青年期『アラハンの悪夢』

第11話「なんで俺がこんな目に」

写身から数年経ち、俺は32歳になっていた。





いや、前世と合計でな。今の世界では15歳だ。


ラークは俺達の住む街、アラハンに来ている王国騎士団の副隊長の元で修行を続けている。16歳になったら王都に行き、王国騎士団に所属するらしい。既に副隊長を凌駕する勢いで強くなっているらしく、練習として大型の魔獣討伐にも参加している。それとファンクラブが出来た。もう一度言う、ファンクラブが出来た。会員証まであるらしい。時代錯誤もいいとこである。


リティナも同じようなもので、王国騎士団の魔法騎士から魔法の手ほどきを受けているらしい。リティナ自体はまだ迷っているらしいが、ラークについていくことになるだろう。そして彼女にもファンクラブが出来た。でも同世代というよりは、商店街のおっさん連中とか、俺達の親世代のおっさんとかから人気がある。歯に衣着せぬというか、そんなキャラになった。ようはツンデレ幼馴染の誕生である。


ココはといえば…


「リッカ君、起きて。今日はバーのお姉さんと戦闘訓練なんでしょ」

「ん…いや…あの人一昨日飲みすぎてそれどころじゃないらしい…だからもう少しまどろみの中に…」

「…もう。朝ごはん作っておいたからちゃんと食べてね。何もないからってダラダラしたらダメだよ。じゃあボク、仕事に行って来るから。鍵ちゃんとかけてね。わかった?」

「はい…お母さん…」

「ボクはリッカ君のお母さんじゃありませんっ!」


ココはそう言うと足早に俺の部屋から出て行った。別に同居しているわけじゃない。ただの通い妻状態なだけだ。原因は母さん。



『このところココちゃん見てたらお父さんに会いたくなってきちゃった!2年くらい王都で出稼ぎしてくるからリッカのことよろしくね!リッカ、弟と妹どっちがいい!?』

『なんでもいいよ』

『え、は、え、ママさん!?』

『あーなると母さんは手に負えないよ。俺5歳の時に1年間1人暮らししてたから。マジで捨てられたかと思った』

『なっ…』

『リッカったら…夕飯の献立聞いた時の返事じゃないんだから…まあいいわ!よろしくね!』

『いってらー』

『マ、ママさーん!!!!!』



というようなことがあった。わが母ながら理解に苦しむ。15歳で妹できても攻略対象になる頃には俺はおっさんじゃないか。そこじゃないか。


そんなこんなで手回しの早い母は町長になんやかんやして俺の世話=ココの仕事みたいな図式を作り上げた。今ココは他の町奴隷の子達と一緒にうちの畑仕事に行っている。母さんの代行ということでうちの畑を管理しているらしい。俺?手伝おうとしたら怒られるんだもん、薪割りしかしてないよ。


…奴隷の人達ばかりに仕事をさせるのが心苦しいのでサンドイッチあげたりしてるけど。


「見事なヒモの出来上がりだ…このヒモは中々解けないから覚悟するんだな…」


そんなことを言いながら、俺は今日もココのサンドイッチを口に放り込む。師匠のジェイさんと同じ味。さすがだ、ココ。ちなみにだが、ココにもファンクラブができた。商店guysと商店girlsの皆さん、それといかがわしい目を向けてくるおっさんどもだ。


太陽のようにまぶしかったあの幼体は、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んだ。奴隷は人でないとかいう馬鹿な大人でさえ視線をそらすことができない体になりつつある。それでいて褐色白髪の狐耳と狐尾の民族少女。俺が32歳でなかったら間違いを起こしていたであろうよ…



+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「さて…今日も復習だ」


俺が5年間でやれるだけやったこと。それはやはり、召喚術以外にない。可能性の思索・思案・構想と、実行・実現・応用のプロセス。時間だけはあった。ココが作ってくれた。だから俺は諦めずにいる事ができた。


朝の日課は精霊の森で召喚術の練習をすること。大体は"独自に応用した"召喚術の復習だ。


『リッカ! キョウモ ショウカン?』

『アソ ボー?』

「いつも通りこれが終わったらな。またちょっと付き合ってくれないか?」


『『『ハーイ』』』


…もう理性は崩壊しない、はず。裸の妖精見たって欲情なんかしない。してない。してないはず。


「まずは…【物理召喚(オブジェクティブ)】」


召喚石(ボックス)の派生。写身から5年間、俺は召喚効率の良いものを諦めず探し続けていた。それがこれ、両手の全ての指に嵌めている"安い宝石の付いた指輪"だ。


何かあった時用にひたすら薪割りをして貯めていて良かった。今のところ一番召喚効率がいいものは宝石だと思っている。比較的安い宝石を買い、武器屋の兄さんに指輪の装飾をしてもらった。女性物には見えないが、デザインが凝り過ぎて若干厨二臭い。それを全ての指につけてる。あと実は武器が滑らないように指ぬきグローブも着けている。わかってる、みなまでいうな。罪(ギルティ)深いだろ、俺。


両手を開きながら、両手の中指に魔力を込める。込めたとほぼ同時に両手の掌から10cmくらい離れたところに"両刃の斧"が出現する。落ちる前に掴み、その感触を確かめる。いつも使っている両刃の斧。ちゃんとどっしりとした重みも感じる。


宝石の召喚効率(コスト)はただの召喚石(ボックス)の比ではない。まあ一つの指輪につき武器一つ分くらいだからこれだけ指輪をしてるんだけど。買ったはいいものの、実はまだそんなに使ってない。


宝石に入れている物を出すときの魔力は大きさや重さに比例しないので、少しの魔力消費で武器を呼び出す事ができる。これをもとに色々な戦略に応用できるだろう。


『ワー!』

『イツモ ドオリー!』

『ツマン ナイー』

「うっさいわ露出狂が!」

『ロシュツ キョー?』


そう言いながらも妖精達は俺に触れながら魔力を分け与えてくれる。どうやら契約はダメらしいが、これくらいなら手伝ってくれるらしい。でも妖精の森は妖精王に出てはいけないと言われているらしく、俺がその魔力に依存することはできない。悪魔で練習中だけの特権だ。格闘ゲームでもトレーニングモードはゲージマックスで練習できるだろ?そんなもんだと思ってくれ。


『ハイ ヨー!』

『ツギツギー!』

『ホラ ホラー!』

「急かすな急かすな…」


指輪の宝石に斧を戻す。この時も少しの魔力消費で斧を宝石の中に入れることができる。因みに武器が斧の理由は薪割りで慣れてるから。それだけだ。ていうかこの斧は薪割りと兼用している斧だ。


「じゃあ次…【薬物召喚(ドラッグ)】」


あまり人に言えたものじゃないが、口の中に召喚紋のタトゥを書いてもらった(バーのお姉さんに)。人体に召喚紋を書いても召喚石(ボックス)の効果を発現しないのだが、俺が書いたのは"歯"だ。奥歯付近。色々試している時期に歯に召喚紋を書いてみたらなんと、銅貨が一枚入ったのだ…!


もちろんえづいた。ココはドン引きしてた。


俺が練習用に入れている左奥歯の召喚紋に魔力を流す。するとどうだろう、口の中に急激にしょっぱくなる。…そう、これは塩だ。右奥歯にはそれなりに有用なものが入っているが、練習時は割愛する。


「うえっ…」

『ヘンナ カオ―!』

『ウワー! ブサ イクー!』

『アハ!ハー!』


また魔力を分け与えてくれる。これ、絶対人体によくないだろ。携帯電話で電池使い切って、充電して更に使い切る、みたいなこと繰り返してると携帯熱くなるじゃん?電池パック膨れてくるじゃん?そんな感じ。だるい。つらい。なんか苦しい。若干目が霞むし。こんなんよく5年続けてるな俺…


『アレ ハー?』

「あー…今日はどうしようかな…ココにやるなって言われてるしな…」

『カミサマ クレタ ノ二?』

『シカタ ナイヨ』

『アレ コワイ モン』


"あれ"。俺が写身の夜、妖精王から貰った力。それは今でも、俺の首の裏に残っている。


召喚石(ボックス)の召喚紋。本来人体に使う事ができないはずのそれは、召喚石(ボックス)の機能をはたしていた。いや、はたしていると言えるかはわからないが、少なくとも機能はしている。この力は、力自体も、その代償も危険すぎる。リスクが高い。ここぞというときにしか使わないつもりだ。


…とは言ってもここぞという時に使えるようにしとかなきゃいけないんだよなー怖いなー嫌だなー


そんな事を考えながら、俺は首の裏に手をやる。するとどうだろう、俺は前世で少し流行っていた気がする首痛めてる系イケメンになり替わるのだ。


はーやれやれだ。なんでこんなことに巻き込まれてしまったんだか。聖剣(プロビデンス)に魔法に召喚術(サモン)。王都に奴隷に妖精たち。多分に漏れず、どうやら俺は転生ものの主人公になったらしい。身体能力は並。魔法にいたっては魔力が少なすぎて使えない。こんな世界でどうしろっていうんだよ全く…はあ、クーラーの効いた現代が懐かしい


…まったく、なんで俺がこんな目に…

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