第13話「パーティの始まり」
周りの雰囲気が変わる。不穏な空気と言うか、今から何かが起きそうというか、そんなちょっと嫌な感じだ。これから起きることは嫌なことではないのだけれど。
そして突如、俺の左斜め前の開けた空間に、雷鳴とともに巨大な雷が落ちてくる。地面が大仰にひび割れたせいで、少しバランスを崩しそうになりながらも走るのは止めない。…が、もう少しこちらのことを考えてほしいものだ。…いや、それくらい憤りを感じているのかもしれない。
「リッカ!話は聞いけどどういうことだ!ココちゃんからは連絡はない!」
赤髪最強幼馴染1号が空から降ってきたらしい。しかも聖剣(プロビデンス)を持って。王国騎士団の鎧まで着こなして…頼りになる仲間だよ、ほんとラークは!目がマジだ!
一歩一歩、電気を発しながら俺の左横を駆けていた。ところどころ地面にヒビが入る。お前また少し化物になったな…
「説明できるほど情報がない!とりあえず急ごう!!」
「わかった!!」
「ちょっと、待ちなさいよ!あれどう意味!ココがさらわれたってどういうこと!?」
気がつくと右には木の杖に乗った幼馴染2号が並走していた。というか浮いていた。大きい杖に腰掛け、おとぎ話の魔法使いのような黒い帽子を右手で押さえながら滑空している。俺もそれ欲しい。いや、俺がそれを操れる保障はないんだけさ…リティナも王国騎士団の魔道布のマントを身に付けてきてる。
「すまん、まだわからん!」
正門の前の広場にはそれらしき人物はいない。そのまま正門を潜り抜ける。もう街の外に行ってしまったか…
「リティナ、倍加傾向(ムーアトレンド)!先を見てくれ!!」
「わかってるわよ!倍加傾向(ムーアトレンド)!!!」
リティナの天啓、【スキル】倍加傾向(ムーアトレンド)。身体能力を倍加させていくことができる能力だ。発動から時間が経てば経つほど効果が増していくし、魔力が続く限り上限はない。なんたるチートだよ全く…今
はそれが頼もしいんだけどさ!
リティナが前方を見つめる。まるで人形になったかのように動かず、集中し続けるリティナ。ほんと、言葉を発しなければ相当な美人なんだけどなあ…
「リッカ!こっちばっか見ないで!!集中できない!!!」
「あ、悪い」
急に顔が赤くなるリティナ。…違う、絶対違う。こんな時になんだが、絶対違うはずだ…
「リッカ、集中しよう」
「ああ、すまん」
「…白い奴らね!もう1キロは先に行ってるわ!竜車に乗ってるみたい!」
竜車…ダチョウくらいの大きさの走竜が引く馬車みたいなものだ。…一般的な移動手段だがそんな準備をしているってことは、計画的な犯行なのか…?あまりにも移動が速過ぎる。
「リッカ、先に行く!すまないが後から追いついて来い!」
「私も先に行って足止めしてるわ!とっとと来なさいね、リッカ!」
「おう、頼んだ!俺のファンクラブ会員1号と2号!」
既に俺が2人の背中を見るくらいに前進していた勇者と魔法使いだったが、一瞬動揺したように歩を止める。2人を越してしまった。
「おら急ぐぞお前ら!」
「…ばれた…リッカにばれた…」
「リティナ、いずれ知られることだったんだ…」
直後、凄まじい勢いで俺を追い越していった。土煙が口と目に入る。
「リッカ!勘違いしたらぶっころすわよ!!!!!!!!!」
まるで負けた悪役のように、逃げてないのに逃げ足だけは速い三下のように、叫びながら過ぎ去っていく。~しないでよね!なんて優しいものじゃなかった。既に殺人宣言である。
「リッカ、僕は止めたんだよ?でもどうしてもリティナが創ろうっていうからさ?仕方なくだからね?」
「言い訳してるんじゃないわよラーク!!!!!とっとと行くわよ!!!!!!腹いせに全員ぶっ飛ばしてやるんだから!!!!!!!」
おー速い速い。まあ結果オーライだな。あいつらの毒気も抜けただろう。万が一、犯罪でもなんでもなく正当な行動の可能性があるからな。特にココは奴隷で半亜人(デミ)だ。どこでどういうことになるかわからない。もしかしたら王都から奴隷の招集、だなんてこともありうる。
「まあなんにしても、急にさらうなんて許さないけどな」
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「…すまん、待たせたな…ハアっ…ハアっ…」
「遅いわリッカ。もう足はつぶしたわよ」
「大丈夫、僕らもついさっきついたばっかりだよ」
やめろラーク。なんでお前はそんなに女子力高いんだ。
俺が着くころには白い竜車の前にラーク、後ろにリティナがおり、草原の道をふさいでいた。左右に逃げようと思えば逃げられるかもしれないが、リティナの風の魔法とラークの雷の魔法で空間一体に簡易的な結界を作っているため、実行に移してもそれは叶わないだろう。
竜車を操る御者は既にラークによって気絶させられており、竜車の車輪はおそらくだが、リティナの火魔法によって燃やし尽くされていた。なんとも白の竜車に映える美しい黒である。
「…えげつないな。もし、万が一王族とかだったらどうすんだ」
「王族でも魔族でも関係ないよ。まあ、だけど話は聞かないとね」
右手にもった聖剣に雷をまとわせるラーク。その目は冷静だが、何が起こっても対処できるように少し中腰目に構えている。
「出てきなさい悪党共!今ならまだ全殺しで許してやるわ!!出てこなかったら竜車を土魔法で押さえつけて出られないようにして5時間くらいかけてゆっくり蒸し焼きにしてやるんだから!!!」
「ココが美味しくなっちゃう。止めなさい」
だが脅しはそれなりに効いたらしく、中から1人、ココの身体を押さえつけながら、サーベルをこちらに向けた男が出てきた。190cm位はあるだろうか…ひげ面の大男だ。ココの身体を乱暴に振り回しながら、馬車の前後のラークとリティナに気をつかいつつ、ドアの正面にいた俺に話しかけてきた。白いローブ以外何も見えないが、かなりがっしりとした体格をしている。…まともに相手をするのはきつだろう。
ココは意識がないらしい。これはまあ、好都合といえば好都合だ。いざとなったらあれも使える。
「お前達、悪いことはいわねえ。今すぐ逃げ帰って今日のことは忘れな。なに、こいつにも悪いことはしねえよ」
「そういう奴、大体ろくでもないことさせるんだよ。もっとマシな嘘でもついてくれれば諦めるかもしれなかったのに、それじゃあ無理だな。もう一度やり直してくれ」
「…お前、おもしれえな…で、なんなんだこりゃあ。正義の味方ごっこか?」
なんなんだ、って何について聞いてるんだ…?…俺達の関係性か?
「まあ…そうだな、勇者パーティってところかな。あいつが勇者でこっちが魔法使いだ。俺は…遊び人にでもなるのかな」
「ほう…てめえが勇者か。軟弱そうな顔してるが」
「やめてくれ、リッカ。俺達が組むとしたらリーダーはお前だ。それにお前は遊び人じゃなく…いや、もうわざわざこっちの情報を出す意味はないな。僕を勇者と知らないということは勇者目的ではないんだな。何が目的だ…?」
「勝手に正体ばらさないでよ馬鹿リッカ!一番弱いリッカがリーダーのはずないでしょ!ワタシがリーダーよ!リッカは参謀。ほら参謀、どうするか決めなさい。ワタシ、結構我慢してるんだからね!」
「酷い言われようだな。まあいい。あんた、なんか言っておくことはあるか?」
「いや?ねえよ。お前らこそどうなんだ?」
突然、周囲一体に嫌な匂いが立ち込める。何かが腐った匂い。いや、そういったものだった何かの時間が経ち、少し薄れたような、なんとも言いがたい、だけど確実に人を不快にさせるそれの原因は地面から現れた。
死獣(アンデット)。魔獣達の死骸を無理矢理魔力と魔法で制御する禁術。これは魔王国の魔族にしか使えない魔法の一種だ。5年間、知識を蓄え続けてきた俺にはわかる。…これは魔王国の召喚術の一種なのだから。
前にいる敵から目は離さないが、どうやら30匹ほどの死獣(アンデット)に囲まれているらしい。それは狼、鳥、牛、虎、様々な種類の姿で形成されていた。生きているものと違うところといえば、白一色の骨だけの姿ということだ。
「本当に白が好きなんだねえ…魔族…それにその禁術。魔王の差し金か…?」
「それがわかったらどうするんだ…?少しは抵抗してみるか…?」
「そうだな…」
俺はだるそうに首に手を当てながら、首の骨を鳴らしてみる。これを使うときはそう、出来る限り敵を油断させることが大事だ。出来る限り力を抜き、出来る限り余裕を見せ、戦闘態勢に入っているように見せない仕草をする。
「じゃあ…少しだけ抵抗してみようかな」
「リッカ、少しで足りるのかい…?君、見た目以上に切れてそうだけど。リッカは怒ってるとき目を見開いてるんだよ」
「…そんな目したの、街に入ってきた魔獣を1人で倒した時以来ね」
やめろ、折角油断させようとしてるのに。変な情報を相手に与えないでくれ…
「まあいいや…さあ、仲間(パーティ)の始まりだ」
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