双子の憂鬱(BL)
anringo
双子の憂鬱
間違えた。俺はきっと生まれてくる場所を間違えたんだ。
だからこんなに辛い思いをしているんだ。誰だよ、間違えて俺のことをこの家の息子にしたのは。
「恭介、そろそろ時間だよ。行かないと。」
「ああ、響一は行かなくていいのかよ。」
「俺の方が説明するの得意だから。そういう処理は任せて。」
「ごめんな、口下手で。」
「いいんだよ。俺の方が早く生まれたんだから。」
「お前それ言うけどさ、順番は関係ないだろ。一緒に腹の中にいたんだから。」
「そうだね、ごめんごめん。」
響一は俺の双子の兄だ。見た目は俺の方が少しだけ大人っぽいと言われる。目元のほくろに色気を感じると、響一はよく言ってくれる。俺はそれがとても嬉しかった。俺は響一に、昔から恋をしていた。響一もそれに気づいていた。でも響一は俺の気持ちに応えてはくれなかった。響一には、それはそれは可愛らしい彼女がいた。俺の気持ちは響一の彼女が部屋に来る度に打ちのめされて、二人の甘い振動が部屋の壁から伝わる度に、俺の気持ちはずたずたに崩れていった。
それでも響一は、体に触るのだけは何故か許してくれた。手と腕とふくらはぎと、それから首。そこだけは許してくれた。耳は許してくれなかった。両親が家にいる時間をあえて狙った響一は、何故かその時間だけ俺が触ることを許してくれた。そのスリルの味をいつしか俺はむさぼるようになっていた。
そして今日も、いつものように俺は少しの緊張と少しの高揚感で胸を染めながら、この時間を迎えていた。時間というのは楽しめば楽しむほど、早く過ぎるものだとこの時間を通じて知ることができた。
「この後彼女来るんだろ。コンビニ行ってくるわ。」
「何で?」
「何でって、邪魔だろ。」
「邪魔じゃないよ。むしろいてくれた方がいい。」
「何でだよ。そんな趣味ないだろ。」
「傍にいるってわかったほうが抱ける。」
「何わけわかんないこと言ってんだよ。止めろよ。」
俺をどこまで苦しめれば気が済むんだ。俺に何か恨みでもあるのか。
俺は何故、この世で一番好きな人のことを、嫌いにならなきゃいけないんだ。
「彼女ね、恭介のこと、好きなんだってさ。俺に相談してきたんだけど、よくよく話したら性格最悪なんだもん。大事な恭介がそんな女のものになるなんて馬鹿げてる。だからね、俺、どうしてもそれ阻止したくなっちゃってさ、俺から口説いたの。そしたら簡単に落ちたわ。良かったね、変な女にひっかからなくてさ。恭介は俺のものだから。俺が恭介を守るよ。俺の方が早く生まれたんだから。俺は恭介のお兄ちゃんだから。」
耳がおかしくなったのかな。よく分からない言葉がたくさん入ってきた。
でも、不思議と満たされた気持ちになった。
そうだ、俺はずっと響一のものだ。今までも、そしてこれからも。
「なあ。それならさ、耳、触らせろよ。」
「それは駄目。」
「何でだよ。」
「触ったら…」
俺はこの家に生まれた。響一の弟として生まれた。
「もし、これ以上触ったら、俺の理性、持たないからね。」
俺は間違えたのかもしれない。生まれる場所を間違えたのかもしれない。
「理性?そんなの飛ばせよ。」
でも、この家に生まれてよかった。今やっと、そう思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます