俺の独り事

俺の名前は市瀬響一、今年16歳です。俺には双子の弟がいます。名前は恭介と言います。

一卵性なのですが、二人とも特徴があって、あまり間違えられることはないです。恭介の目元にあるほくろは、特にかわいくて色っぽくて、たまに触らせてくれます。

恭介は俺が先に母親のおなかの中から生まれたと思っているようなのですが、母親は俺にだけこっそり教えてくれたことがありました。それは実は先に生まれたのは、俺ではなく恭介だということでした。何故俺にだけそのことを教えてくれたかというと、恭介は産まれた時に声を出さなかったそうです。俺の初声だけが分娩室中に響いていたそうです。それからのことはあまり詳しくは教えてもらえませんでしたが、母親は夜になると必ず「恭介は体が弱いから、響一、お父さんやお母さんに何かあったらね、あなたが恭介を守ってあげるのよ。」と、毎晩のように枕元で言ってきました。

俺は自分のことはどうでもいいのかと、毎晩のように俺の鼓膜を刺激するその言葉達に、密かに怒りをぶつけていました。俺がもし、恭介の立場だったら、この場所にいるのは俺ではなく恭介の方だったのではないかと。そう思って以来、俺は恭介に少し冷たく当たるようになりました。一緒に学校へ行かなくなったし、大好きな漫画も貸してやらなくなったので、次第に恭介は俺にあまり関わらないようになりました。


その頃です。俺は見てしまったのです。

恭介が俺のマフラーをその細い首にぐるぐる巻きにして寝ている光景を。

マフラーは双子だから一緒の色とか、そういうセンスを持っていない母親だったので、間違って俺のマフラーを巻くという行為は皆無なのですが、恭介は明らかに俺のマフラーを巻いて、それはもうすやすや寝ていたのです。何故そういう行為をしているのか、あまりわからなった俺でしたが、次第に気づいていくのです。俺のことを、恭介はそういう目で見ているということに。

最初はもちろん驚きました。男同士で、しかも血も繋がっているし、しかもあんなに冷たい態度を取り続けている相手に、果たしてここまでの気持ちを持ち続けさせることができるのだろうか。

そこで俺は考えました。恭介の気持ちを踏みにじる行為をし続けようと。でも、それだけじゃ面白くない。俺は恭介に自分の体を少しだけ触らせることにしたんです。恭介にも少しだけの甘い官能的なスパイスをあげようとしたのです。その方が、例えずたずたに気持ちを踏みつけられたとしても、きっとそのご褒美を楽しみに、俺をずっと好きでいてくれるのではないだろうかと。そうだ、きっとそうすればずっと恭介は俺だけのものになり、それはつまり、俺は恭介だけのものになる。

双子ってそういうものですよね。俺って、間違ってないですよね。

あ、恭介が帰ってきた。親二人は居間で仲良くテレビを見ています。さあて、恭介。俺達も仲良くしよう。耳は触らないでね。それ上触ったら、立場、逆転させちゃうからね。早く部屋においで。早くそのドアをノックしてよ。さあ、早く。俺だけの恭介。これからお楽しみの始まりだ。

それではこれにて、失礼します。ごきげんよう。

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