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ウルドが退出した部屋には、再び重い沈黙が降りた。ウルドのもたらした名は、それだけの重みがあった。やがて、先に口を開いたのは国王だった。
「……それで、お前の報告は?」
「はい、マステの現状をお伝えしようと。表にはまだ出ていませんが、水面下の動きが活発になってきております。ウルドの話と合わせると……、考えたくもありませんね」
苦い顔でルークは答えた。本当に、事態は思わぬ方向に進みつつあるようだった。
「本当に、彼女なのでしょうか…。」
「あれからもう十年だ。計算としては合う。それに、彼女ならば、当時の力から考えても、ライトリアとなる事は可能だろう。しかし、本当に彼女であるならば、どちらに付くのかが大きな問題となる。できればこちらに付いて欲しいものだが、どちらにしても、早急に手を打たねば……」
「戦争、ですか……」
言葉を濁した国王に、ルークがつづけた。
国王は、顔を上げ、壁に掛かっている歴代の国王の肖像画に目をやる。国王には代々、密かに伝わる言伝えが、幾つかある。やがて、ルークにも伝えなければならないその中の一つに、“闇と光”の伝説があった。
“闇の使者があらわれ光が陰りしとき、光の申し子あらわれ世界を救う”
《闇》のマステ、《光》のライトル、と呼ばれる現状、《光の申し子》と呼ばれていた彼女。何もかもがその伝説の通りだった。
「……マステの城にライトリアを潜入させる」
「父上!」
ルークは驚き、思わず真意を問い返した。敵国の王城に潜入させて、生きて戻ってこられる確率は、限り無く零に近い。まして、今、両国の間柄は険悪化の一途をたどっており、そんなことが見逃されるほど、甘い状況ではなかった。
「危険なことは分かっている。だがな、彼女かどうかということだけは、確かめなければならない」
その目を見て、国王は本気で言っているのだと、ルークにはわかった。
「……わかりました。5、6人のライトリアを選んで送ります」
「頼んだぞ」
そう言った国王は、机の上にあった書類を手に取った。
「では、私は、これで失礼します」
そしてルークは、国王の執務室を後にした。
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