第29話「ご利用は計画的に」

「なんでこうなった…」

「ごめんなさい…リッカ君…」


ここは王都の中心部。俺達は王城正面の広場、初代勇者像の前のベンチに座っていた。無一文で。ベンチの両隣には大量の買い物袋とよくわからない何かで埋め尽くされている。なんでこうなったかを説明するには2時間程まで遡らなければならないだろう。



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「ワタシ達はとりあえず王城の方に向かうわ。王城の近くの騎士団宿舎に荷物を置いてこないと」

「リッカ達には悪いけど着いたら真っ先に騎士団の団長のところに顔を出すように言われていてね。大丈夫かな」

「いーよいーよ。俺達の荷物はその後でも。勇者広場?だっけ?そこで夕方頃に落ち合おう」

「リッカ君!ほら!このカレー!凄く美味しいよ!一口いる?ほら!あーん!」

「いらんわ」


とりあえず俺達は冒険者ギルドの中の食堂で昼食を食べていた。昼食をとりつつ今後の方針を決めるためだ。さすが王都。食堂にもカレーがあるんだな。ココが通い続けてカレーまみれにならないことを祈ろう。ココは以外は食後のコーヒーを飲みながら雑談していた。…コーヒー、なのか?コーヒーの味はするけどこれはコーヒーなのだろうか。いいや、コーヒーということにしておこう。


「…ご馳走様。じゃあワタシ達は先に行くわね。…ココ、それ残しちゃ駄目よ?」

「じゃあ僕もお先に。リッカ、ココちゃん、また後でね」

「おー」

「大丈夫だよ!特盛りだけど一週間振りのカレーだもん!カレーは別腹だもん!」

「…リッカ、頼んだわよ」

「はは…」


そう言って二人はギルドから出て行った。哀れみの表情を浮かべながら。





「………ごめんリッカ君…これ食べて…」

「だーかーらー言ったんだ、ったく…サラダだけにしといて良かった…」

「うぅ…すみません…」


ココは小食だ。でもカレーは別でいくらでも食べることができる。…でもそれにも限度があるというものだ。冒険者ギルドなんて腕に自信のある屈強な戦士達が集まる空間、そこで出される特盛りのカレー。いくら好きといえど胃袋の容量が変わるわけじゃない。


「…ん。旨いな。で。夕方までどうしようか」

「そうだね…お買い物とか?」

「んー確かに旅の準備とはいかないまでも、何処になんの店があるかは把握しておきたいな。そうするか」

「…デート?」

「いや。市場調査」

「…照れなくてもいいんだよ?」

「これ全部食べてくれてもいいんだよ?」

「うぅ…すみません…」



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「そこからだな」

「はい…」

「行く店行く店で店員さんと仲良くなって」

「うん…」

「買わされるだけ買わされて」

「買ってしまいました…」

「カレーの具材も買いまくって」

「それは必要経費だよ」



「「………………」」



「…なんかよくわからない置物とかにも手を出し」

「出しました…」

「母さんへの土産に何故か武器屋でハンマーを買い」

「前新しいの欲しいって言ってたからつい…」

「アクセサリーショップでそれなりに高いペアの指輪を買い」

「それは必要経費だよ」



「「………………」」



「…反省しているのかね君は…」

「はい…反省してます…」



…まあ初めてのアラハン以外の街、それが王都であれば尚更だろう。旅の途中に寄った街ではほとんど自由時間は無かったからな…御者兼王女様のせいで…


「まあ過ぎたものは気にしても仕方ない。方法を考えよう。明日から俺達がそれなりに動くための資金をどうするかだ。そう落ち込むなココ。次から同じ失敗を繰り返さなければそれでいい。俺もついていたのにこうなったんだ、俺にも非があるしな」

「リッカ君…!一生、一生ついて行きます…!!」

「でも次やったら一週間カレーのカレー粉抜きな」

「多分それもうただの美味しい野菜スープだよ………」


ココも反省しているようだしいいだろう。さて…これからどうするか。今は14時。夕方まで時間もある。それまでに出来ることはあるかね。




「少しいいですかな?」

「…?なんだ?」


随分恰幅のいいおっさんが話しかけてきた。横には赤いドレスを着た赤髪…ピンク気味かあれは。…の綺麗な女性も居る。…なんだ?場違いだろ。ここは一般層が沢山集まる場所だ。貴族階級は王城の裏のほう、北区が活動の中心のはず。たまに母さんから聞いてたからな。それくらいは把握してる。





…そうか。俺達のこの姿を見て話しかけてきたということはそういうことか?


「少し良い儲け話があるのですが…」

「ふうん…どんな話?」

「何、賭け事などはお好きですか…?」

「嫌いではないけど生憎賭けるものがなくてね」


予想通りのパターン。金に困っているものに声をかけてギャンブルに誘い、更に身包みはがそうって言う魂胆だろう。…うまく利用できないかね。


「なんでもいいのですよ。たとえばその全ての指についている指輪。それを賭けては如何ですかな?」

「…なんだ、こんなもんでも大丈夫なのか?」


召喚石(ボックス)の召喚紋が描いてある宝石。確かに少し高価ではあるけど賭けに使用できるくらいの物なのだろうか。さっきからちょいちょい怪しいな。


「ええ。勿論」

「賭けは何のゲーム?」

「シンプルなカード遊びですよ。誰にでもできるものです」


この世界のカードゲームか。…まあ、大丈夫だろ。3つほどインチキ出来そうだし。…それにこのおっさん達もただ単に正々堂々賭けをしたいわけじゃないだろう。それなら北区にいる富裕層相手に声をかければいいだけだ。何か裏があると思って間違いはないな。


「…リッカ君、ボクが言うのはあれだけど、やめておいたほうがいいよ…」

「わかった、やろうか!暇だし!!」

「リッカ君!?」

「ほほ!若者はそうでなくては!!案内しましょう!!!」




念信用の指輪に一声かけ、俺達はその2人の後を追った。

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