最終話 青春はネバーエンド 5/6

 南方美波みなかたみなみは進学先の大学でも文芸サークルに入り、その美貌と気さくな性格から、男女問わず多くの友人を作る。約束通り矢川やがわを取材のため頻繁にキャンパスに招き、さらに美波を追って一年遅れでこころが入学してきたことで、東都学園文芸部の延長のような学生生活が繰り返されることとなった。卒業後は地元企業に就職。その数年後、大学時代から友人以上の関係となっていった矢川と結婚。幸せな家庭を築く。



 睡蓮すいれんこころは、美波の卒業後猛勉強して同じ大学に入学する。当然のように文芸サークルに所属し、心機一転、高校時代とは作風をがらりと変えた、壮大なアクション小説を書き上げる。美波の結婚には誰よりも涙し、そして誰よりも盛大に祝福した。自身も大学時代に小説を通じて意気投合した男子学生と結婚、名字を変えた。なお、構想中であった『時空探偵トキオ』は結局一行も書かれることはなく、幻の大作となった。



 矢川しゅんは卒業後地元企業で働きながら執筆を続け、自身の三作目が実写映画化される運びとなったことを契機に専業作家として生きる決意をし、同時に美波にプロポーズした。ミステリ作家速水疾駆狼はやみしくろうはその後もヒット作を生み出し続け、ミステリ作家の代名詞的存在となる。



 霧島凛きりしまりんは大学に進学後、教員免許を取得し、東都学園高校に教師として帰ってくる。熱心な教育姿勢、わかりやすい授業内容、その美貌。霧島先生は瞬く間に学園一の人気教師となる。ホームルームなどでは時折、東都学園伝説の存在「ディールナイトとディールガナー」の戦いの話を聞かせることがあり、それを語るとき霧島先生は、とても楽しそうな、そして懐かしそうな表情を見せるという。



 深井弘樹ふかいひろきは卒業後、地元企業に就職。翔虎しょうこ寺川てらかわを含めた三人とは終生の友人同士として付き合い続けた。高校二年に進学とほぼ同時に親密となった、サッカー部マネージャーの佐伯香奈さえきかなとも長い付き合いを続け、香奈が進学先の短大を卒業した数年後に結婚。仲睦まじい夫婦ではあるが、生まれてくる長男に野球とサッカー、どちらをやらせるかで意見が対立しているという。



 寺川たくみは三年に進学するとサッカー部キャプテンに就任。東都学園サッカー部を初の高校サッカー全国大会へと導くが、一回戦で優勝候補の高校といきなり当たり敗れた。進学先の大学でもサッカー部に所属し、自身がキャプテンを務めた天皇杯で、一度Jリーグクラブを破る快挙を達成してジャイアントキリングを見せる。彼自身も一得点を挙げ、その喜びをスタンドで応援する大友楓おおともかえでにアピールした。



 明神みょうじんあけみは、文芸部に入部した水野真樹みずのまきの書く原作をもとに描き上げた漫画が公募に入選。大学に通いながらプロ漫画家としてデビューする。ペンネームはふたりの名前を組み合わせた「水明すいめいアキ」水野も同じ大学に進学して、原作、作画としてコンビは続き、進学を機にひとり暮らしをしているアパートに、水野を引き込む形で同棲を始める。



 水野真紀は二年生に進学すると文芸部に所属する。部員不足に悩む翔虎たっての願いを聞き入れてのものだった。自身は小説よりも、シナリオに興味を持ち、あけみの漫画の原作を書き始める。大学進学して二年生が始まる頃、「水野くん、同棲しようよ」と言われ、戸惑いながらも水野はあけみと一緒の生活を始める。同棲の理由を水野は、「あくまで原作、作画のやりとりをスムーズにするため」と真っ赤な顔で周囲に語っているが、「恋人同士だよ」というあけみの証言とは食い違いを見せている。



 佐伯香奈は二年生に進学してすぐ、寺川と楓が付き合い始めた関係から、深井弘樹と徐々に接近し始める。翔虎となおの仲もその頃には知らされており、自分だけがあぶれているという焦りから来る気持ちだけなのではないかと思い、直と翔虎に相談を持ちかける。そこで香奈は二人から、弘樹がやさしく信用できる男だとはっきりと言われ、自分から弘樹に告白した。



 大友楓は、卒業後就職してからも寺川と順調に交際を続け、寺川が大学卒業後に就職すると、当然の流れのように結婚した。親友の深井夫妻の子供を見て目を細めるも、自身たちはまだまだ恋人気分を満喫したいように周囲の目には映るという。



 神崎雷道かんざきらいどうは、翔虎たちが卒業してすぐに、所有していた会社、研究施設のすべてを手放し、物心両面での若者への教育支援を目的とした組織を立ち上げる。自らの肩書きを、その組織の長と東都学園理事長の二本に絞った神崎は精力的に活動を続け、残る生涯を若者の教育と指導に捧げた。



 敷島誠しきしままことは、神崎が手放した素材メーカーの社長に就任するが、数年も経たないうちに「やはり自分は現場の人間」と社長職を辞して研究の現場に戻ってしまう。娘の知花ちかは、本人のたっての希望もあり、東都学園高校に入学させた。残された叢雲むらくも博士の技術は研究中だったものも含めて、神崎と相談の上、そのすべてを封印した。



 峰岸葵みねぎしあおいは、ご当地アイドルとしての活動を続ける傍ら、後進の育成にも従事する。全面プロデュースしたアイドルユニットをデビューさせ、彼女らの活動が軌道に乗ったことを機に、葵は現役を引退した。引退後は〈ジョイ・パートナー〉の営業職に就き、そこで振るう辣腕らつわんぶりは、早くも次期社長の声が聞かれるほどだという。



 世良恭介せらきょうすけは、バイトをしながらあてもなく日本中を転々とした末、地方都市のやはり小さな芸能事務所に落ち着く。営業の傍ら、マネージャー業務もこなし、四人組の声優ユニットの担当を任せられることとなる。その端正なマスクと人当たりのいい性格から女性社員からの人気が高いが、本人は生涯独身を通すと公言している。



 円山友里まるやまゆりは高校卒業後、母親が経営する旅館『山霞やまがすみ』で将来の女将となるための修行を開始する。烏丸からすまに対して特別な想いを抱いていたようだったが、それは結局口にできないままだった。友里の父親は病状が快復。知人が立ち上げた設計事務所で働き始めた。



 中村正則なかむらまさのりは大学へ進学。法学部に入り、法律関係の職に就くために猛勉強を始める。当初は裁判官を目指していたが、卒業後就職先で知り合い親しくなった女性が詐欺トラブルに巻き込まれ、相談を持ちかけた弁護士の振るまいに感銘を憶え、自らも弁護士を目指すようになる。中村の背広に弁護士バッジが光るようになるのは、それから数年後のことである。



 海老原海斗えびはらかいとは三年生で野球部キャプテンを務め、自らがエースとして活躍し、一回戦敗退ながらも東都学園を初めての甲子園出場に導いた。卒業後はうららの口車に乗せられて、結局立花たちばな建設に就職。放り込まれた現場で悪戦苦闘しながらも、心地よい疲れを味わっているようだ。その左腕は会社の野球部でも変わらず唸りを上げている。



 立花麗は卒業後、海老原を巻き込んで、親が経営する立花建設に就職。事務職としての採用だが、時間を見つけて勉強し、大型運転免許の取得に成功。人手が足りないときには大型トラックのハンドルを握り、『トラックお嬢』の愛称で社員に親しまれることになる。麗は次にはクレーン免許の取得も視野に入っているという。海老原とは休日に食事に行く仲となっている。



 野呂悠乃のろゆうのは二年生進級後から徐々に仕事量をセーブし、高校生としての生活に重点を置くようになる。悠乃は高校生活で同級生は元より、上級生、下級生の中にも多くの友人を作り、青春を満喫して卒業。芸能の世界に改めて身を投じた。後に悠乃は、厳しい業界でやっていけていることを「高校時代に作った大切な仲間たちのおかげ」と述懐している。その仲間の中には、新入生として入学してきた敷島知花しきしまちかも含まれていた。



 烏丸紘一こういちは、卒業後地元企業に就職。社会人として忙しい生活を送る傍ら、翔虎の家に顔を出すようになり、休みの日には翔虎の母親とともに小中学校へ剣道の指南へと赴いている。翔虎にも、もう一度竹刀を取らないかと誘いを掛けているが、翔虎にその気はないらしい。「尾野辺くんともう一度戦いたいな」との烏丸の言葉に翔虎は、「僕、烏丸先輩と試合したことありませんよ?」と、その言葉の真意にも気が付いていないようだ。

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