第30話「トランプゲーム」
(ココ、奴隷紋は絶対見られないようにな)」
(え、うん。わかったけど…ボクが半亜人(デミ)ってだけで奴隷って言っているようなものだよ)
(王都では半亜人(デミ)でも奴隷で無い人が多いらしいんだ。ここでは奴隷じゃないってことにしておこう)
(…うん。わかった。…でもなんでそんな危険なところに自ら突っ込もうとするのかなリッカ君は…)
(ま、楽しそうだしなー)
「着きましたぞ、ここです」
「ここは…」
「冒険者ギルド、ですよね…?」
ついさっきまで吐きそうになりながらカレーを食っていた冒険者ギルドの前にきていた。しばらく見たくないと思っていたんだが思い通りにはいかないもんだな。
「吐き気してきた」
「おや、具合が悪いので…?」
「いや、なんでもない。なんでギルドなんだ?」
「街の中では基本的に賭けは禁止されております。ギルド内は逆に王都が管理している場所なので賭けが許されているのですよ。勿論、違法なものは禁止ですが」
「へー」
わざわざ俺達にそんなこと説明してくれるっていうのは、俺達のことをおのぼりさんだと知った上で騙そうとしてますって言っているようなもんだぜおっさん。
「入りましょう」
「はいよ」
「リッカ君、少し不機嫌?」
「こういうところではな、弱気に出たらそれだけで負けなんだ。ココも少しリティナみたいな顔してな」
「…リティナちゃんは言っておくね」
「ごめんやめて」
ギルドの扉が開く。午後を過ぎてからは酒場としても解放しているのか、そこには昼間より若干荒んだお兄さん方がひしめいていた。まだ15時くらいだぞ。飲み始めるのが早いな。
「さあ、こちらです」
「中央のテーブル?」
ギルドの酒場の部分。冒険者受付とは別のスペースの真ん中にある一つだけ赤いテーブルに案内された。結構目立ちそうだな。
「ええ。オープンにやらなければ不正を疑われてしまいますからな」
「なるほどな」
「なんか、ちょっと騙されてるかと思ったけど、大丈夫そうだねリッカ君!…ちょっと恥ずかしいけど」
ココ。最初っから危なそうだと誰も来ないだろ。最初は油断させるもんなんだよこういうのは。バカワイイから許すけど。
「…で、なんのカードゲームを?」
「トランプというのは知っていますかな?」
「トランプ?初耳だよね、リッカ君」
「ああ。初耳だな」
もっともこの世界ではだけど。…他にも転生者が居て普及させたのだろうか。とりあえず座りながら様子をみようか。知っているものだったのは幸いだけど、問題はトランプのどのゲームをするかだ。ん、赤いドレスの女も座るのか。つまりは4人で勝負するってことだな。
「異世界から来たといわれる者が広めたといわれておりましてな。彼はもう億万長者。それほどに興味深く面白いものですぞこれは。いや、ワシはほとんど初めてやるのですがね。4つのマークで分かれた1から13のカード。つまり52枚のカードを使って行うゲームなのです」
「…なんか難しいそうだねリッカ君…」
「そうだな。…で、そのカードではどんなゲームが出来るんだ?」
「ポーカーというゲームをしようと思います」
「初耳の言葉が多いな。説明してもらってもいいか?」
「勿論!まずカードをよくきって…」
「ふうん…よくわからないけど、トランプっていうカードを"混ぜること"を"きる"っていうんだ。"初めて"だからわからなかったよ」
「…っ!そうなのですよ。混ぜることをきる、又はシャッフルなどといいますな」
「へー。よくわからない言葉がたくさん出てくるね…覚えられるかなボク…」
「大丈夫だよ。俺も覚えるから。じゃあポーカーの説明をしてもらってもいいかな?初めての俺達でもわかるように」
「も、勿論!」
さあて。騙す気満々みたいだしここは素直に騙されてやろうか。
なんて考えると思うか?
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「いやあ!また悪いな!!偶然いい手が揃っちゃってさ。じゃあチップ代わりに使っていたこの指輪は返してもらうよ」
「………う、いや……そんな……」
「俺の後ろに何かあるのか?」
「…いや……何も………」
爆勝ちだった。そりゃそうだ。魔力が少ない相手に対して姿を消すことができる妖精と隔絶時間(シャッター)があるからな。あとは念話でココが負けないように気を配れば大したことじゃない。
「…こんな筈では………」
「どんな筈だったんだ?」
「いや…」
俺達の周りにいる観客(ギャラリー)達も驚いている。そりゃそうだろう。俺は確実に自分が勝てる時以外の勝負はほとんど降りているのだから。だからほとんど全勝。カードの操作とかはそれほどしていないみたいだったな。でも恐らく、周りの観客は"契約して念話できる"者達がほとんどだろう。
だから俺もシィルと縁(リンク)を繋いで相手のカードを見て伝えてもらっていた。カードのすり替えをしようとした時は隔絶時間(シャッター)で確認してその勝負を降りていた。カードを上手く隠して勝負していたら相手も勝負に乗ってこないこともあったけど、そんなときは隔絶時間(シャッター)で配られるカードを一瞬見て、カードを伏せた状態で勝負をしていた。ブラフでブタも出したが、いい役を揃えて一撃で掻っ攫ってくのは楽しいな。…まあこれはあんまりいい手じゃないんだけどな。怪しまれるし。まあ自分が勝つ勝負でしか大金は賭けてないんだ。勝って当たり前だ。
「さて…指輪を返してもらっても結構な金が余ったな。じゃあ俺達は帰らせてもらうとするよ。本当に誘ってくれてありがとう。じゃぁまた」
「お、お邪魔しましたぁー…」
ココも場の空気がおかしいことに気付いたようだ。ここまで来たら逃げるが勝ち。ギルド主体のギャンブルならそこまで絡まれずに簡単に店からも出ることができるだろう。
そう重いながら右手をギルドの扉にかけた瞬間、そのすぐ横にナイフが刺さる。刺さらなかったのが不思議な位近いそれは、当てようと思えば俺の背中にも当てられたんだろう。
「貴様…このまま逃げられると思っているのか…?」
赤いドレスの女が、先ほどまでの顔とは打って変わった、まるで獲物を見つけた豹のような笑顔でそう言った。
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