第49話 攻撃開始

 菅原はボクシングの構えでステップをとる。目の前には、銀色のスーツを着た男が立っている。しかしその表情には生気がなく、両眼は白く裏返っているのだ。

 だらりと腕を下げたまま、肩からぶつかってきた。

 するりとそれをかわすと、強烈なフックを見舞う。手にはめた金属製のナックルが、相手の頭部に食いこんだ。傀儡はへこんだ頭部のまま、グイッと顔面を向けてくる。


「ゲゲッ、こいつ倒れねえ」


 菅原は続けざまに攻撃を繰り出す。男は顔面を変形させられて悲鳴を発するわけでもなく、こちらに手を伸ばしてくるのだ。


「シュッ!」


 鋭い気合とともに横から洞嶋が両腕を突出し、男の胴を打った。


 陳式太極拳で、発勁はっけいと呼ばれる秘技だ。身体の中で溜めた〈気〉を、手のひらに集中して爆発させることによって攻撃する必殺技である。

 空手のように相手の表面を打ち砕くのではなく、相手の身体の内部に外側から猛烈なエネルギーをぶちこむのだ。


 男の動きが止まった。

 制御せずに放たれた洞嶋の気が、相手の内臓を直撃した。口、鼻、耳から黒い煙が漂う。

 ドゥン、男はようやく倒れ、ぴくりとも動かなくなった。


「す、すげえ。姐さん、すいやせん! 俺が姐さんを守らなきゃいけねえのに」


「ばか。私は守るのが好きなんだよ。さあ、まだまだくるよ」


 洞嶋はウインクする。素晴らしくキュートな表情に、菅原のハートに火が点いた。


「とんでもねえ! 不詳菅原、姐さんをお守りさせていただきやす」


 叫びながら、迫る傀儡の群れに飛びこんだ。


「きゃー! きゃー!」


 斜目塚は悲鳴を上げながら、スタンガンを振り回す。その声とは裏腹に、嬉々とした表情を浮かべている。

 出力をマックスまで上げたスタンガンは、薄紫色の火花を飛ばしながら襲ってくる傀儡に電撃を見舞う。元チアリーダーだけあって、斜目塚はバトンタイプのスタンガンを、片手で意のままに操っていた。

 バトンが当たる度に男たちはビクンッと身体を硬直させるが、致命傷には至らない。


「危ない!」


 斜目塚の背後から飛びかかる男に、猿渡はチェーンの先端を投げつける。首に絡まったチェーンを、思いっきり引く。

 ゴキッと音を立てて男の頸椎が折れ、後ろ向きに転倒した。

 斜目塚は男の口の中に、バトンを突っ込む。


「後ろから襲うなんて、サイテイッ」


 スタンガンのスイッチを入れた。傀儡は無表情のまま、ビクンビクンと顔を痙攣させた。もわっと黒い煙が立ち込める。


「助かったわ、ありがとう」


 斜目塚は猿渡に頭を下げた。チェーンを巻き上げながら、猿渡はニコリと微笑んだ。


つづく

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