そんなに世界は甘くない。
嗚呼原 旅歌
プロローグ
「かといって、そんなにヒドくも、ない」
都会特有の喧騒が耳についた。自分に見下ろされていることを知らない人々は、夕方だからなのかやや足早に歩いていたのが目立っていた。
冬の風がなぜか目に染みた記憶がある。
黒い帽子に黒いマフラー、眼鏡にマスクに黒のコートと、全身みた人の全てにこの人は不審者だと思ってもらえるような服装をしている俺だったが、これでも一応は防寒しているつもりだった。
眼鏡ごしの景色は、ヒドく寒く思えたのを覚えている。
17:50を指しているケータイには着信のランプがついていたが、俺は構わず電源ごと切った。
俺は何をしようか、ずっと迷っていたままだった。
――まぁ結果として。その当時には考えられないようなことが、そのすぐ後に起こったわけで。おかげで俺は、これからの…なんというか人生の目標ってやつができた。
なぜか?
これからの人生を考えるだけで絶望してるときに、あいつに出会ったから。それしか理由がないし、そうとしか答えられない。
俺は、あの時間あの場所で偶然にも出会ってしまった。俗に言う"得体の知れない何か"って奴に。
ショートケーキがどうのとか言いながら現れた、そいつに。
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