白百合
蛆が幽かに頬を舐める音を聞いて目覚めた私は眼球が含む僅かな湿り気がついさっき空気に溶けてしまったことからわりと干からびた状態。
床に映る虹は零れ落ちた水晶体が蛍光灯の光線のその透明な白を七色に透かしたちいさいちいさい投影です。
水面に雫が滴るぴちゃりの音が幾重にもあればこのように血肉と唾液に濡れた幼虫が死体を這い啜りはちきれそうに膨らむ音になります。
私は死んでいるから、息絶えているから。
死んでいる私を見ることはできなくて、死んでいる私をぼうっと眺めているのはきっとあなただよね。
私の死をひとり知ったあなたは悲しんで涙を流すけれど、いつか忘れてしまう。
ビニール紐に吊られて死んだ私も、拍動を続ける臓腑を吐き散らして死んだ私も、いまの私も。
私が死ぬことを忘れることをあなたは繰り返す。
蛹から羽化した蠅が空へと還るざわめきに目覚めたあなたは枕元に積まれた本を読んでそれがなくした本だったことを思いだすのだろうか。
その本が私があなたにあげた本だったらいいな。
また涙を流してくれるといいな。
首がぽきりと折れたころの私を百合に似てると誰かが言った。
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