研究員の日記 四月二十日(プロローグ 6/25)

 研究員の日記 四月二十日


 あれから動物実験が繰り返された。

 チューブ内のスペースが限られるため、実験に使用されるのは犬、猫といった小型から中型の動物に限定されたが、いずれも実験結果に変わりはなかった。

 全ての実験動物が、一度消えた後、再び何の異常もなく帰ってきたのだ。付けていた犬の首輪などが破壊されてしまうのも同じだった。

 実験後の検査でも、どの動物からも体調不良などの異常は見られない。実験開始前と何ら変わることがない、極めて健康体だということだった。

 私もそのうちの一匹と触れる機会があった。

 その茶色い雑種犬は人なつっこく、私は手や顔を何度も舐められた。

「お前は〈向こう〉で何を見てきたんだ?」

 そう問いかけたが、返事が返ってくるはずもない。そのつぶらな瞳が私を見返すだけだった。

 転送された〈向こう〉とは、いったいどこなのか?

 いや、まだあれが転送装置と断言出来たわけではないのだが、チューブの中のものが一度消えた以上は、その間どこか別の場所に行っていないとおかしいということになる。

 カメラを入れて映像を撮ろうという試みも過去にもちろんされた。

 しかしうまくいかなかったそうだ。録画状態で入れたカメラは、内部フィルムごと修復不可能なほど粉々になり、映像を無線で飛ばすタイプのカメラで試しても、映像が映るのはチューブ内が光に満たされるまで。カメラが消えると同時に映像も途絶えた。消えた瞬間破壊されるのか、電波が届かない程の遠くに行ってしまうのか。

 消えた先を見たことがあるのは、この犬猫たちだけなのだ。

「動物が無事なら」

 ここまで来たら、そう考えるのは必然だ。

 今日、二人の所員が名乗りを上げた。元自衛官の肩書きを持つ、屈強な二人の男だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る