第10話「はじまりの刻」
ここは街の飲み場。俺は商店guys(girlsも居るが)に誘われ酒場に来ていた。もちろん酒など飲めないのだけど、無理矢理引っ張られて席に座らせられた。店内は老若男女で溢れていて、俺と同い年だったはずの子供もチラホラ見かける。そう、写身が終わって、皆でお祝いをしているのだ。
自分の才能がわかったことを…祝って…いるのだ…よん…
「いやーやっぱりラークの坊やは凄かったなー勇者だぞ勇者!なあリッ君!」
「そうっすねー」
どこぞの熱血テニスプレイヤーみたいな武器屋の店員Aさんが話しかけてくる。鉄臭い。
「リティナちゃんも凄かったねえ。あの娘は魔法使いかあ…しかも伝説級の魔法使いになるかもしれないんでしょう。ね、リッカ君」
「そうみたいですねー」
商店街の花屋のの有名な看板娘。28歳で婚期を逃したことに焦ってる店員Bさんが話しかけてくる。花臭い。
「リッカ、そう落ち込むなって!なんだ、いつもなら叩き出すとこだけど今日はなんでもただで飲んでっていいぞ!」
「そうなー」
勝気な性格過ぎて25年間誰とも付き合ったことない商店街のバーの店員Cが話しかけてくる。酒臭い。
「まあ会話術(コミュニケーション)?これはこれで素晴らしいものだと思うよ。ようは使い方しだいさ。リー坊」
「せやねー」
年中本にまみれていつも頭ぼさぼさでフケだらけの店員Dが話しかけてくる。かび臭い。
「「「「これは重症だ」」」」
「いや別に。元々わかっていたことだしね」
出会ってすぐの時からあいつらは才能を発揮していた。だから当然の結果、当然こうなることは予想できていたんだが、なんというかこう…10年間やっぱり主人公体質ではないことをひしひしと感じさせられると、転生したことに何の意味があるのかと考えさせられる。本当にただの神様の気まぐれなんだろうか。そんなに前世で悪いことしたっけかなー…
「…まあリー坊が落ち込むのもわかるさ。友達が偉大な魔法使いになることがほぼ確定になって、また別の友達は勇者になって、更に勇者の聖剣まで抜いてしまったんだからね」
そう。写身の後、ラークはボンテージおっぱいお化けに誘われて教会に出向いたらしい。さすがに俺達はそれについていくことは出来なかったんだけど、その後噴水広場で街長の発表が行われた。
『聖剣はラークの物になった!本当に、本当の新しい勇者が今日、この町アラハンに誕生したんだああ!!!』
『引き抜いた剣からは稲妻がほとばしり、一振りすれば周りの壁を妬き焦がし、地面に突き刺せば雷の如く雷鳴が響きわたっていた!』
剣から稲妻がほとばしる?俺は目から涙が零れ落ちそうだよ…俺が先に召喚してたから抜けやすくなってたとかだったらラークに申し訳ないのだけれど。
そこからはもう街全体でお祝いムード。食えや飲めやの大騒ぎ。母さんは町長の家に呼ばれて行ってしまった。王国騎士団との会食準備の手伝いをすることになってしまったらしい。ココも奴隷の仕事としてそれについていくことになり、ラークとリティナはその会食に参加予定だ。
「おい馬鹿。追撃すんな、終いには泣いまうぞこいつ。リッカ、お前には才能がある。…いやなかったんだったわ、すまん」
わーさすがバーの姉さん。チェサ上手いのに馬鹿っぽーい。
「貴女こそ追撃しちゃってるじゃない…なんだったらうちで働く…客引き上手そうだし?」
わーそれこそ追撃だし追い討ちだぜ森ガールならぬ森おばさーん
「それはそれで追い討ちなような気がするんだが…リ、リッ君、皆悪気はないんだ、すまん…」
武器屋のお兄さんはまだ少しまともらしい。最初にラークとリティナの話をしたのも、あえてその話題から離れてギスギスするより、楽しく飲んで気にしない方向に持っていくようにしてくれたのだろう。
「大丈夫だよ、もう吹っ切れた。元々ないのは知ってたんだ、今までと変わらないよ」
そう、今までと何も変わらない。変わることはない。
「…ごめん、少し行くとこあるから、一足先に帰るよ」
俺はこれが正解でないとわかりつつも、その場を後にしてしまった。
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「…怒らせちまったかな…リッカ、大丈夫かな…」
「それくらいで怒るような男じゃないよリー坊は」
「…でもあんまり過大評価するのもだめだよ…?リッカ君、まだ10歳なんだから…」
「…今は1人になりたいだけさ。そっとしといてやろう。そしてまた会っても落ち込んでいたら、その時は思いっきり慰めてやればいいさ」
「おいてめえら…リッカ…いるか…?」
「ジェイ…?リー坊なら先に帰ったけど…」
「何しにきたんだよてめえ。さすがに今日までリッカに絡んだら許さねえぞ」
「ジェイ、もし用事があるなら今度にしてやってくれないか…リッ君はちょっとその、写身でね…」
「いや…パン…持ってきたんだが…」
「ジェイさん…ははっ!うん、後で持っていってあげよっか!リッカ君も喜ぶよ!!」
そこにはとても沢山のサンドイッチがあった。全てリッカの好きな香草がこれでもかと大量に入っていた。
5人は顔を見合わせ笑い合いながら、リッカの今までの思い出話を肴に飲み明かした。
…朝になると、ジェイのサンドイッチは5人の胃の中に消えていた。
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「あー…やっちまったー俺らしくないなー…」
すっかり暗くなり、もう明かりがなければ目の前すら見えないだろうこの時間。俺は月明かりをたよりに精霊の森に来てしまっていた。この時間にはもう、精霊達は現れない。
ドームに開かれた草原の中心に寝転がり、木々の隙間から見える月を眺める。そして今日あった事を順々に思い出していった。
教会に忍び込んだこと、ココと再会したこと、聖剣を召喚したこと、リティナの写身、ラークの写身、そして俺の写身。
ラークとリティナには王国騎士団から正式にオファーが行くことになるだろう。確か、15歳になれば王国騎士団に入れるはずだ。それまではこの街の衛兵や出張してくる王国騎士の先輩などから指導を受け、勇者として、偉大な魔法使いとして王都に迎えいれられる筈だ。
そして、それとは違い何もない俺は何をすればいいんだ…?
俺は5年後、何をしてどうなっていれば正解なんだ…?
本当に召喚術は正解なのか?
これで合っているのか?
他のもっといい方法があるんじゃないか?
色んな思いが俺の頭の中を巡っていく。そしてそれは中々消え去ってくれない。
「さあて…どうすっかなー…」
「…リッカ君は、大丈夫だよ」
頭の上から、高ぶる思いを少し落ち着かせてくれる声が聞こえた。なんでいるのかはわからないけど、どうやらココも居るらしい。
「会食の手伝いはいいのか…?」
「…半亜人(デミ)の奴隷はとっとと帰れって怒られちゃった」
「…ひどいな、今度懲らしめてやるよ。どんな奴?」
「…リッカ君のお母さんだよ」
「前言撤回。俺には荷が重過ぎるわ…」
「ははっ」
ココは控えめに笑うと、俺の右隣に並んで一緒に月を見始めた。
「ストーカーとか怖いぞ」
「違うよ。たまたま森に来たらリッカ君が居たんだよ」
「…たまたまくる場所かよ。子供は家に帰って寝る時間だぞ」
「リッカ君だって子供でしょ」
「いや、俺は大人なんだ。27歳。すげえだろ」
「はいはい、リッカ君は凄いねえー」
そんな他愛のない話をしながら、それでも俺の頭は考えることをやめてくれない。
魔力がなくたっていい。スキルがなくたっていい。才能も甘んじてこっちから辞退してやる。
でも、だけど、友達を守ることが出来ず、守られてしまう身分に甘んじたくはない。
前の世界も、この異世界も、どちらも現実だ。
人は死ぬし、殺される。そんな世界に2人は踏み出して行く。俺にはそれを止める資格も、方法もない。
力が欲しい。人を守る力が。どこぞの漫画の主人公みたいな台詞だけど、俺は本心からそう思う。
幼馴染の、弟みたいで、妹みたいな、息子みたいで、娘みたいな、そんな存在である大切な2人のそばにいたい。2人が歩むであろう道を、一緒に歩めるだけの力がほしい。
そして叶うのであれば、守ってやりたい。
「リッカ君」
「…ん?」
目を向けると、ココも俺のほうを見つめていた。月明かりしかないから、薄く、暗く、ぼんやりとしか見えない。でもだからこそなのか、その形を掴もうと、彼女の透き通るように白い髪が、やわらかそうで少し妬けたような肌が、少し両端がつり上がった唇が、吸い込まれそうになるくらい深い色の瞳が、俺を視線を離してくれない。
「リッカ君は、ボクを変えてくれたよ」
「…」
「人を変えれるだから、自分も変えれるよ」
「…そんなもんかね」
「そんなもんだよ」
俺はこの世界に来て、何か意味あることを出来ているのだろうか。…だがそれはわからない。今の俺は世界を知らな過ぎる。
でもそれでも、今隣にいる女の子を笑わせることが出来ているのなら、もう少し飼われてやってもいいかな、とは思えた。神様が意地悪して餌をくれないのならば、苔でもなんでも食って足掻いてやろうかと思う程度には。
「リッカ君はもとから変わってるんだし、大丈夫だよ」
「何のフォローにもなってないぞ、それ…」
そんな話をしつつ、気がつくと俺の意識は背中から地面に、地面から地中に。地中から更に深く。ゆっくりとまどろみの中に吸い込まれていった。
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『オウサマ! コレ! リッカ!』
『イツモ! ヤサシイ! タノシイ!』
『ププ! ヘンナ カオ!ネテル ネテル!』
『コノコ デミ?』
『ウワ! ハジメテ ミタ!』
『こらこら、折角気づかれないように見に来ているというに、声がでかいゾ』
『人の生は短い。諦めれば早々に老いてしまう。諦めぬことが大事ダ』
『だが君は…なるほど、2回目なのカ』
『転生者…久しぶりに見るナ』
『よく一度で、諦めなかったものダ』
『どレ、私がいない間にこやつらを見てくれた礼ダ』
『君だけにしか与えられない力をやろウ』
『だがこれハ、劇薬だゾ』
『"力"の代償は、君の前世の記憶なのだかラ』
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