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林田は思いがけない質問に面食らいながらも答えた
「好きだよ。かなりね。
だって“水歌”を俺に教えてくれたのは
渡瀬さんだもん」
『そうなの?』
意外な事実に
思わず美加と早紀の声が重なる
「だーかーら、ハモるなって!
そういや今日昼に渡瀬さんにも
同じこと聞かれたな」
「え?」
早紀が乗り出した
「いや、俺と仲良いのかとか、
間野も水歌好きなのかって」
「間野ちゃんが水歌を?
林田それなんて答えたの?」
「なんてって…そのまんま。
仲はいいけど、水歌が好きかはどうかは
分からないって…」
そこまで言ったところで林田は自分の胸ポケットをおさえた
振動音が鳴っている
取り出し画面に表示された文字をみて
「管理部からだ。
ちょっと電話してくる」
そう言って店の外に出て行った
早紀は今の林田の話を聞いて心でひとつ
確信が生まれたていた
林田が出て行くのを見送ると美加が少しだけ小声で
「それにしてもさ、なんで渡瀬課長がそん
なこと聞くんだろうねー」
と不思議そうに首をかしげた
早紀は、林田が取り上げる前に美加に見せていたスマホの画面を開き
もう一度美加の目の前に出した
「この内容、水歌の在庫確認メール
私渡瀬さんとぶつかった時にこのメール
開いてたの。
落としたスマホを拾ってくれた時、
きっとこの画面が見えたんだと思う」
「え?どゆこと?」
美加は反対側に首を傾げた
「画面に出てたのは在庫ありと水歌の画像
それが見えて思わず聞いたんだよ
“好きなの?”って」
「…はぁ? このお酒が“好きなの?”
っこと?」
「正確には、
このお酒が“好きなの?” “俺も”好きだよ
なんだと思う」
言い終わると少しの間の後
美加が笑い出した
「まったくバカバカしい!
紛らわしいっつーの!!
考えた時間を返して欲しいわ。
…すいませーん!生おかわり!」
美加のセリフは
そのまま早紀も思ったことだった
こんな真相に悩んだことがバカバカしい
たまたま起きた偶然に特別な意味を重ねるなんて
テレビや本の世界じゃあるまいし
冷静に考えればわかりそうなこと
そう思うと笑えた
電話を終えた林田が
両腕をさすりながら店の中へ戻ってきた
「あー外寒かったー
で、何の話だったっけ?
…あぁ、渡瀬課長と水歌の話だ」
イスに座るとまた生ビールを一気に飲み干し
「あそぉそぉ!水歌といえばさ、
さっきらお前らが見てたメールの内容
水歌のことでしょ?
それってもしかしてもしかすると…
俺のための??」
林田は空のジョッキを置くと
期待でキラキラしためで美加と早紀を交互に見た
「…まったく。
本当はサプライズにしようと思ってた
のにねー、間野ちゃん」
美加がつまらなさそうに口を尖らせた
「マジで?!手に入ったの?!
ヤバイじゃん!超~嬉しい!」
両手でガッツポーズを作り大げさに喜ぶ林田に呆れながらも
素直に嬉しい気持ちになって美加と早紀は小さく笑い合った
「そうだ!林田の誕生会、
当日の20日でいい?林田のシフトは
朝勤?昼勤?」
美加は手帳を開いてペンを出した
「20日は朝勤だよ」
「じゃ19時半から予約するね」
「美加さんどこのお店にするの?」
美加はにっこり笑うと
「もちろん! こーこっ♪」
人差し指でテーブルをトントンと鳴らした
「ここかよっ!代わり映えしねーなー」
林田が店の中を見回すと
カウンターのところでこちらを見ている店主と目が合った
「林田くーん!任せといてよ~!」
満面の笑みで手を振る店主に
林田は苦笑いしながら片手をあげた
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