第7話「ちゃんとデバックしないから」
「そういえば初めてあった時は名前を聞いてなかったなレディ、名前はなんていうんだい…」
この強敵の名前を知っておかなければならない。そんな使命感に俺はかられている。こいつは危険だ、本能がそう言っている。
「…コ、ココ。ココって呼んで。」
「なんか照れてる可愛いんだけどこの子」
「…リッカ君はなんでも正直に言うね」
そんなくだらな会話をしながら俺達は裏の階段を下っていた。ぷぷ、くだらないのにくだるってさ。うけるわ。こんな美少女と一緒に探検とかそんな青春俺にも欲しかったわ。…何人事みたいに言ってるんだ、俺のことだったわ。やはり自分の年が下がっているっていうのは中々自覚しにくいな。
教会の裏手に回ると、いかにも封印してますオーラが漂ってる洞窟があった。自然物なのにちゃんと加工されてる中の階段を見るに、俺の経験豊富なRPG脳がここを進めといって聞かなかった。
「でも良かったのか…?怒られるぞ、大人に。それにココは奴隷だ。俺の比じゃないぞ。正直、最悪殺される」
「大丈夫だよ、だって誰もいないから見つかるはずないし。」
案外肝座ってるなこの姉ちゃん。確か9歳のは筈だが。俺が負けたのも頷けるな。
俺の人生の中でも上位3位に入る下衆なホラ吹きの後、何故かココは俺に着いてくると言い出した。なんかよくわからないことをモヤモヤ言われたが心配とのこと。俺はそんなに頼りないのだろうか」
「出てるよ、声出てるよ。」
「出してるんだよ、言わせんな恥ずかしい」
「…なんで着いてきちゃったのかな…」
ココが頭を抱え始めた。ははーん読めたぞ、実はココこそ本当に勇者の剣を見たかったんだな。だから俺を共犯者にして少しでもリスクを減らそうって魂胆のはずだ。成功率は低いが、確かに俺なら大人を言い負かす可能性があるかもしれないからな。実際ココとの出会いもそんな感じだったし。
「任せろココ、お前は俺が守るから…」
「…急にどうしたのリッカ君…」
なんか、こんな予定じゃなかったとでも言いたげな目で俺を見てくる。何をしたというのか。
「まあいいや、こんなとこ長く居ても気味悪いだけだから剣見てとっとと帰ろうぜ」
「ほんとに何しに来たのリッカ君…」
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「うわー…本当に刺しちゃってるよ。まんまじゃんか…刃こぼれどころじゃないぞあんな置き方したら」
「これが勇者の剣、聖剣(プロビデンス)…凄いね、魔力が少なめのボクでもわかる。そこにあるだけなのに魔力を発してるんだね。こんな武器、見たことない…」
「「…」」
「せやな(俺にはそれしか言えない)」
階段を下ると大きな広間に出た。まるで闘技場か何かのように真ん中の空間が盛り上がっていて、その中心にそれはあった。俺には魔力なんて感じることはできないけど、まあそれなり高そうな剣だ。いい鉄だ。
柄の上の(と言っても今は地面に刺さってるから下が正解なのか…?)装飾は三角形の中心に赤い宝石が埋め込まれているというなんともいえない仕様だった。ドライブスルーにこんなの置いてあるよな。ドラゴンスレイヤーとかいって。
「さて、気はすんだかココ」
「…?何のこと?」
「剣は見たか?」
「…見たけど…どうしたの、リッカ君?」
「よし、じゃあこれは俺とココだけの秘密な」
油性マジックなんてものはこの世界にない。まだインクとペンだ。だがそれも流石に柄や刀身には書くことができない。ならもうこれしかないんだよな。仕方ないんだ、これは。
キィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!
思いっきり、銅貨で刀身を引っかく。なんとも嫌な音が響き渡るがやめるわけにはいかない。これは仕方ない、仕方のないことなんだ。ふむ、流石に傷がつきにくい。聖剣とやらも伊達じゃないな。
「なななな、何してるのリッカ君!?」
「いや、これに召喚紋書こうかと思って」
「いやいやいやいや、聖剣になに入れるつもりなの!?聖剣(プロビデンス)持ってハイキングにでも言って剣からサンドイッチでも出す気なの!?」
この娘会ったときはこんな元気な娘じゃなかったのに良く喋るようになったなー良かったよかった。
「…しかも抜こうともしないし!」
「あ、忘れてた」
「…頭痛くなってきたよ、ボク…」
これを抜くことが出来ると勇者なんだそうな。刺さってる分含めて抜いて1メートル位か、でかいな。ふんっ抜けん。駄目だな。
キィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!
「諦め良すぎだよ!!!」
「諦めてない、銅貨だって聖剣に傷をつけることくらい出来るはずだ!」
「リッカ君馬鹿じゃないの!?」
因みにこの世界で奴隷の人が一般人に馬鹿とか言ったらそれでもう強制労働所行きクラス。どんどん強くなっていくな、ココ!
「でも駄目だな、何回かこすったけど全然傷一つつかん。」
「…良かったのか悪かったのか、ボクにはもうわからないよ…」
不良座り状態の俺の肩に、ココが顎を乗せてくる。可愛い」
「それもういいから…駄目だったんだよね、じゃあもう帰ろうよ」
「そうだな…ん?ココ、これなんだ?」
「んー?…契約紋だね…剣に対して契約紋…?何の契約をする意味があるんだろう」
赤い宝石の中央に、小さいけれどしっかりある契約紋(プロミス)。本来は仕事の関係上の取り決め等で使われるものだ。雇い主と労働者が賃金とかでもめないように、だが約束事を果たしている限り強制力の執行対象になる。
起源は奴隷紋(スレイヴ)と一緒だが、奴隷身分でない者にも強制的に労働をさせることが目的で出来た、と言われているらしい。全部歴史書で見た知識で、なおかつこんな時代だから本当かはわからないけど。
「契約の内容は…"国を守ること"」
「ココ、読めるのか…?」
「うん、亜人(ハーファ)に伝わる古い文字だよ」
「そういえばココは狐獣の亜人種(ハーファ)だったな。でも半亜人(デミハーファ)でも読めるんだな」
「お母さんは半亜人(デミ)じゃないから…」
亜人種(ハーファ)。純粋に交配の問題だが、人と魔獣が子をなし、そこに人間以外の特徴が出てくるとそう呼ばれる。ココは頭の白い耳と、お尻のふわふわふさふさな尻尾だろう。
人間の特徴が強く出ているのもを半亜人(デミ)、魔獣側の特徴が濃く出ているものを亜人(ハーファ)と呼ぶ。亜人(ハーファ)は亜人(ハーファ)だけの集落があるらしいし、部族も多いらしいのだが、半亜人(デミ)は人にもなれず亜人(ハーファ)にもなれず強い迫害を受けている。この町はまだ、優しいほうだ。
「なるほどね。んー契約紋(プロミス)って主がいなくなると…」
「消えるはずだよね、勇者様が主じゃなかったのかな…」
「試しに契約紋(プロミス)に魔力流し込んでみるか」
「ええー止めときなよ、何が起こるかわからないよ…」
「まあそれはその時さ。大丈夫大丈夫、俺に強制力使えるような魔力ないし。今の俺はこと召喚術関係に関しては譲る気はないぜ…」
「…リッカ君も男の子なんだね」
なにその意地悪げな顔。可愛すぎるんだけど…!!!
「よし、結婚しよう、ココ。そうすれば奴隷じゃなくなるぞ!」
「急に何をいってるのかなリッカ君は!」
「俺は大真面目だ、今日からココは俺の許婚な!」
「藪から棒だよ!」
「いや、どうやら剣らしい」
褐色の肌が赤くなるほど照れているであろうココに対して、手の中に現れた聖剣(プロビデンス)をそっと差し出す。案外軽いんだな、これ。
「「…」」
「どういうこと…?」
「さあ…俺にもさっぱり?」
聖剣は抜くものではなく、召喚するものだったのかな?
ちゃんとデバックしないからこんなミスが起きるんだぜ、神様。」
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