第8話「狐の嫁入り」
噴水広場に繋がる街道を歩きながら、俺達はさっき起きた珍事件について話し合っていた。
「リッカ君は勇者だったの…?」
「それはないな、抜けなかったし」
契約紋(プロミス)や奴隷紋(スレイヴ)は、強制力を行使して契約者を自分の近くに召喚することができる。だったら、その契約紋(プロミス)や奴隷紋(スレイヴ)を生物ではない物体に刻むとどうなるのだろうか。
聖剣(プロビデンス)で言えば、"国を守ること"という契約を守る限り、主はその剣を召喚することが出来るのだろう。そして勇者という称号、スキルは先代勇者が死んだ瞬間に次の勇者に引き継がれるらしい。つまり、聖剣(プロビデンス)は歴代の勇者の契約者であるといえるわけだ。おそらく、という言葉はしっかり前に付けておかなきゃいけないが。
まあなんで国を守った覚えも救った覚えもない俺が聖剣を抜けたのかはよくわからないが。案外そこらへんの基準がはっきりしてなかったり。因みに俺が勇者じゃなことは確定事項である。勇者は当然召喚なんて邪道ではなくちゃんと剣を地面から引き抜くことができるらしい。
十数年前の写身の時、先代勇者が聖剣を抜く姿を母さんは鮮明に覚えているといっていた。昨日。張り切りながら。こちらを見つめながら。期待しながら。邪道ではあるが期待を裏切らなかった息子を褒めて欲しい
「……………リッカ君が勇者だったら、もっとかっこよかったんだけどな」
「俺をそこらへんの難聴主人公と一緒にするなよ?褒めてくれてありがとう。もっと褒めてくれ」
「…はいはい偉い偉い…ナンチョーシュジンコーってなにかわからないけど偉いよリッカ君は…」
さっきからココは死んだ魚のような目で俺を見てくる。でも口元を見れば少し楽しんでいるようにも見えた。半年前であった時はこんな表情を見せなかったのに、何が彼女をここまで変化させたのだろうか。…聞くのは野暮というものか。
ココにはあえて言う必要もなかったので言わなかったが、聖剣の契約紋に魔力を流し込んだ時、確かに縁(リンク)が繋がっていた。縁(リンク)なんて感じたこともない俺がいうのも変なのだが、確かになにかこう、触っていないのに近くにいる、みたいなことを感じることが出来たのだ。こればっかりは表現がしづらい。何にせよ、縁(リンク)が繋がって、魔力量が大幅に上がっている感触を得ていた。
だがその後、まるでお父さんの壊した壷をばれないように接着剤で直す子供のように、もとあった位置に聖剣を戻して2人で逃げ帰ってきたのだが、10m位離れた時だろうか、縁(リンク)は切れ、魔力量もいつも通りに戻っていた。召喚も試してみたけど無理だった。
…10mしか縁(リンク)が繋がらないし、尚且つ縁(リンク)してないと召喚できないという事が、そこで判明したのだ。
因みに今更ではあるが前に考察したことの結果はこうなる
「1、縁(リンク)さえ張り続ければ魔力の総量が契約した分上がる」
→正しいが、10m離れると縁(リンク)は途切れて総量も戻る。恐らく10m以内に戻らないと縁(リンク)は復活しない。
「2、1により魔法が使えるかも知れない」
→実はちょっと試してみたけどやっぱりマッチ程度。
「3、"強制力"さえなければ"契約者の魔力を使って"召喚できる…」
→縁(リンク)した状態であれば、聖剣は聖剣の持つ魔力によって召喚可能。ただし10m
となる。…ちょっとは期待したけどさ、俺、魔力あっても魔法使えなかった。多分魔力総量とかじゃなくて(それも多大にあるとは思うけど)、純粋に才能がないんだと思う。泣きたい。泣きはらしたい。
あとこれは絶望的な予想でしかないが、一般人は縁(リンク)範囲がもっと広いと思う。考えても見て欲しい。馬が居ない→召喚しよう→10m以内のものしか召喚できない…全く意味がないだろ?…元々召喚術が価値あるものかどうかは別として。
恐らく俺は先天的に縁(リンク)範囲が狭いんだと思う。もしかしたら縁(リンク)範囲は魔力量に依存しているかもしれない。…依存していたとしたら、聖剣と繋がってない状態の俺の元の範囲ってどんだけ狭いんだ…?
「ココ、俺今少し泣きそう」
「ボクの台詞だからね、それ…」
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「リッカ!どこに行ってたの!!あなたの番最後のほうにしてもらったんだからね!!!」
噴水広場にしれーっと戻ろうとしていたんだけど、いの一番に母さんに見つかった。仁王立ち、というのはこういうのを言うんだろうな。だってほら、顔のシワとか目をひん剥いてる感じとかほんとに仁王。阿行吽行で言えば阿行かな。多分俺は何を言われてもウンとしか言ってはいけない気がする。
「全く…あら」
「こ、こんにちは、リッカく…リッカ様のお母様…!以前一度お会いしたことはありますが、ボ、ボク、ココって言います…!」
母さんは鋭い視線で、俺の右隣の小動物のように縮こまっている狐の半亜人(デミ)の奴隷を見つめている。何かを決心したかのように身を乗り出すと、ココの頭をガシガシとなで始めた。突然のことに、困ったような嬉しいような、そんな顔をしているココ。
「…久しぶり!相変わらず可愛い娘ね!リッカと仲良くしてくれているのね、ありがとう!」
「そ、そんな、ボクが仲良くしてもらってるだけで…うあうっ」
そこらへんでやめとけ母さん。首もげるぞ。
「やだわーこの子お父さんに似てもてるのねー!リティナちゃんに言いつけちゃおうかしらー!」
「ウン…ん?いや、なんでそこでリティナが出てくるんだ母さん。」
リティナとかラークにぞっこんラブの攻略対象外じゃないか。いや、大事な友達だけどね。
「…まあそういうとこもあの人に似てるのがなんとも言えないけど…」
直後、俺の右足に電撃走る。正確に言えば右足の指全てに鈍痛。ゆっくりと大きくなっていくそれの原因はともてよい笑顔でこちらを見ている。撫でられながら。
「…だれ?」
「リッカです。召喚士目指してます」
「あらあらー!って、こんな夫婦漫才やってる場合じゃないのよ。ほら、写身に行くわよ。もうあんたと数人しかいないんだから。ていうかもうラーク君とリティナちゃんしか残ってないんじゃないの?」
「うわーマジかよ…その2人の後は勘弁だな…いや、そもそも元々最後にしようっていう流れか」
確定ではないが、勇者の誕生は最後のお楽しみってとこだろう。早めに広場にたどり着かなければ…
「…強敵主(ライバル)を見つめておかないと…」
「あはは!ココちゃん面白いわね!じゃあココちゃんも近くで見ていきなさいよ!私が連れてってあげるからさ!」
「え…でもお母様、ボク奴隷…」
「うちのせがれの友達なんだから関係者よ!ラーク君とリティナちゃんの写身は近くで見れないかもだけど、リッカのは特等席で見せてあげるわよ!」
「ほ、ほんとですか!ありがとうございます、リッカ様のお母様!!」
「あ、あとリッカ様もお母様も禁止ね。リッカは呼び捨て良いし、私はママでいいわ。言えなければこの話はなしよ」
「…え、え、む、無理ですっ!!!」
狐の嫁入りにしては、今日は晴れすぎだな。
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