閑話1「カレー目線」
もう、半年も前の話になるんだね。
ボクは生まれた時から始まりの町アラハンの、町奴隷として働いていたんだ。
半亜人(デミ)は奴隷になることが多い。父が人間、母が亜人(ハーファ)のボクは生まれた。
アラハンは他の町に比べると、半亜人(デミ)に優しい。優しい、といっても労働力。朝から晩までずっと畑仕事。農地管理補佐人員という名で畑から畑をまわって、言われた通りのことをやるんだ。
仕事は辛いと思ったことはそんなにないよ。もっと辛い町もあるし、もっと辛い仕事だってあるし…もっと辛い関係もある。この町はそれがない。他の町にはあると聞いた。お母さんは、ボクみたいな年の娘には言うことじゃないけど、本当に好きな人と一緒になりなさいといってくれる。お金につられちゃ、駄目だって。
「本日、こちらのお手伝いに参りました農地管理補佐人員のココと申します。よろしくお願いします」
今日もボクはいつもどおりの仕事をする、筈だった。
「ん…?ああ、母さんが手を回したんだな…いいって言ったのに…」
そんなにボクのことが嫌いなのだろうか。なんでそんな目をするのだろうか。そんな感情も、もはや薄れている。また今日も、仕事が始まる。
「じゃあ、商店街にサンドイッチ食べに行こうか。」
仕事が…始まる…?
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「いやー母さんにも困ったもんだよ、あの程度の蒔割りくらい自分でできるさ」
「あ、あの、リッカ様…?どこへ行かれるのですか…?」
「なんだ君は、奴隷の癖に人の話も聞いてなかったのか。サンドイッチ食べに商店街。今日の仕事はそれだ。」
「は、はあ…」
何を言っているんだろうこの人は…というかこの子は…ボクと同い年…?位の子のなのに自宅から母親のへそくりと言って大きな財布を持ってきて商店街に向かうぞ!なんて言ってきた。わけがわからないよ、ボク…今日はお母さんから貰った衣装でもないのに商店街に行くなんて…
「あと様付け禁止ね」
「それは出来ません、リッカ様は良くても周りから…」
「じゃあ名前を呼ぶな。一切。同い年の女の子に様付けされるくらいだったら呼ばれないほうがマシだ」
冷たく言った。この子はホントに嫌がってる。普通のことなのに、なんで怒っているかボクにはわからない。奴隷と平民は立場が違う。それは貴族と平民の立場が違うのと一緒で一般的なことだ。
でも、冷たい言い方なのに、ボクはそれをかっこいいと思ってしまった。
「おうリッ君!また森に行くのか!うちでなんか買ってかないか!!」
「リッカ君、りんご一個あげようか?」
「リッカ!あんたまた仕事サボってるのかい?そんな暇あるならあたしとチェサでもしないかい!」
「リー坊ーあたらしい本入ったよー毎度おおきにー」
「…何者なんですか、あなたは…」
「んー皆こんなもんだよ。商店街なんて」
そうなのかな…少なくとも大人たちとこんなに仲良くなるなんて、ボクらの年であるのかな。ボクはやったことないけど、チェサっていうボードゲームが凄い難しいらしいし。沢山ある石の動き型を覚えて、それで人と対戦するなんて、正直、凄いと思う。
「おうリッカ。うちで買ってけや」
「ジェイさん、そればっかりですね…」
彼の前に大きな男の人が現れた。ボクらの二倍くらいはあるんじゃないかな…豚の亜人(ハーファ)であるオークに凄く似てるけどこの人は…人間だ。威圧感凄いけど。
「半亜人(デミ)の女引き連れてサボりたあいい身分だなあリッカ。母親に言わないでおいてやるからうちで20個買っていけ。」
「…いいですよ、じゃあサンドイッチ20個ください。」
「リッカ様、そんなに買っても意味が…」
「半亜人(デミ)は黙ってろ。てめえは町から直々に罰を受けてのか?」
「大丈夫だよ、ありがとうジェイさん。ジェイさんのサンドイッチは美味しいから好きだよ」
20個もサンドイッチを買ってどうするの。、食べきれないでしょ。大人に反抗しろとは言わないけど、お母さんのお金でそんなに無駄使いして恥ずかしくないの。…なんでこんなところにいるんだろう、ボク…
「でも今日は食べないね」
そう言って彼は、商店街で働いている商店管理補佐奴隷の半亜人(デミ)の子達にサンドイッチを配っていった。何をしてるの、この子は…
「…おいリッカ、てめえ、俺が半亜人(デミ)嫌いなのしてるだろ。なのにこんなことするのかてめえは。俺のパンを半亜人(デミ)なんかに食わせやがって…」
「あれ、半亜人(デミ)を引き連れているから20個も買わせたんですよね?じゃあ半亜人(デミ)に渡すことは当然の流れですよね。何か可笑しなことをしましたか?20個のサンドイッチを僕1人が食べれるなんて、そんな馬鹿なことは言わないとは思いますが…」
なに大人に喧嘩売ってるの…オークさん凄い顔してるよ…
「ていうかジェイさん、俺がそういうの嫌いだって知ってるよね?それでも俺は何も言わずに買ってあげたんだよ?それをなに?奴隷に渡すな?こんなもんすぐ腐るのにどーすればいいんだよ。あんたと面倒事になるのが嫌だったからすぐに買ってやったのに俺の連れに脅迫?ふざけるなよ。こっちだって自分で稼いだ金で買ってるんだ、それを誰にどういう風に使うかは勝手だろ。そんな性格だから商売一つ上手く回らないんだよ。周り見てみろよ、皆あんた見て笑ってるよ。」
周りを見ると…確かに皆ニヤニヤ笑っている…ど、どういうこと…?
「リッカ、今日はその位にしといてやれって」
「リッ君、そいつリッ君しか話し相手居ないんだからさびしいんだよ」
「今日もリッカ君の勝ちかーつまらないなー」
「リー坊の勝ちでいいのかい?まあそうだと思うけど」
勝ち?負け?どういうこと…?
「ジェイさんにはいつも絡まれててね。そのうち口喧嘩で負けたほうはなにかしらを差し出さなくちゃいけなくなったんだ。ジェイさん、俺の勝ちみたいなのでさっきやったことについては不問にしてもらいますよ」
「…くそが、かっこつけやがって…」
それだっけ言うと、オークさんは店の奥へと戻っていってしまった。というか店の前で待ってて、わざわざサンドイッチを持ってきてくれて、いつも通りの口げんかをするなんて、実際はオークさん良い人なんじゃ…
「いい人だよ。でも君は思い違いをしてる。君は奴隷という立場に慣れすぎだ」
まるで見透かしたかのように、彼はその綺麗な瞳をボクに向けた。
明らかに女性物ではない、かといって大人向けにも幼稚すぎる財布と、まだ中身の詰まった紙袋を抱えたまま、器用にサンドイッチをボクに手渡した彼は
少し悲しげに、でも少し微笑みながらこう告げたのだ。
『君が奴隷という立場を超えて、話しかけてきてくれる日を楽しみにしてるよ』
彼が口げんかでオークさんに貰ったもの、それは【サンドイッチ20個分のお金】ではなく【半亜人(デミ)にパンをあげたことを不問にすること】と気づいたのは、三ヶ月も後のことだった。
あの言葉を聴いて以来、ボクの頭から彼の最後の顔が、何度も浮かび上がる。
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今日はおしゃれが出来る日。そう、写身の日。数少ない、奴隷が装飾を許される日。
噴水広場で暇そうにしているリッカ君。
あ、逃げた。
…折角見てもらおうと思ったのに。
どこにいくんだろう…教会…?
柵を超えた…
え、え、ボクまさか、今日このタイミングしか話す機会ないの…?
リッカ君が凄い才能を持ってて町の皆から祝福されて
それをボクが少し遠くから見てて
それで勇気を出して言うつもりだったのに
「おめでとう、リッカ君」って
「リッカ君…なにしてるの…?」
「…おお、君はいつぞやの…」
…どうしてボクは、この人のことが好きなのかな…
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