13
話をしているうちに長い通路を抜けた
そして目の前に現れたのは長い長いエスカレーター
都内の地下鉄でもこれほど長いエスカレーターは珍しい
何重にも地下鉄が走り、巨大なアリの巣のような東京の地下
特に東京駅は地上に出ているホームだけでは足りず地下2階までは地上線が乗り入れる
地下鉄はそのさらに下
アリの巣の間を縫って地上駅構内と地下ホームを繋いでいるため
接続するのに必要な通路も、地上に上がるためのエスカレーターも長くなってしまうのだ
渡瀬は最初に早紀をエスカレーターに乗せ
自分が後に乗り込んだ
「課長はこの時間まで残業されてたんですか?」
早紀はステップの上で横向きになり、
2段下にいる渡瀬を見た
「うん、着任初日っからねー。
色々やることがあって」
「…私、朝礼で課長を見て驚きました
まさか助けてくれた人が管理部の課長
だったなんてって」
「そう?俺はトイレ前でぶつかった時の
方が驚いたけどね」
「あぁ…あの時はすいませんでした
…前を見てなくて」
「そうだったね、水歌に気を取られてた
んだっけ?」
渡瀬はそう言ってニヤリと笑った
「いやっあれはそぅじゃなくて…いや…
それはそうかもしれませんが…」
しどろもどろになった早紀を見て
「あはは、悪い。
あれは俺の不注意でもあったね」
今度は面白そうに笑う渡瀬
渡瀬が口にした
“水歌に気を取られて”
この言葉で、
落としたスマホの画面を渡瀬が目にしていたことがわかる
“やっぱり”
早紀はそぅ思って心の中で笑みを浮かべた
「課長は水歌がお好きだと林田さんから聞
きました」
「あぁ、うん。もともと日本酒が好きなんだ
けど水歌はちょっと特別でね。
一度林田に飲ませたことがあったな
水歌は置いてる店も時期も限られてるから
なかなか飲めないのが残念なんだけど」
早紀はそれを聞いて、林田のために水歌を探しでねすごい苦労したことを思い出し
しみじみ頷いた
エスカレーターの降り口が近づき
早紀は前に向き直った
先にステップから降りて歩き出した早紀の足元が目に入った渡瀬は
「そのヒール、もしかして朝のマンホールで
キズついたの?」
そぅ言って早紀の足元を指差した
早紀は身体を後ろにひねってヒールを見た
朝、同様に美加から指摘されたことを思い出した
「あー…そうです。
あのマンホールでやってしまったみたい
ですね」
早紀は左のヒールのキズを見て改めてショックを受けた
「その右側のヒールについてるキラキラしたのと同じものが付いてたんでしょう?」
渡瀬が指差した右側のヒール部分には
ストーンが斜めに3つ並び光に反射していた
「そうです。。
星みたいでキレイだなって思って殆ど 一目惚れで買ったんです…
明日元のように直せるか聞いてみます」
「直せるといいな」
少し寂しそうな顔をした早紀に
渡瀬は優しく言った
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