第3話 メール
こんにちは、田端智子です。
今、とても困っています。
「ほんと、どうしようかしら」
声に出しても答えは返ってきません。
ならば、自らの頭で考えるしかありません。
ここは、サーバーの中。
幸い私の手には、トトさん直筆のパーフェクトマニュアルがあります!
きっと、この本に元に戻るためのヒントが!
と、思っていた時代も私にはありました。
SFじゃないんだから、サーバーの使用手引書のようなマニュアルに人間をサーバーから取り出す方法なんて書いてるわけないですよね。
手詰まりな気がします。
こんなことなら、スーさんを引き止めておけばよかった。
あんな不審者でも超能力があるなら元の世界に戻してくれるかもしれません。
ん?
超能力?
この世界はサーバーの中ですよね。
そんな世界にいる人なんて、私みたいなイレギュラーか、それ以外だったら・・・
「プログラム?」
プログラムだと仮定すれば、色々納得できます。
一瞬で場所を移動だって、ファイルを移動させただけと考えれば簡単にできちゃいます。
それぐらいのパソコンの知識はこの半年で覚えました。えっへん。
そのスーさんですが、どうも引っかかります。
どこかで聞いた気が。。。
すーすーすー
「あ、そうか!」
---
■ su
ユーザーの権限を一時的に管理者権限に切り替えることが出来るコマンド。
サーバーに入っているOSによっても動作は異なるけど、だいたい以下のコマンドで実行可能だよ。
su -
ちなみに、管理者権限になるには、パスワードが必要。
そのパスワードは・・・
---
トトさんのマニュアルにも載ってました。
スーさん(suさん)は、オールマイティな何でもできる便利コマンドさんだったのですね。
しかし、このパスワードは・・・
トトさん、マヂ勘弁して下さい。
とりあえず、スーさんがいればなんとかなるかもしれない訳ですね。
とりあえず、ここがサーバーの中ということがわかったので、色々と行ける場所を調べながらスーさんを探してみましょうか。
「まずは、トトさんのホームに行ってみましょう」
自分のホームの扉から、てくてく歩いて十数歩。トトさんのホームの扉まで来ました。
「では、おじゃましますー。ってあれ?開かない?なんで?」
扉は開きませんでした。
トトさんのマニュアルを見なおした所、パーミッションというのがあって、権限がないと入れないんだそうです。
その後他の人のホームの扉も開けようとしてみましたが、やっぱりだめでした。
うーん、権限・・・スーさん探しが重要になってきました。
「はぁ、スーさんってどこにいるのかな」
「呼んだか?」
え? 気づいたらスーさんがいます。
なんでも、呼べばどこでも来れるそうです・
何この神出鬼没ぶり。
「えっと、そのですね」
いきなり出てくると思わなかったので、何を言えばいいか頭が回りません。いえ、頭はぐるぐる回ってます。回って回って目が回りそうです。
「用がないなら帰るぞ」
あ、それは困ります。
とりあえず、何か言わなければ!
「え、えと、トトさん。そう!トトさんと連絡を取りたいんですがどうすればいいでしょう」
「メールを使えばいい」
・・・
なるほど。たしかにメールを書けばシステム管理部の人達に連絡が取れますよね。
でも・・・悲しいことに、トトさんのアドレスしかメールアドレス覚えていません。
だって、同じ部署で新人な私にメールする必要って無いですし。
しかたがないので、トトさんあてにメールを書きます。
「ところで、メールって、どうやって送ればいいんでしょう」
「呼びましたでしょうか」
ひゃぁー、突然耳元でささやくのはやめてー。
って、あら?この人がメールさん?見た目は、普通の郵便配達の人みたいですね。
「メ、メールさん?でいいのかしら。メールを送ってほしいのですがよろしいでしょうか」
「はい、わたくしがメールです。色々な方の熱い思いをメールにして送らさせて頂いております。
さて、貴方様はどのような言葉を送るのでしょうか。恋人への愛のささやき?憎い恋敵への恨みつらみを送りますか?
それとも他人になりすまして金銭を要求するのでしょうか。それともそれとも意味のない言葉の奔流を不特定多数に撒き散らすのでしょうか」
「ちょ、ちょっと待って下さい。私は普通に会社の先輩に連絡を取りたいだけなんです」
「・・・おもしろくない」
「は?」
「面白くありません。そんな何の変哲もないメールをわたくしが送ると思っているのですか」
「えっと、あなたメールですよね」
「もちろんわたくしはめーるです。しかしメールであっても、人が書いたメールの中身は気になります。えぇ、気になりますとも!
毎日毎日右に左にメールを送るという作業の中で人のメールを読むということだけが私の生きがいなんです!」
「えぇ〜」
・・・人のメール、読むんだ。。。
なんか、あまり関わり合いになりたくない人ですね。しかし背に腹は変えられません。ここは何とかメールを送ってもらうしかありませんね。
「あのー。では面白ければメールを送って頂けるのでしょうか」
「もちろんです!面白いのですか!?ぜひお話下さい」
「面白いかどうかはわかりませんが。。。メールに書いて欲しい内容を言いますね」
---
トトさんへ。田端です。突然のことで驚かれるかもしれませんが、私は今サーバーの中に居ます。このメールを受け取ったら
ここから脱出できる手段を探して助けてください。あなただけが頼りです。どうぞよろしくお願いい致します
---
「以上です」
「あまり面白くありませんね。ちょっとここをこうしましょう。あ、この文章もこうしたほうが、ここも変えちゃいましょう。うふ、うふふ。うふふふ。」
「あ、あのー」
「はい、できました。読み返しますか?」
「何だかすごく不安ですが、聞かせて下さい」
「では」
---
トトさんへ。あなたの天使、田端ちゃんだよー。突然お話してごめんねー。びっくりしちゃった?えへ。あ、でもでも許して欲しいの。
すっごく大事なお話があるの。きっとこれを読んだらトトさん超びっくりしちゃうはずだよー。心の準備はいい?
実は、田端っちってば、今サーバーの中に居いるんだー。どう?超びっくりだよねー?もうトトさんに会えなくてウルトラカナシス。
でねでね。私としては一刻も早くここから出たいわけなの。ほら、わたしってば美少女でしょ?きっとあんな事やこんな事になって
お嫁に行けない体になっちゃうと思うんだー。あぁ、コレを書いているあいだも目付きの悪い人が私を狙ってるよー。
トトさんー、あなただけが頼りなのー。お願い助けてー
---
「・・・」
「・・・」
「どうでしょう。我ながら素晴らしい文章が出来たと思いますが」
「・・・削除」
「あぁー、せっかく頑張って改定したのにぃ」
「もうメールはいいです・・・」
「はぁ、そうですか。残念です。他にご用はございますか」
「まったくもってありません」
「わかりました。またメールを送りたくなったら呼んで下さい」
「はい、ありがとうございました」
もう絶対呼びません!アレだけは絶対にないです。
でも、これじゃトトさんと連絡が取れないですね。さて、どうしましょうか。
「じゃあ、用事も済んだみたいだし、オレも帰るぞ」
あ、スーさん待っててくたんですね。意外とやさしいですね。
そうだ!
「スーさん、ちょっと一緒に散策しませんか?」
せっかく来てもらったので、もうちょっとお付き合いしてもらいましょう。
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