第5話 チャット
こんにちは、田端智子です。
さて、消えてしまった半年については色々と問題ですが、まずは目の前の問題を先に解決しましょう。
手にとったアクセスログ(本)を開きます。
そこには、びっしりと行動履歴が残っています。
きっとここに、私の情報も残っているはずです。
Mar 16 2016 10:03:02 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] motoko - login.
あ、私の名前がありました。しかもログインしてるようです。
時間から考えて、ちょうど私がサーバーに来た時間くらいですね。
他には、何か無いかな。
Mar 16 2016 10:05:09 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] motoko - data load.
Mar 16 2016 10:05:13 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] motoko - data error. stop -> reload.
Mar 16 2016 10:05:17 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] motoko - data error. stop -> reload.
Mar 16 2016 10:05:21 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] motoko - data error. stop -> reload.
Mar 16 2016 10:05:25 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] motoko - data error. stop -> reload.
Mar 16 2016 10:05:30 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] motoko - data loaded.
気になる行がありました。data error. stop -> reload. ってなんでしょう。
あまりいい意味ではないみたいですね。
最初の行で何かデータを読んでいるんですよね。で、それが読めなかったか何か問題があって5回ほど繰り返してやっとデータが読めたってことですね。
なんだか私の消えた半年と関連がありそうですね。
そういえば、うちの会社、VR(バーチャルリアリティ)の技術開発もしてるって受付時代にシステム開発の人から聞いたことがあります。
このログの中の[VR-Prototype]っていうのが気になりますね。この言葉で絞込って出来るんでしょうか。
「スーさん」
「なんだ」
「ログ内の検索とか絞り込みって出来るんですか?」
「できるぞ」
「どうやって?」
「言葉に出せば勝手に表示が変わる」
「はぁ、ありがとうございます」
音声認識ってことですね。まぁ、スーさんもメールさんも普通にしゃべっているわけですし、何でも会話で出来そうですね。
「えっと、今日のアクセスログからVR-Prototypeで絞り込み検索をお願いします」
あら、アクセスログ(本)の厚みがへりました。検索で色々除外されたってことですね。
では、改めて見てみましょう。
Mar 16 2016 09:45:32 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] VR Prototype v0.8 start.
Mar 16 2016 09:47:33 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] core system loaded.
Mar 16 2016 09:51:21 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] core system verify... ok.
Mar 16 2016 09:53:33 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] VR memory area copy finish.
Mar 16 2016 09:56:31 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] human interface start.
Mar 16 2016 09:57:42 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] human memory check.
Mar 16 2016 09:59:56 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] human memory analyzed.
Mar 16 2016 10:04:16 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] human memory copy to memory area.
Mar 16 2016 10:05:07 [info] 10.40.11.34 - [VR-Prototype] created motoko.bin.
このへんですね。
VR Prototype v0.8 start.って書かれていますので、やはり私はVRな機械をつかってこのサーバーに入った。または入らされたってことですね。
というか、v0.8とかPrototypeとか目一杯試作機じゃないですか。人体実験でもされたんじゃないかしら。
さて、VRマシン(と、とりあえず言っておきます)でサーバーに入ったということなら、ほぼ問題は解決です。
だって、ログアウトすればいいだけですから。
・
・
・
「スーさん」
「なんだ」
「ログアウトしたいのですが」
「そうか」
「いや、そうかじゃなくて、どうやってログアウトするんですか」
「言葉でコマンドを言えばできる」
「えっと、それが出来ないんですけど」
「・・・バグだな」
「はぁ、やっぱりそうですか」
このVRマシンとやらがプロトタイプってことで何となくそんな予感はしていましたが、ここまでお約束な展開ってものあれだと思います。
なんだか、私いろいろ振り回されてますね。だんだん腹が立ってきました。
「スーさん」
「なんだ」
とりあえず、スーさんには私の現状とサーバーからログアウトしたいということだけでも伝えておきましょう。
スーさんは、なんでも出来るコマンドさんですから、ひょっとしたら解決策を持っているかもしれません。
「・・・というわけで、なるべく早くサーバーからログアウトしたいのですが」
「そうか」
「そうか。じゃなくて何か方法はないんですか」
「・・・無いことはない」
「あるんですか?じゃあそれを」
「だが、正規の手順でログアウトしない場合、データが損傷するおそれがある」
「えっと、どういった方法なのでしょう」
「killコマンドだ」
「えっと、ちょっと待って下さい。トトさんのマニュアル見ますから」
なにやら物騒な名前のコマンドがでてきました。kill=殺す ですよね。嫌な感じがします。そういや私、サーバーに来てから嫌な予感しかしてない気がしますが。
しかも、その予感が全部あたっている状況なんですが。。
地面に座るのも抵抗があったので、アクセスログを読むあいだおしりに敷いていたトトさんマニュアルを取って、killコマンドとやらを調べてみました。
---
■ kill
プロセスとかジョブとか、ともかく実行中の処理を止める機能だよ。
あ、でも使うときは気をつけて。
コレ使うのは、プログラムを止めても問題ない時だけにした方がいいな。
処理の途中だったらデータが消えたりする可能性もあるからね。
---
あぁ、なるほど。やっぱり危険でした。嫌な予感大当たりです。なんで当たるかなー。
ということは、サーバー上の私を停止したとたん、リアルの私の人生も止まっちゃうっていうのが一連の流れでお約束ですよね。
「それは無しの方向でお願いします」
「そうか」
「他にはないんですか」
「VRの機能については知らない」
「そうですか」
なんでも出来る事と、何でも知っているっていう事は違うってことですね。
でも、そうですね。まだ調べてないことがありました。
「VRの機能ついて調べられますか」
「ヘルプがあれば、操作方法がわかる。あとはドキュメントがあれば詳しいことも書いてあるだろう」
「なるほど。では試しに motoko.bin ヘルプ」
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No help. this version is prototype. now making a document. wait a few years! lol
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イラッ。きっと開発者の方の悪ふざけですね。ヘルプ書くのに数年待てって。こんなこと書くのは、きっと開発部の古上君ですね。
次にあった時がとても楽しみです。ふふふ。
「ドキュメントの呼び出し方を教えて下さい」
「ドキュメントは manコマンドで呼び出せる」
「わかりました。man motoko.bin」
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No manual entry for motoko.bin
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あれ?あ、そうですね。私ではなく、VRシステムのドキュメントを呼び出すんでした。
ちょっとイライラが加速してうっかりしてました。
では、もう一度。
「man VR-Prototype」
目の前にまた本が出てきました。
とりあえずアクセスログ(本)を閉じて、新しく出てきた本を掴みます。
もちろんトトさんマニュアルはまたおしりの下敷きです。座るのに丁度いいかんじなんです、これ。
「また本ですか」
とりあえず、座ったまま掴んでみました。
あ、スーさんは傍らで立ってます。座ればいいのに。
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VRシステム Prototype v0.8 マニュアル
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・
・
大体わかりました。
結論としては、外部からVRマシンを停止して貰えればログアウト出来るようです。
あとは、外部との連絡ですが、VRマシンの機能にチャット機能があるようです。それを使えばいいみたいですね。
ただ、問題があります。
この状況が、自分から進んでなった行為なのか、それとも誰かに実験台として。。。
ここ最近の(といっても半年分の記憶が無いですが)人間関係はとても友好的だったはずなので後者ではないと思いますが、
人事部のハゲ部長の嫌がらせという線も無いとは言い切れません。
とはいえ、いい加減この状況から抜け出したいので、一か八かチャットで外に連絡してみましょう。
「チャットオープン」
ーーー
智子「だれかいますか」
トト「トモりん、キターー」
智子「あ、トトさん。えっと誰か他に居ますか」
トト「ううん、ぼくだけだよ。ほんとちょー心配したよー」
智子「あ、心配してくれたんですね。ということは私が自らこのサーバーに入ったってことですか」
トト「え、覚えてないの?」
智子「どうやら、半年ほど記憶が無いみたいでして」
トト「まぢで!あー、やっぱプロトタイプあかんなー」
智子「えっと、本当にトトさんですか?すごく会話が流暢なんですが??」
トト「僕はぼくだよ。チャットなら普通に喋れるよ。やっぱり肉体っていうのは扱いが難しいよね。心拍数の上昇に伴う口角部の麻痺とか、まじありえないよ」
智子「それは、あがり症ってことですよね」
トト「そうとも言うね。さすがトモりん、今日も鋭いね!」
智子「って、そんなことよりも、早くログアウトしたいんですけど」
トト「えー、ぼくのお願いは?」
智子「私なにかトトさんと約束したんですか?」
トト「したよー。サーバーに入ってユーザーディレクトリ調べてって言ったじゃんー」
智子「そうですか。でも私半年記憶飛んでますし。っていうかコレ元に戻れるんでしょうね」
トト「たぶんだけど、ログアウトしたら戻ると思うよ。たぶんデータの転送処理で不具合が出たんだろうね」
智子「たぶんって。。。でもまぁ記憶が戻るんでしたら一応は安心しました」
トト「うん、だからさ、ログアウトするまえにサクッとデータ取ってきて欲しいんだ」
智子「トトさんだったら、こんなことしなくても取れるんじゃないですか?」
トト「取るだけなら、すぐに取れるよ。でも僕がやったって痕跡を残したくないんだ」
智子「えっと、それって犯罪では? 私は嫌ですよ、犯罪の片棒をかつぐのは」
トト「あー、そっか。記憶が無いんだよね。まいったなー。とりあえず簡単に説明するから聞いてね」
智子「はい。お願いします」
・
・
・
トト「と言うわけ。なのでお願いね。」
智子「わかりました。ではさっさと片付けますので、ログアウトの準備しておいて下さい」
トト「うんわかった。あ、そうそう田丸くんから伝言。お昼みんなで食べましょうって」
智子「はい、では急いでいってきますね」
ーーー
とりあえず、お昼までには片付けちゃいましょう。
というか、そんな話になってたんですねー
「スーさん」
「なんだ」
「えっと、遠見さんのホームディレクトリに飛びたいのでお願いします」
「わかった」
しかし、遠見さんが産業スパイ?そんな感じの人には見えなかったんですけどねー
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