俺の日常

今日の日が俺にとって、特別な日になりますように。

今日の日が俺にとって、特別な日になりますように。

今日の日が僕にとって、特別な日になりますように。

今日の日が俺にとって、特別な日になりますように。

今日の日が俺にとって、特別な日になりますように。

今日の日が僕にとって、特別な日になりますように。

今日の日が俺にとって、特別な日になりますように。

今日の日が俺にとって、特別な日になりますように。

今日の日が僕にとって、特別な日になりますように。

今日の日が俺にとって、特別な日になりますように。

今日の日が俺にとって、特別な日になりますように。

今日の日が僕にとって、特別な日になりますように。


俺は、もう、これしか願うことしかできない。

俺は今日、俺の気持ちを、俺の本当の気持ちを、あいつに伝えようとしている。

俺の今日は、もう終わり。

俺のこれからの毎日は、きっと、もっと、落ちていくんだ。


「俺の名前は、お前じゃない。」


時刻は午前4時30分。

目の前で俺をじっくりと見下げるこいつがそう言った。

また俺は、こいつに全てを持っていかれることになる。

そう思っていた。


時計の針の音がする。

こんなに響く時計って売ってるんだなと、そう思うくらいにこの部屋中に響くその音に俺達は包まれていた。

ここでは、俺達と、呼んでみたい気になった。

そんな雰囲気に陥った、そんな俺達の一部始終を、ご覧頂こう。


「おい。」

「おい。返事しろって。」

「おいって。」

「もしかして寝てんの?」


どう考えても目つぶってんだよな。何だろう、こういう表情、今まで見たことないかも。


「ほんとに寝てんの?」

「おい。返事しろよ。」

「おい。まじでどうしたんだよ。」

「おい。ほんとにまじで。」


俺は全く反応しないこいつの名前を、ここでは呼ぶしかないと、もう呼んでしまいたいと、また呼んでみたいと、そういう衝動に脳を支配されていた。


「響一。」

「何。」


思いの外、響一は素早く反応し、その目に意識を持たせてこちらを見てくれた。


「もういいんじゃねえの。そろそろなんか…」

「まだ。」

「だってこれ、まじでどのくらいするつもりなんだよ。」

「まだ。」


今俺は、響一の部屋にいて、響一のベットにいて、服は着ていて、ちなみに靴下も履いている。

特にこれといった状況が起こっているわけではないと、傍から見たらそうなのかもしれない。

今俺は、響一に両手を掴まれて、そのさらさらとした頬を俺の両手にずっと擦り付けられてる。かれこれ30分くらい。

この状況は一体何なのか。一体この後何が起こるのか。様々な妄想を膨らませても良かったが、そういう欲望にまみれた想像を掻き消さなければならないかもと思うような、響一の少しだけ見える横顔から漏れるその優しい空気感が、俺のどす黒い欲望を少しずつ白に変えていってるような、そんな錯覚をひしひしと感じていた。

そして響一は、少しだけ手を、その指をすっと絡めてきた。恋人ではないが、俗に言う、“恋人繋ぎ”をそっと要求してくるような、そんな甘い香りの漂う指の動きだった。


「響一。」

「何。」

「俺の名前は、お前じゃない。」


響一はそう言った。そう言ったから、俺はきっと俺がしたことをされるのかと、むしろそれの何倍も何十倍も、いや、何千倍もきつい辛い、そしてきっと凄まじい快楽を俺に味わわせてくれるのだろうと、そんな様々な想像が巡り巡っていたところに訪れた、こんな無垢で、こんな単純で、こんな愛しい行為をしてくるとは、俺は夢にも願望でさえも思っていなかった。


「お前って、手繋ぐの好きだったっけ?」

「うん。」

「へえ、そうなんだ。」

「知らなかった?」

「知らなかった。」


なんだ、そんなこと、そんな単純なこと、そんな簡単なこと、そんな愛しいこと、なんでもっと最初から知らなかったんだ。


「盗聴しててわかんなかったの?」

「盗聴なんてしてないよ。」

「盗聴してたじゃん。」

「盗聴なんてしてないわ。」

「盗聴してたからこういう状況になったんじゃないの。」

「盗聴ってどうやるんだよ。」

「盗聴してたじゃん。散々。」

「盗聴なんてしてないんだって。」

「盗聴ってさ、どうやんの?」


盗聴なんて、やれるもんなら、お前が産まれた時から、お前が俺の傍にいてくれた時から、やれるもんならやってたさ。

全部全部、知りたかったんだ。全部全部、俺のものにしたかったんだ。


「機械とかいらないでしょ。」

「聞こえちゃうもんね、全部。」

「物音たてることだって出来るんだぜ。」

「え?」

「あ?」

「あれってわざと?」

「あんな大げさな音、普通たつかよ。」

「そうだね。」

「そうだよ。」


色んなことがわかって、色んなことを伝えて、色んなことを一緒にして、そして二人は繋がっていく、そして二人でいることが当たり前になっていく。

それが一番自然で、それが一番幸せなことなのだろうと、俺は響一の体温を感じながら、しみじみそう思った。


「焦りすぎなんだよ。何だよあれ。」

「何?」

「フラれたわーとか、慰めてよーって、あんな大きい声出せたんだな。」

「焦ってないよ。ただ何となく大きい声出したかったんだよ。」

「そうか。」

「そうだよ。」


あの時俺は、俺の存在に気付かずに、ずっと壁を引っ掻いている響一を見て、そっと背中を擦ってあげたいと、そっと後ろから抱き締めたいと、そういう甘い欲求ばかりが脳内に巡っていたのに、俺のしたことは、俺が響一がしたことは…


「そういえばさ。」

「何。」

「あの子いいの?」

「あの子って?」

「彼女。」

「別にいいよ。」

「だってなんかお前…」

「何?」

「性欲結構あるから…」


結構乱暴な、結構無謀な、女だからって、あんな風に抱かれるのって実際はどうなんだ。

好きな相手だからって、ああいうのは、果たして耐えられるものなのか。それが人を愛するということなのか。


「やっぱ盗聴してたんじゃん。」

「だから盗聴してないんだって。」

「そうなの?」

「聞こえてきただけ、だから。」

「そうか。」

「そうだよ。」


もし俺が女だったら、もし俺が響一と双子じゃなかったら、もし俺がただのクラスメイトだったら、もし俺が別の家に産まれていたら、こんな風なことにはきっとならなかったんだろうな…


「男同士でもさ、そういうの。」

「ん?」

「だから男同士でもできなくもな…」

「出来るよ。」

「は?」

「だから出来るよって。」


もしかして響一、経験あるのか?俺の知らない響一、いったい何人いるんだよ。


「何で…」

「やられたことある。」

「は?いつ?誰に?は?何処で?」

「言いたくない。」

「は?ふざけんな、言えよ。何だよ。知らないのは俺だけなのかよ。」

「別に。誰も知らないよ。」

「俺には教えろよ。家族だろ?」

「まだ駄目。」

「何で。」

「ちょっと思いついたことあるから。」

「は?言えよ。」

「内緒。」

「まあいいや。これからも聞けるし。」


そうだ。これからもっと、これからもっと、俺は響一を好きにできる。

俺はもっと、響一に好きにさせてあげられるんだ。


「恭介。」

「何だよ。」

「お前が必要なんだ。」

「うん。」

「お前が好きなんだ。」

「うん。」

「お前が…」

「全部わかってるから。」

「うん。」


これからだ。これから始まるんだ。

二人の、二人だけの、俺達だけの、普通の、ごく普通の日常が。


今日の日が僕にとって、特別な日になりますように。


俺は、もう、これしか願うことしかできない。

俺は今日、俺の気持ちを、俺の本当の気持ちを、あいつに伝えようとしている。

俺の今日は、もう終わり。

俺のこれからの毎日は、きっと、もっと、落ちていくんだ。


そう思っていた。

絶望だけが待っていると。

きっとその先は、真っ暗で、何も掴むものもない、ぼろぼろのつり橋のようなものだと。


でも大丈夫。渡っていける。そっと歩けば。

でも大丈夫。辿り着ける。そっと力を入れれば。


お前は言ってくれた。俺が必要だと。

お前は言ってくれた。俺が好きだと。

それだけで、十分だ。


だから大丈夫。お前と一緒なら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

双子の憂鬱(BL) anringo @anringo092

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ