ぜんはん
「ショートケーキ、食べたい」
「…は?」
隣に。もう、すぐ隣に。半径何メートル、とか言うレベルじゃなかった。
なんかがいた。隣にいたことに、声を聞くまで全く気がつかなかった。
俺が状況についていけない中、そいつは俺のほうを向いて喋りはじめた。
「アナタ…見たところ人間のようですが…」
いや、人間だから。
「こんな場所で何をなさっているのですか?」
…なんか質問された。
「何もしてないをしているんだよ」
思わず答えてしまった。
黒歴史の1つだ。無駄に長い名前の少年にハチミツ大好きな熊が言う台詞を、初対面の奴に言ってしまったのだ。今思うと泣きたい。
「あらー、そうですか」
だがそれだけだった。名作アニメの台詞を言う痛い青年に対して無関心な奴だな、とかそのときは思っていただけだった。
だから簡単に会話が成立していたんだろう。
「…あんたこそ何者なんだよ」
なんとなく聞いておきたかったので聞いてみたが、いやに飄々とした顔でコイツは、俺の予想の斜め上をいった。いや言った。
「知りませんよ、そんなの」
そのときの俺には全く意味が分からなかった。
「ちょっと、分かんないってどういうことだよ?普通は分かるぜ、自分のことなんて」
そう聞くとそいつは一瞬ものすごく変な顔になり、
「しょうがないじゃないですか」
一言。
「私には何であるかは分かりますけど自分がどうなのかは分からない、それだけでいいでしょう」
また一言。
意味が分からない。…こいつ、この国の人間だよな?
そう思いそいつの全身をキチンと見てしまったからだろう。それは普通に、そこにあった。二度見てみても、そこにあった。くっついていた。
…"根"のほうが正しいのだろうか。とにかく、生えていたんだ。
見た目は普通に俺と変わらないくらいの歳の女の子。黒く短めな髪、黒い瞳、…今考えるとけっこう美形だったな。
そんな彼女の全身を包んでいる白のコートの背中部分から、出ていた。
二枚。とても白く。淡く。それでいて力強く。
羽根、が。
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