第45話 光の幕

 みやびとナーティ、伊佐神と洞嶋の四人が森へ入った直後、石柱の鳴る音が変わった。

 機械の獣が心臓の鼓動を速めたような、神経を逆なでする響き。そしてガラスを引っ掻く高音に振り向くと、鈍色の光の幕が森と土道の間を遮断するように走っていく。


「ああっ、弥生さん」


 みやびは叫んだ。まだ斜目塚と菅原、猿渡の三人は土道側にいる。


「ちょっと、藤吉さん、これはご存じなの?」


 ナーティが抜身の刀を持ったまま、伊佐神に問う。

 横に立つ洞嶋の眼は常に周囲を警戒しているが、耳は伊佐神に向けられていた。


「す、すいません、みなさん。わたくしの予知夢でも、この状況までは視せてはくれてねえ」


 みやびは十文字槍の切っ先に力を込めて、「やあーっ!」と光をつつく。だが、ゴムに跳ね返される感触で押し返されてしまう。


「だめよ。大抵のものは突き通すはずなんだけど」


「そうなの?」


 ナーティがずいっと巨体を動かす。


「フンッ!」


 鋭い気合を発し、右手の日本刀を宙に走らせる。光の幕はそれでも切断されることなく、輝いたままであった。


 ガイーンッ! ガイーンッ!


 漆黒の石柱が鐘を打つような音を響かせ始めた。

 四人は油断なく身構える。


 ザンッ、と草ずれの音に、みやびは森をふり返った。


「おやおや、あんたたちは何者だい。まあ、誰でもいいさ」


 贄の柱と呼ぶ石柱を南の大地から蘇らせた蠍火が、青い姿を現す。

 みやびはすでに十文字槍の刃を向け、臨戦態勢にあった。


「今度はブルーのおねえさん登場ってわけね。唇が青いけど、風邪でも引いてんのかしら」


 ナーティと洞嶋は伊佐神を守るように、手にした武器を構える。

「わたしゃあ社にもどるから、あんたたちとは遊んであげられないけど。あとは、任せたよ」


 ブルーのアイシャドウをひいた妖艶な眼に、ゾワッと寒気の走る笑みを浮かべた。

 蠍火は膝を屈伸させると、一気にジャンプする。人間とは思えない跳躍力で宙に消えたと思ったら、暗い森の木立から再び数十人の傀儡が姿を現した。


つづく

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