第37話 ゼペットじいさんの贈り物
リビングルームにいる全員が伊佐神に注目した。
伊佐神は立ったまま宙を凝視する。
「みなさん、聞いておくんなさい」
ナーティがティカップをテーブルに置いた。
「そうだったわね。藤吉さん、また視たのでしょ」
伊佐神はこくりとうなずいた。
「へい。はっきりと、視てまいりました」
みやびはごくりとハーブティを飲みこんだ。やけに音が響いたため、舌をペロリと出して照れ笑いを浮かべる。
「わたくしたちがこれまで出会った雍和は、いってみれば生まれたての赤子。つまり何かを大きくしでかす前に、みやびさまに葬っていただきました。
それに珠三郎さまがビデオでお撮りになった映像から、得体のしれぬ魔奏衆とやらが、後ろで手ぐすねを引いているものとばかり思っておりました」
ナーティは占術師から聞いたことを思い出した。
「それは、魔奏衆に後ろ盾がいた、ってことかしら」
「おっしゃる通りです」
「はい! それは誰なのですか」
斜目塚が手を挙げて発言した。伊佐神は頭をふった。
「申し訳ありません。その親玉はまだ予知できねえんです」
伊佐神は続けた。
「だが、今回はその親玉がどうやら登場するようなんでさ。しかも、雍和も大量に生み出され、そのうえ、超雍和まで現れてきやがるようで」
「社長。私たちは実際にその連中に遭遇していないので判断しかねますが、どうやって戦争されるおつもりでしょうか」
洞嶋が静かに問うた。
ナーティは口元に笑みをたたえながら、洞嶋に目をやる。
「レイちゃん、まかせて。雍和っていう化け物に関しては、このワタクシとそちらのみやびちゃん、それにここに はいないけど、タマサブっていうオタクがやっつけちゃうから」
猿渡が小さく挙手した。
「俺らは、どうすりゃいいのでしょ」
ナーティが言った。
「ワタクシの親友が色々と詳しくてね、アドバイスをくれたわ。
あのね、どうやら魔奏衆ってやつらは生きた人間から生命力を吸い取って、それを他の人間に植え付けるそうなの。植え付けられた人間は、魔奏衆の家来になるらしいわ。
そうなったら、もう人間じゃなくなるんだって」
「アッ! それだ」
みやびが大声を出した。斜目塚も同意する。
「アタシたちを襲った暴走族の連中、タマサブに攻撃されたあと、まるで操り人形みたいになってたもん」
「なるほど。となれば、その乗っ取られた人間を、私たちがお相手するという次第ですね」
洞嶋の眼が光る。
伊佐神は皆の話を聞きながら、再度話し始めた。
「化け物の出現場所は、夢のお告げでわかります。この一両日がエックスデイとなりますでしょう。
みやびさま、ナーティさま、斜目塚さま、それにおまえたち、どうかよろしくお願いいたします」
頭を下げる伊佐神に、全員が力強くうなずく。
みやびのスマートフォンが来電を告げた。
「はーい、みやび。ああ、タマサブね」
みやびは室内の全員に目配せする。
「出来たって、なにが? はあ? 会ってからのお楽しみぃ? またわけのわからないことを言って。みんな揃っているよ。うん、うん」
みやびは嬉しそうに珠三郎と話している。
「了解よ。で、今から来るのね。場所はわかるかな。
はんっ、そういえばアタシの居所は筒抜けざましたわね、いいけどさ。はいはい、はーい」
通話を切った。
みやびはすぐに今のやり取りを話し始める。
「タマサブは東郷町にいるそうなのです。それで、全員そろっているなら危険度を減少できるから、全員で行動したほうがイイって、偉そうに言っていました」
「ホント、偉そうな栄養袋だわね」
ナーティが毒づく。
「今からこちらまで来るそうです」
みやびの声に、安堵の色が混じっていた。
~~♡♡~~
珠三郎は依頼の品をリュックに入れた。
「そうじゃ、忘れるところじゃったわい」
ゼペット爺さんは、年季の入った厚手のビニール袋を差し出した。コンビニで買い物をした時に品物を入れてくれるくらいの大きさであった。
何が詰められているのか、袋は膨らんでいる。
「おまいさんが何をやるのか詮索はせんがの、水ようかんのお返しじゃ」
珠三郎は袋を受け取った。
軽い。見た目ほど重くないのだ。
「何をいただいたのかなあ」
中をのぞくと、パチンコ玉が大量に詰められていた。
「これは、やけに軽いね」
「おうよ。ジュラルミンやシリコンを混合しての、軽量かつ頑丈に作ってやったわいな。おまいさん、どうやら
鉄球じゃと重すぎるしの。これなら持ち運びによいしな。破壊力は鉛合金の弾芯に、銅合金の被甲をかぶせた弾丸の比じゃないぞい」
「ありがとう! これはいいものをもらっちゃったなあ、グヘヘヘッ。
そうかあ、破壊力はピストル以上ということは、確実に仕留められるってわけだねえ、ぐふっぐふっ。ところで、この金属板の製作費用なんだけどさあ」
ゼペット爺さんは顔の前で、軍手をはめた手をふる。
「なあに、まだ実験も済んどらん製品で銭をもらうわけ、いくめえ。それに一番銭のかかる頭部はまだだしな。おまいさんが落ち着いたらでいいわい」
「そのぶん、わりましで、おねがいするようにね、タマチン」
ミカエルが笑う。
珠三郎は外のミニクーパーを指さした。
「それと、あの車もよろしくね」
「おう、まかせなだぜ。ばんきんとそーは、ミカちゃんの、おいえげーね。レッドよりもレインボーのほうが、きれーなかんじよ」
「うん。七色でいいかも。ついでにアメコミの怪人でも、ボディにペイントしといてよん」
「オッケイ、オッケイ。それでは、ミカちゃんのラブリーな、こねこちゃんのキーを、かしてさしあげまーす」
ミカエルはポケットから、オートバイのキーを取り出して放った。
珠三郎はリュックを背負い、工場の前に停めてあるホンダのアフリカツインにまたがる。ビッグオフと呼ばれる、大型排気量のオフロードバイクである。
ハンドルに掛けてあるオフロードヘルメットをかむり、エンジンを始動させた。
「じゃーねー、まったねー」
珠三郎は手をふり、きびすを返した。
ミニクーパーに潜んでいたどぶねずみは、人の言葉を理解しているがごとく、珠三郎がバイクをスタートさせた直後に走りだした。
勢いをつけてバイクの後輪側から昇り、背中のリュックの隙間にもぐりこんだのだ。
珠三郎はそれに気づかず、勢いよく飛び出していく。
つづく
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