第25話「大人の話」

「何青臭いことやってるのよ気持ち悪い…」


ラークと軽く取っ組み合って遊んでいる最中。ふと声がした方を見るとリティナがなにやら上目遣い気味にこちらを見ていた。上目遣いでここまで人のことを見下されているような気持ちにさせるなんて、一種の才能だと思うぞ。


「仲いよね2人は。ボク達もやってみる?」


ココが両手に大量の食料を持って、街の奥からこちらに向かってくる。それどうするつもりだ。食料はもう十分過ぎるほど買ってるんだぞ。誰が食うんだそれ。…まあ少ないよりは多いほうがいいか。


「い、いやよ恥ずかしい!」

「えー?いいじゃん、やろうよリティナちゃん!」


これはココが荷物を持っていなかったら確実に良い絵が撮れていたな。カメラなんてこの世界にまだないけど。


「あ、リッカ君。これ玄関に忘れてたよ」


大量の食料を俺に渡すと、ココは小さな袋を俺に見せてきた。ていうかこの食材の袋めっちゃ重いんだけど。何がどれくらい入ってるんだホントに。


「…俺が忘れ物をするだと!?」

「あんたが一番してるでしょ…前ピクニックにパジャマのまま来たのは誰よ…」

「あれは集合時間と服装の体裁を天秤にかけた結果だ。忘れ物じゃない」

「考えた末なんで体裁を捨てたんだい…」

「はは…リッカ君らしい…のかな…?」


とりあえず先に食料を竜車に入れておいた。その後、竜車にもたれながら小さい袋の先に結ばれている紐を解いてみる。食料を竜車に入れるのを手伝ってくれていたココと一緒に中身を覗いてみた。


「………………………………」

「………………………………」

『………………………………』


「(……少しの間、その中に隠れてろ)」

『(ワカッタ!)』

「(リ、リッカ君どういうこと!?)」


瞬時に縁(リンク)を繋ぎそう命じた。精霊の森にはアラハンの悪夢からも何回か行ったが精霊達に会うことはなかった。少し寂しかったが森の近くであんな出来事があったんだから仕方ないと自分に言い聞かせていた。なのに、どういうことだこれは…俺が聞きたい。


「リッカ、その袋何を入れてたの?」


リティナが少し興味深そうにこちらを観察している。なんか今ばれたら負けな気がしてきた。


「…ああすまん、ココの下着だった」

「ちがうよ!こんな下着ないよ!」

「…他の女の下着が入ってるの…?」

「…リッカ…そんなに甲斐性があったんだね…」


なんか話が変な方向に向かおうとしている…!


「おいココ!紛らわしい言い方をするな!」

「リッカ君こそもっと普通な物答えてよ!」

「…じゃあなんなのよ?」

「後で話す!今は、駄目な気がする!街中だし人もそれなりに居るし!」

「…僕はなんとなく予想がついたよ。確かに神聖な存在だからね、ここでは隠しておいたほうがいいと思うよ」

「え、ちょっと!何よ!ワタシだけ仲間外れなの!?」


ラーク、賢くなったな!リティナは相変わらずあほの子だな!



「やあ、リッ君。…もしかして待って貰ってしまっていたかい?」

「お、武器屋さん。ちょうどいいところに」

「遅くなってしまって悪いね、色々準備しててね」


これは話を逸らす絶好の機会だ。良いタイミングで来てくれた、みんな!


「………後でちゃんと見せなさいよ…」

「…背中をつねるな、ちゃんと見せるから」

「…?どうしたのリッカ君?とうとうリティナちゃんにも告白されたの?」


「ワタシはまだしてません!!!」




「「「「「「「……………………」」」」」」」」




「…気を取り直して、リッ君達がいなくなると寂しいよ…ぷっ」

「そうだね武器屋…ほんと、こういうのが見れなくなると思うと…ククッ」

「リティナちゃん…ご、ごめんね?」

「意外とモテるのなリッカは。あたしはこんな頭でっかち面倒臭いと思うけどな」


ねじれる。ねじれていく。俺の肉が。今は180度くらいだろうか。


「リティナ、背中、すんげえ、痛い」

「リッカ…?勘違いしたら、ぶっころすわよ…?」

「わかった、わかったから。動揺するなって。冷やかされるだけだぞ」


「だから!勘違いすんなって!!言ってんでしょうが!!!ドロップ!!!!!」



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「よし…俺達からの差し入れは竜車に入れ終わったよ。中身は後で見てくれ。なんか照れくさいからな」

「皆、たまには顔を出しなよ。この街は何か特別なものがあるわけじゃないけど、僕達が精一杯出迎えるよ」

「ココちゃん!リティナちゃん!!手紙書いておいたから読んでね!!!」


「リッカ。あとラークも。ちょっとこっち来い」

「…なんすか…少し足が痺れてるんですが…」

「はい?なんでしょう」


酒屋さんは俺達を真正面から見据え、ゆっくりと、口を開いた。


「世界を守れとは言わない。だけど、仲間を守れるような男になれ。それが男のやることだ。あたしが惚れた男もそうした。ぶん殴ってやりたいけど、今は感謝してる。できれば、死なないで帰ってこい。そして…」


右拳を突き出した。俺とラークは目を見合わせ、少し笑いながら、同じく拳を突き出し、合わせる。


「…なんかあればあたし達大人を頼れ。あたしらのツケをお前らに払ってもらうようで悪いが、頑張ってこい!!!」


「…はい!」

「…ありがとうございます!!!」


素直に"はい"なんて言葉が出てしまうくらい、清清しい顔で背中を押された。これは頑張らないわけにはいかないな、皆、ありがとう。…俺がただ遊びに行くんじゃないことくらい、皆とっくに気付いてたんだな。


竜車に乗り込む。窓から顔を出し、手を振った。






「「「「いってきます!!!」」」」


「「「「いってらっしゃい!!!」」」」





+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++





「…行ってしまったね、本屋」


「そうだね武器屋。…悲しいね」


「本当に、太陽のような子達だよ。特にココちゃんは、リッカ君と出会ってから変わったね」


「そうだね。リティナちゃんの影響も多大にあるんだろうけどさ」


「ココちゃんファンクラブのNo.1としては、リッ君の奴隷になったと知った時はぶん殴りたくなったものだけど、こう、息子が旅立つってこんな感じなのかな」


「そうだと思うよ。僕も同じ気持ちだ。なんてったってリティナちゃんファンクラブNo.1の僕も、さっきの一連の流れは胸にどっしり覆いかぶさる何かがあったけど、今は清清しいよ」


「本屋!」

「武器屋!」


「……………この姿をあの子たちに見られなくて良かったわ…」


「……………こいつらは本当、昔からなんにも変わらないな…」

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