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午後からずっと
早紀はどこか上の空だった
もぅ会うことはないと思っていたところに
思いもよらない形で現れたこの偶然
相手からしてみたら本当にただの
偶然にすぎない
ただ前を歩いいた女性が転びそうになったから助けた
出勤したらその女性がいて、たまたまトイレの前でぶつかった
そのくらいにしか思わない
きっと私もそうだったはず
謎の質問をされたせいか
助けてもらった時に掴まれた腕に残る感触のせいか
それとも
あの甘くて我の強い香りのせいか
助けてもらった時も
また目の前に現れた時も
ぶつかった時も
少し早く脈を打った自分の心臓が何かを勘違いさせているのか…
早紀のデスクから
管理部のデスク、特にひとつ出ている課長席はよく見えた
パソコンに向かう渡瀬の横顔が目の端に入るたびに
早紀はモヤモヤする頭を小さく振った
18時
終業時間を告げるアラームが鳴った
早紀は待っていたかのように席を立ってオフィスを出た
スモーキングルームの脇には
カップ式の自動販売機が2機並んでいる
早紀は小銭を入れ
ホットのミルクティのボタンと砂糖多めのボタンを押した
それを一口飲むと小さく息をついた
いつもは砂糖のボタンなんて押さないのに
今日はなんだか甘いものが欲しかった
「太るぞ、砂糖多め」
声のした方を見ると
片手にタバコとライターを持った林田が立っていた
「あぁ、ちょっと疲れて糖分が欲しくて」
早紀は苦笑った
「一服しにきたらお前が見えたから珍しい
と思って。いつもすぐ帰るのに」
「たまにはね。でももぅ帰る。
林田さんは?帰らないの?」
「まだやらなきゃいけないことあるから
あと1~2時間てとこかな」
「ふーん、朝勤なのに大変ね」
審査部に関しては審査をを受け付ける時間かが決められているため、残業は少ない
なので自身の仕事が片付けば定時で帰宅できるが、管理部は違った
法律上、支払いの請求に関して電話などで連絡を取る際は
夜21時までは許容されているため
シフトを組み
朝から定時までの朝から勤務と
昼から最後までの昼から勤務というように分かれている
早紀はまた自販機に小銭を入れ
ホットのコーヒーのボタンと
また砂糖多めのボタンを押し、出てきたカップを林田に差し出した
「はいっ。ザンギョー頑張って」
「…お前これ、砂糖多め押したろ。
俺コーヒーはブラックなんだけど」
「知ってる。人のおごりに文句言わなーい
じゃね。お疲れ様」
早紀はミルクティを飲み干すと
軽く手を振ってオフィスへ戻っていった
ロッカーで帰りの支度をしていた美加が
早紀を見つけて声をかけた
「お疲れ間野ちゃん!
ご飯食べて帰らない?」
「そーだね、いこっか!」
疲れてはいたが 、何となく真っ直ぐ家に帰る気がしなかった早紀は
美加の誘いが嬉しかった
会社を出ると外はもう薄暗く
周りのビルのネオンサインが光り出し
居酒屋の客引きが、
帰りがけのサラリーマンにメニュー表を片手に声をかけ始めている
「どこにしよっか?」
早紀は周りのビルを見回した
「ふふーん♪もぅ決まってるの」
美加は楽しそうに笑うと
早紀の腕を組んで歩き出した
美加の目当ての店は
お昼に入ったイタリアンの3件隣りにあった
入り口横に 今日のオススメが書かれた小さな黒板がライトアップされ
看板には大きく筆文字で
『マス屋』
と書かれている
店の前まで来て美加は
「昼がダメなら夜よ♪」
そう言って入り口にかかるのれんをくぐり
店内に入って行った
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