第31話「赤ずくめの女」
「…帰してもらえないのか、俺達は?」
「いや何、まだ18時だ。子供だとしてもまだ寝るには早いだろう。どうだ?最後に大勝負でも」
この赤ずくめの女。さっきまではクールで何も話さない美人さんだとしか思わなかったけど…この人がこの賭け場のリーダーだな。恐らく観客(ギャラリー)の契約紋の主もこの女だろう。さっきの恰幅のいい男は怯えたように後ろに縮こまっているし。
「いやいいよ。友達と約束もあるしな」
「さっきのイカサマを見逃してやる、と言っているんだ。それくらいわかるだろう?」
…ほう、見抜いてやがりましたか。見抜いて泳がしていたと仰りますか。そうですか。
「何の話かわからないが、イカサマをしていたのはお前も一緒だろ?周りの男達の契約紋か奴隷紋を確認すればすぐにわかるだろ。こっちには、ギルド以上の立場に直訴するツテもあるんだ」
勿論そんなもんどこにもないけど。
「じゃあこうしようか。炎よ、ハンニバルが求めに応じよ。『組み伏せ』バインド」
『アウチ!』
「っ!シィル!」
うちの可愛い妖精が空中で炎に囲まれた。こいつ、シィルが見えていたのか!
「…残念ながら見ることは出来ないが、その反応を見るに成功したようだな。そこに妖精がいるのだろう?感覚でなんとなくわかるんだ。それの解放を賭けの対象にしよう。なに、こちらもちゃんとそれの解放以外に大金を賭けるさ。お前が勝ったら妖精も解放、また大金も手に入る」
『リッカ! コレ! アッタカイ!』
「そうか、もうちょっと温まっててくれ」
うちのオトボケ妖精は平気そうだから置いておこう。シィルが捕まったことで俺のイカサマが一つ減る。ただまあもうシィル頼みのイカサマはあいつにはもう効かないだろうけど。問題は、イカサマの証拠を捕らえられているということだ。最悪大事になる。何せ国が管理してるギルドの中での不正だからな。
赤ずくめのピンク髪女は髪を左右で結い始めた。…別に結わないほうがいいんじゃないか?さっきまでのほうが幾分か綺麗だったぞ。夜の酒場が似合いそうな大人系美人だったのに。だがあれだな、ツインテールとはいえ女性が髪を結ぶ姿というものは良いものだな。
「…リッカ君、こんな時にあれだけど、ふしだらなこと考えてない?」
「ココって人の心読めるのか、凄いな」
「…………また浮気?」
「痛いです。また肩が痛いです。すみませんでした」
「やるのか、やらないのか。まあ選択肢はないんだけれどな。どうする、少年?悪い話じゃないだろう?なんだったら私が奴隷にでもなってやろうか?」
全くもってその通りだ。もうこの女は俺達を逃がすがない。精精前向きに解釈して、受けてたち勝てば見逃す、負ければ妖精は貰いお前らの罪も報告する、というといったところか。もう脅しだ。
…何が悪い話じゃない、だ。俺達にはほぼ不利益しかない。浪費した分の金はもう掴んでいるからな。奴隷なんてもう二度と作る気はないし。………こいつらには少し痛い目を見てもらおうか。
「うちの大事な家族が捕まってるんだ、やるに決まってんだろ」
「グレート!では準備をしようか!次は一対一だ!」
なんか変なポーズしてかっこつけてる。ああ、この人さっきまでは清ましてたけど多分ナルシストだ。自分大好きオーラがぷんぷんする。地雷だ。まああの自信に一対一の宣言。小細工はいらないってことだな。中々やり手みたいだが、まずったか…?
「先にこの娘を家に帰してもいいか?この娘は無関係だしな」
「…リッカ君!何言ってるの!?ボクもちゃんと見守るよ!」
ココならそういうと思ってたよ。ありがとうな。
「いや、この場は国主体だからそんなに問題はないんだ。問題はその後なんだ」
「その後?」
「ああ。たとえば俺がここで勝って大金を掴んだ場合に、ここを出た瞬間に襲われる可能性がある。その場合を考えて、家で待機していて欲しいんだ。俺から指輪の念信も何も無かったら守衛を呼んでくれ。俺と一緒じゃココも襲われてしまうからそれができない。わかってくれるな?」
「………わかったよ。無茶しないでね、リッカ君」
「おう、またあとでな」
「うん」
ココは少し元気のない、心配気な声を出してギルドを後にした。赤い女は何も言わないでくれているってことは勝負自体はちゃんとやろうとしているんだろう。
「もういいか?なに、襲いもしないし襲わせもしないさ。純粋にゲームに興じたいだけだよ」
「人質使った純粋なゲームがあるかよ。まあいいよ。とっととはじめよう。何のゲームをやるんだ?」
「ブラックジャックだ。どうせ知っているんだろう?」
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【ブラックジャック】
カードの合計の数が21を超えないように、プレイヤーが相手より高い点数を得ることを目指すゲーム。
絵札は全て10。Aは1か11にすることができる。
最初に1枚伏せられたカードが配られ、それは自分にしか見ることができない。その次に配られるカードは表を向いており、相手にも数を知られてしまうが、それは相手も一緒だ。
最初にその2枚が配られ、それ以上カードを引きたい場合はヒット、そのままでいい場合はスタンドと宣言をする。
細かく言えば
スプリット…
配られた2枚のカードが同じ数字の場合、初めに賭けたチップと同額のチップを追加することで、それを2つに分けてプレイすることができる。自分をもう1人のプレイヤーとして追加する、1人2役みたいなもの。
ダブルダウン…
最初の2枚のカードを見てからチップを2倍にしてもう1枚だけカードを引くこと。
サレンダー…
手が悪場合に賭けたチップの半額を放棄してプレイを降りること。
まあそんなところだ。覚えなくても大丈夫だけど覚えておくと悪い大人の世界に入ることができるから覚えておいて損は無いぞ。多分な。
俺はパソコンゲームで覚えた。あのゲームは異常なほど作りこんであってイカサマも仕様に入っているという素晴らしいゲームだった。暇な時ついはまってやってしまったけど、あの経験がここで生かされることを祈るばかりだ。
「さあ、始めようか。親は…5回連続で同じ者が行ったあと交代でいいな。掛け金は子が決める。チップなんて面倒はものはなしだ。硬貨をそのまま使おう」
「…そのままネコババする馬鹿にも見えないしそれでいいよ」
赤く大きいテーブルには俺と赤女だけが座っている。俺はテーブルの上に片足を投げだし、赤女は右手で口を隠しながらこちらを楽しげに睨んでいた。
時刻は既に7時。辺りは暗くなり、この酒場の蝋燭の光に包まれている。ところどころ煙草を吸う輩もおり、まさに中世の賭け場といった様相だ。15歳のガキが居る以外は。
「トランプは3組使う。出たカードを覚えられないようにな」
「まさかカードの順番を先に全部覚えてるなんて言わないよな?」
「まさか。それは出来たとしても反則だ。カードをきって配るのはギルドマスターにでも頼むか。おい!ガルディア!!こっちにきて手伝え!!!」
ギルドの奥からのそのそと動く影が近づいてくる。…でかいな。2メートルはあるぞ。
「…オレはいつからあんたの小間使いになったんだハンニバル」
「まだお前がやる方が不正と思われないからな。トランプを配るだけでいい」
随分と筋骨隆々としたお兄さんが出てきたもんだ。茶髪で短めのスポーツ系イケメンだな。年はそれなりにいってそうだけど。
「…はあ…小僧、面倒なのに絡まれたな。オレはガルディア。この冒険者ギルドの主だ。ギルドマスターの名にかけて不正はしない。もししていると感じたらその勝負はなしにしてもいい。…すまんな、この馬鹿のせいで」
「大丈夫ですよ。勝ちますから」
「ほう?面白いガキだなお前。ハンニバル、お前が負けるのを初めて見れるかもな!」
「ほざけよガルディア。私は負けん」
この女の名前はハンニバルか。随分男っぽい名前だな。
「じゃあ………リッカとか言ったか。始めるぞ」
「どこからでもかかって来いよ、ハンニバル嬢」
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