第47話 セーラー服の武芸者

「タァーッ」


 みやびは十文字槍に気合をこめて突き出す。アロハシャツを着た丸坊主の傀儡は一撃で吹き飛び、切り裂かれた胸元から黒い邪悪な煙が舞い上がる。


(いくらでもかかってらっしゃい。絶対に負けないんだから。

 タマサブを、もしも、もしもどうにかしちゃってたりしたら、アタシは許さない! 太っちょで、アニメとアイドルのオタクで、独りよがりで、無免許だけど、アタシの大切な仲間なんだから。

 免許皆伝は伊達じゃないってことを教えてあげるっ)


 セーラー服を着た武芸者は、体力と精神力をマックスまで引き上げていた。


「デヤアアッ!」


 続けざまに傀儡二人を切り裂く。

 みやびの左でナーティが、右で伊佐神と洞嶋が死闘を繰り広げていた。


「み、みやびーっ」


 背後から斜目塚の声が聞こえた。


「えっ?」


 みやびが一瞬ふり向いた時に、傀儡のひとりが飛びかかってきた。

 ギュリーンッ! 鎖がみやびのすぐ横を走り抜ける。顔面を鎖でつぶされた傀儡が、吹っ飛んだ。


「間に合ったぁ」


 猿渡が鎖を手元に回収しながら駆けてくる。斜目塚と菅原も続いてきた。

 みやびは、マネージャーに安堵の視線を送った。


「弥生さん! 良かった、無事なのね。あの光の幕を破ったの?」


 走り寄った菅原が、後方を肩越しに指さした。


「へへへっ、どうあっても柱が壊せねえから、ショベルで土をほじくり返してよ、あの光のカーテンを地面の下から潜り抜けてきたつーわけ」


「さすが、アニキっす。ところで、あの土木部の方々はどうされるんで」


「とにかく、なんとかして柱をぶっ壊すってよ」


 どうりで、三人の衣服が土で汚れているわけだ。


「おうっ、おまえたち、無事だったか!」


 みやびの右先で、伊佐神が傀儡相手にドス一本で闘いながら、ちらりとふり向く。

 洞嶋が脚を鞭のようにふり回し、金髪の特攻服を分脚ぶんきゃくでなぎ払う。


「お待たせいたしやしたあっ」


 菅原と猿渡が伊佐神のもとへ走った。

 みやびの研ぎ澄まされた聴覚が、異音をキャッチした。背後に張られている光の幕が、揺らめき始めているのだ。キンキンともジンジンとも聞きとれる、小さな音だ。


「またなんかやばいかも、弥生さん」


 スタンガンを振り回す斜目塚に、みやびは言った。

 異音は他の者にも聞こえ始めた。


「みんな、あの道から森の奥へ走れ!」


 伊佐神が叫ぶ。

 指さす方向に、獣道のような木々の隙間があった。傀儡どももいない。


「オッケイ、しゃちょー。いっくよーっ」


 脚力に自信のあるみやびは十文字槍をふり、走り出した。


「私は、元短距離走の国体選手よ」


 斜目塚はスタンガンから高電圧の火花を飛ばしながら、駆けだす。


「じゃあ、藤吉さん、ワタクシも行くわ!」


 ナーティは黒スーツの傀儡を身体ごと?の幹に串刺し、叫んだ。その後ろを菅原、猿渡と続く。


「しんがりは私が。社長、行ってください」


 洞嶋は獲物を狙う猛禽類のように、瞳をランランと光らせながら言った。


 みやびを先頭に、斜目塚、ナーティ、菅原、猿渡、が走る。

 そして伊佐神は、護衛の洞嶋をふり返った。ヌンチャクを自在に操り、つかみかかってくる傀儡を撃退している。

 

 先頭のみやびは獣道を駆ける。

 膝ほどの熊笹が茂っているが、周囲は光の幕のお蔭で、切り株の位置もぼんやりとだが見える。

 道は徐々に勾配がきつくなるも、みやびは息を切らすことなく走った。

 どれほど登ったのだろうか、何か様子がおかしい。みやびは、突然立ち止まる。


「どうしたの? みやび」


 後ろからぶつかりそうになった斜目塚も、あわてて止まる。

 薄暗い足元を確認しながら走ってきたことによって、斜目塚はあらためて顔を上げた。眼鏡の奥の細い目をしばたたかせた。


「な、なになに、なんなのよう」


 続いて走ってきたナーティ、菅原、猿渡も立ち止まり、息をのんだ。


つづく

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