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早紀の勤務する会社のビルは
先ほどの横断歩道から少し歩いたところにある
ライトグレーを基調とした15階建てのビル
エントランスは2階ほどの高さまで吹き抜けて広々としている
出勤してきた社員たちは
奥に2機あるエレベーターの前に列を作り
自身の番を待っていた
早紀もその列の後ろに並ぶ
「おっはよ!」
後ろから肩越しにはずんだ声
振り返るといつも通りに髪の毛を
頭のてっぺんで大きくおだんごにまとめ
小さい丸顔から八重歯がニコっと笑う
「おはよう、美加さん♪」
早紀も笑顔を返した
*河本 美加*
年齢も社歴も早紀の1年先輩で
早紀が新入社員のこほに勤務指導員として
一緒に仕事をしていたのがきっかけで
何かとウマが合うのか
今では先輩ながらも
お互い何でも話せる親友のような存在になっている
すらっと細身の可愛らしい女性だ
「あれっ。間野ちゃんのパンプス、
左側のヒール傷ついてるよ?
これ、買ったばっかでしょ。
どした~?」
「えっ!うそっ」
早紀は慌てて美加が指差す方の足を
後ろに浮かせ
体をひねってかかとを見た
7センチヒールのネイビーのパンプス
ピンヒールに小さいストーンが斜めに3つ並び
一目で気に入りつい2日に買ったばかりだった
見るとヒールのストーンが取れて
斜めに削れたようなスジが入っていた
「あーもぉ…ストーンまで取れてる。
……あれだ。…あの時」
早紀は先ほど起こった小さな不幸を思い出した
「あんのマンホールめ……」
「マンホール? ハマったの??笑」
美加の口元に八重歯が覗く
「さっき交差点でマンホールの蓋に引っかか
って転びそうになってね…その時だ絶対」
軽く痛んだ左足を思い出してため息をついた
「まぁ、転がっておっきなケガしなくて良か
ったぢゃん♪」
美加がまた八重歯をのぞかせている
「そりゃそうだけど…なんか悔しい。
あ…。その時ね、転びそうにた時
助けてくれたヒトが ー」
言いかけたとき
「おーい、早くボタン押せよ」
2人のすぐ後ろから声が飛んできた
その声にエレベーターを見ると
自分達の前に並んでた列が
きれいにエレベーターの中に収まり
電子表示された階数数字がどんどん上っていた
早紀は慌てて上矢印のボタンを押した
「おはよう、林田!」
美加が振り返ってまたニコっと笑っている
「おぅ。おはよ」
2人の後ろにいたのは 林田 尚行
美加と同期だが、
大卒なので年齢は2人より上になる
同期の美加とは何かと仲が良かったが
そこに早紀が加わり
今では周りからも3人兄妹のような扱いを受けるほど仲がいい
「林田さんおはよ。まーたそんなの飲んで…」
早紀は2人に向き直り
林田が手にもっていた
ピンクの紙パックを指差した
「あぁ? いーんだよ。
朝は糖分とらないと頭がまわらんのよ
朝のエンジン、イチゴ・オレ」
そうゆうと林田は
パックに刺さったストローを
チューーっと一気に吸いあげ
中身を飲み干すと
「うまい。やっぱこれだよ」
と中の空気が無くなり
変形した紙パックを2人に見せて笑った
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