最終話 青春はネバーエンド 3/6
東都学園の近くに設備が整った総合病院があったことが幸いした。
戦いが終わると、生徒たちの体から武装は塵と化して崩れ落ち、二度と変身できるようになることはなかった。
翔虎と直は、普段となにひとつ変わることなく、家族、友人たちと触れあっていた。涙を流すのは、二人きりになったときだけだった。
四月が来て、翔虎と直は二年生に進級した。さらに月日が経ち、こころは文芸部部長を一年間立派に勤め上げ、卒業していった。新たに部長に任命されたのは翔虎。翔虎もまた、部長としての大任を
卒業式の壇上に理事長神崎が立った。正面には卒業生たちが椅子に腰を下ろしている。神崎は、講壇に手を突いて、
「諸君、卒業おめでとう。君たちの青春は今、ここに終わりを告げた。新たなる旅立ちのときが始まったのだ……」
就任してから変わることのない、卒業式の言葉が続けられた。在校生として聞いていたときと、卒業生として自分たちに向けて語られるときとでは、受け止め方も自然、違ってくるだろう。卒業生たちは神崎の目を見て、また、神崎も卒業生たち全員の目をゆっくりと見ながら、卒業に向けての言葉を語っていた。
「……在校生の頃から聞いているだろうが、私はここを羽ばたいていく卒業生たちに、私の好きな詩を贈ることにしている。もちろん、諸君らにも贈らせていただく。聞いてほしい、
私は青年が好きだ
私は青年が好きだ。
私の好きな青年は麦のように
踏まれるほど根を張って起き上がる。
私の好きな青年は
霜にあうほどいきいきとしてまろく育つ。
私は青年が好きだ。
私の好きな青年は木曾の檜の
まっすぐでやわらかで香りがいい。
私の好きな青年は鋼のバネのように
しなやかでつよくて弾みがいい。
私は青年が好きだ。
私の好きな青年は朝日に輝く山のように
晴れやかできれいで天につづく。
私の好きな青年は燃え上る焚火のように
熱烈で新鮮であたりを照らす。
私は青年が好きだ。
私の好きな青年は真正面から人を見て
まともにこの世の真理をまもる。
私の好きな青年はみずみずしい愛情で
ひとりでに人生をたのしくさせる。
「自ら輝き、そしてその輝きで周囲も照らす。そんな青年になってほしい、いや、なってくれると信じている」
神崎は最後にもう一度、体育館内を見回し、卒業生全員と目を合わせた。
卒業式が終わり、直は校舎裏に足を運んでいた。その先は、外壁と校舎の壁に囲まれた袋小路。
「直」
背後から声を掛けられ、直は振り向いた。
「翔虎」
「ヒロたち待ってるぞ。二次会、
「本当? やった、おごってもらお」
「こらこら」
笑いながら、翔虎も袋小路の先を見つめた。直も翔虎の視線の先を追って、
「ねえ、私がここにいるって、よくわかったね」
「そりゃ、わかるよ。だって、ここは……」
「そうだよね……」
二人の目に涙が滲んだ。
「おーい! ショウ!
「私も」
直も駆け出し、翔虎と並んで壁に触れた。
ここは、翔虎と直が亮次と初めて出会った場所。二人が手を触れた壁は、ディールナイトとストレイヤーとの戦いの余波を受けて修復されており、当時のままではなかったが。
「亮次さんに、卒業する私たち、見てもらいたかったな」
「そうだな……」
二人はそろって空を、うららかな春の陽光に満たされた青い空を見上げた。
……見ているとも。私、
「私は青年が好きだ」
『高村光太郎全集第二巻』筑摩書房 発行 より
※漢字の旧字体、旧仮名遣いは改めました。
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