション終了! 各自仕事に戻ること。お疲れ様でした。」
「「「お疲れ様でしたー!!」」」
ーーー
医療エリアに到着。幸いここには追手は来てないようだ。
とにかく、まずは平川女史に会いに行こう。
ビルとビルを繋ぐ遊歩道を渡り、別棟にある医療施設へと向かう。
「わー、ここすっごいねー。たっかーい。
お外がよく見えるよー。わー。」
「・・・40階だから、ね」
「みてみてー、人があんなに小さいー。
じゃなかった。みろー、人がゴミのようだぁー」
「・・・わざわざ言い直さなくてもw」
「言ってみたかったのー」
「・・・うん」
癒される。
しかし、追手が来ないうちに急ごう。
「・・・行くよ」
「はーい」
ーーー
コンコン
「・・・おじゃま、します」
「おじゃましまーっす」
医療エリア、生体科学とかも研究しているエリアなんだけど、表向き医療エリアと言われてる。
VRマシンのニューロンコントロール(だったかな?)も、このエリアで研究された成果物のはずだ。
今から会う人物、平川女史はこの医療エリアの主任であり、
「あ、はいはい。ちょっとまってねー。
はい、おまたせ。何か用?ってあら、智子じゃないー、どうしたの?」
トモりんの親友である。
「んー、おばちゃんだーれ?」
親友である?
「な!智子。あんたいつからそんな口聞くようになったわけー?」
親友である・・・
「おばちゃんこわーーい」
親友・・・だった?
「ちょっとトト!コレどういう事?あんた智子に何かしたんでしょう!」
あ、矛先がこっちにきた。
「・・・えっと」
「あぁ、まだ説明はいいわ。もうすぐ来るはずだから」
なにかすごく嫌な予感がする。
「・・・えっと」
「ほら、来たみたいよ」
振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた社長が立っていた。
ーーー
私の名前は平川レイミ。智子の親友だ。
つい先程社長から、もうすぐ智子が来るから引き止めておいてほしいって連絡があったので、何かあったかと思ったら
結構やばいことになってたのね。
目の前で、トトが社長に事情を説明してる。
まぁ、コミュ症のトトが説明してるもんだからぜんっぜん話が進んでないけど、事の始まりは理解できたわ。
ってか、開発部の古上のバカ、開発中の機材をあっさり貸すなんてどういうつもりかしら。ちょっとお仕置きが必要ね。
そもそもあのVRマシンは一般的に言われているVRマシンではないの。
通常のVRマシンは、利用者の視覚情報に働きかけて現実には存在しない情報を表示させたり物に触れたりした情報を利用者に
フィードバックさせるだけの機能だけど、私達が開発しているものはちがう。
開発中のVRマシンは、利用者の記憶領域をVRマシン側で負担することができるように設計されているの。
簡単にいえば、外付けハードディスクのようなものね。
社外的PRとしては、脳に障害を持った人への補助として開発を進めているんだけど、実際の目的は別。
利用者の記憶を外部に取り出せるということは、その外部記憶を別の人が使用することだってできてしまうということ。
そして他人が利用できるということは、知識や記憶を1つのパッケージとして売れば、専門知識をわざわざ学ばなくても覚えることが出来たりもするのよね。
また、複数の利用者に対して1つの外部記憶を使えば記憶の共有だって出来てしまう。
ということは、個人の天才から天才グループを作ることだって出来てしまうのよね。
このプロジェクトが成功すれば、世界が変わるんじゃないかしら。
まぁ、私は面白ければそれでいいから後のことはどうでもいいけどさ。
で、当然この事は社内でも社長と私、あとごく少数の人くらいしか知らない極秘情報だけどね。
なので古上のバカが貸しちゃっても仕方ない・・・わけはないか。非公開プロジェクトだったわけだしね。
でも、なんでトトもVRマシン事知ってたのかしら。あとで古上のバカと一緒にその辺もじっくり聞かせてもらわなくちゃね。
バカとトトの件はあとでじっくり聞くとして、今問題なのは智子よね。
智子の幼児退行については、おそらく開発中の試作VRマシンを使用したせいで、記憶の一部を外部に持って行かれたってわけでしょうね。
でもVRマシンはあくまで記憶のコピー及び、新たに記憶する情報の記録を補助するだけのものなんだけど、どうして利用者の記憶がなくなってるのかしら。
これが智子じゃなかったら被験者を色々と実験してみたいところだけど、親友にそんなこと出来ないわよねー。
うーん、でもちょっとだけ調べさせてくれないかなー。脳とか。脳とか。脳とか。。。
あら、そろそろ社長とトトの会話が破綻しそうね。社長の笑顔がひきつってきてるわ。
しかたないから、助け舟を出そうかしら。
ーーー
「と、いうわけよ。ふたりとも理解した?」
私はそう言うと、社長とトトの両方に理解の色が浮かんでいるのを確認して話を続けた。
「とりあえず、開発部にVRマシンを渡して、智子の記憶データが存在しているか確認してもらうのが第一ね」
「・・・僕のせいだ」
「そうね、あんたのせいよ。で、あんたはそこで自責の念に身悶えてるだけなの?それよりも自分にできることがあるんじゃないの?」
「・・・わかった」
トトが落ち込んでるけど、私が一言いったらめずらしく真剣な顔して頷いたわ。へー、こんな顔もできるんだ。
と、ちょっと感心してると社長から提案が。
「事情は分かった。じゃぁ僕が田端くんの子守をしておこう」
「却下!」
「えー、なんでだい。田端くんがこうなったのは責任は、このプロジェクトの責任者である僕が負うべきだろう?」
「とか何とか言って、智子と一緒に居たいだけでしょう」
「ま、まぁそれもあるが・・」
「社長は社長の仕事をしてください。ほら、もうすぐ秘書の人が来ますよ」
「げっ、しかたない。レイミ君あとはよろしく!」
そういうと、社長は足早に部屋を出て行った。
でも無駄でしょうね。あの秘書さんから逃げられるわけ無いわ。
「さて、私もがんばりますか。トト行くわよ!」
まずはVRマシンを取りに行って、それからシステム開発室ね。
私の膝の上ですっかり寝入っている智子を眺めながら気合を入れる。
トトも気合を入れたようね。鼻息が荒いわ。でも、やっぱり見た目不審者よねー
どうして、智子はこんなのがいいのかしら。
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