15
10月20日
あの日から2週間が過ぎた
この2週間、審査部と管理部のあるこの5階フロアはピリピリした空気に包まれていた
その理由は
オフィスの入り口を入って真っ直ぐつき当った所に
長机を2つ合わせて2人づつ向かい合い
ノートパソコンとその横に置いた山積みの書類とファイルを交互に睨みつけている黒スーツの男性社員
監査部のせいだった
監査部とは、会社本体からは独立した立場で業務の管理がきちんと行われているか、
不正がないかなどをチェックする機関である
特に何か不正がみつかったからではなく、不定期に各部署を回り
検査及び監査をしていくのだが
やはり他のどの部署とも違う独特で威圧的な空気をまとい
黙々とチェックしている監査部の社員と
同じ空間で仕事をするのは何ともやりにくい
何も悪いことをしていないにも関わらず交番の前を通るとドキドキするような感覚に似た緊張感の中で
早紀達はこの2週間をすごしていた
昼の12時になり、皆が一斉にフロアから出て行く
お昼休憩なのだが、普段は自分のデスクで簡単に済ませる社員もこの空気感に息がつまり
皆外に出て行く
美加と早紀も例外ではない
1週間の半分は手作りのお弁当を持参している美加でさえこの2週間はすべて外食にしていた
会社の向かいにあるイタリアンのお店
美加と早紀は入り口付近の窓の近くの席で
ランチセットのパスタを挟んで向かいあっていた
「まーったくいつまでいるんだろう監査。
この前は1週間くらいで帰ったのに」
美加はそう言いながらパスタの上でフォークをくるくると回し、さらに続けた
「馴れ合っちゃいけないのは分かるけど、
あんな怖い顔で仕事してたら
やましくなくても横通ったら謝っちゃい
そうだよね」
美加の言葉に早紀は思わず笑ってしまった
「でもほら、今日は林田さんの誕生日会だ
から、楽しみがあるじゃん♪」
「そだね。
あ、一応開始時間を林田にメールしとこ」
美加はスマホを取り出し林田にメールを打ち始めた
同じようなタイミングで運ばれてきたコーヒーカップを早紀はゆっくり手に取った
あの日から2週間も経つ
同じ空間にいても挨拶をするタイミングはおろか、すれ違うことすらもなかった
ホームで手渡された缶コーヒーは結局開けられずに
自分のデスクの隅に置いてある
忙しい毎日でもデスクから見える渡瀬の横顔に目がいかない日はなかった
そんなことを思いながら手に取ったカップに口をつけふと窓の外に目をやると
店の前にの横断歩道を会社側からこちらに向かって歩いてくる渡瀬が見えた
片方の耳にスマホをあて険しい顔をしている
丁度店の前に差し掛かった渡瀬は何気なく向けた視線が、歩いてくる渡瀬を見つけていた早紀の視線と窓越しに一瞬、交わった
ドクンっ
早紀の心臓がひとつ、大きく跳ねた
渡瀬は電話の相手に返答するように自身の腕時計に視線を移した
そしてそのまま早紀の視界から外れて行った
耳元で自分の心臓の音が聞こえる
時間にすれば1秒たらず
ただ目が合っただけでこんなにも心臓は早く脈を打つものなのか
早紀は渡瀬がいなくなった景色をそのまま見つめていた
「…間野ちゃん?おーい?」
美加がボーッと窓を見ている早紀の顔の前でヒラヒラと手を振った
「どしたの?ボーッとして」
我に返った早紀は正面で不思議そうに首をかしげる美加の顔を見て
「ううん、なんでもない」
そういって笑顔を作ったが
心臓の鼓動は早いままだった
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