第4話 3時間後の世界、その3時間前の世界。そして世界のアルカナ
橘亨は監禁されている部屋のベッド隣にある小さな冷蔵庫を開けた。
思惑どおり、冷蔵庫の電源は生きており適度に冷やされたミネラルウオーターの入ったペットボトルが1本あった。
それを手に取ると携帯を操作しながらベッドに戻った。
部屋が適度な温度に管理され、拉致監禁した者はここで自分をどうにかしようとしないこと、それが部屋の温度からも理解できた。
また、冷蔵庫の中には水が提供されていること。
食料はなく、水だけということ。
監禁した者は必要以上に多くの時間、亨をこの部屋で監禁するつもりはないことが推測できる。
監禁時間は2、3時間程度ではないだろうか。
おそらく、端末の操作、ルールの文章を読ませ理解をさせるため、このような状況を与えたのではないかと思った。
だから、必要以上に慌て、取り乱し、出口を探すという行動は無駄ということ。
必要なのはこの端末の記載された文章に目を通すこと。
取り乱し出口を探すのは自分の思惑を外れてからでも遅くないのではないか。
亨はそう思った。
適度に冷えた水を一口だけ含み、喉を潤し、キャップを閉めた。
自分の思惑が外れた時のため、必要以上の水分の消費は避けたほうが良いと思ったからだ。
「まずは、基本ルールか」
亨は液晶に触れ、基本ルールに目を通す。
多くの項目がいくつも並ぶ。
基本ルールの大まかな内容は。
・一人に一個端末を与えられ、その能力を使うことができる。
・初期状態では端末の所有者以外使用は不可能である。
能力、その他のアプリケーションも同様である
つまりは、その端末を所有、扱うことができるのは本人のみであること。
この項目を読んで亨は首に巻かれている記憶のない首輪に手を触れる。
指紋、音声認識やパスワードで上記の管理を行っていないなら、もしかしてこの首輪が管理しているのではないかと予想じた。
他には取り扱いについてだ。
破損は当然として、10m以内では端末は所有者の認識ができないと記載されている。
「この首輪だな」
この首輪と端末が電波などで繋がっていて認識している可能性が大きいと亨は推測した。
そして亨はざっと基本ルールに目を通す。
目についたのは「初期状態」という言葉だ。
やたら、初期状態では可能、不可能の記載が多い。
「初期状態・・・アップデートや、アプリで補うことが可能なのか」
そう推測してくれと言わんばかりの内容に亨は項目を読み進めていった。
次は禁忌ルールの項目に目を移す。
禁忌ルールの大まかな内容は端末の取り扱いが主だ。破損や放棄の禁止。
「ペナルティの内容は・・・人狼?」
基本ルールの初期状態の多様に目がついたように、禁忌ルールでは人狼という言葉に目がいった。
・端末の破棄、破損、電源off、バッテリー切れは人狼を呼ぶ。
人狼との距離はバッテリーに比例し、100%で半径100mとする。
初期状態で上記のどれか1つでも条件を満たした者と条件が満たしていない場合の者が近くにいる際、人狼には条件を満たしていない者は見えないものとする。
「つまりは、10m以内にこれを管理し、常に電源を入れ続け、壊さない、壊されないようにしろということか」
人狼というモノが一体何なのか記載はなかった。
ただ、基本ルール、禁忌ルールを読んでそれがペナルティになるということだ。
気味の悪さが亨の背中に覆いかぶさったが、それを危惧したところでどうしようもない。
亨はまた軽いため息を吐き、操作を続ける。
【KEYルール】
・世界のアルカナは月のアルカナによって無力化する。
亨は、一読し、もう一度目を通す。
続きがないか、他にないか探すが、続きはなかった。
「・・・これだけ?」
しかし、基本ルール、禁忌ルールが多くの文章によって構成されている中、KEYルールは、このたった一行だった。
亨は自分の端末が戦車であり、世界、月が別に存在する。
液晶の画像からも戦車はタロットカードから引用されており、おそらく、世界、月も戦車と同じタロットカードの1つに属するのだろう。
タロットカードは何枚の絵によって構成されているのか。亨はベッドに横になり天井を見つめた。
「世界のアルカナ」
この言葉が、亨の思考を遮った。
多くの基本ルール、禁忌ルールを読み、人狼という不可解なワードがあった。
今は基本ルール、禁忌ルールをしっかりと理解し、繋げて広げていく、その作業が今は必要なのかもしれない。
しかし、亨の不安を掻き立てているのは、それらではなく。世界のアルカナの存在だった。
世界のアルカナの存在を頭の中から消すように、亨はクリア条件に目を移した。
「・・・・・・」
戦車のクリア条件を読み終えた後、亨は端末を捨てるようにベッドから落とした。
端末の破棄、放棄、破損、クリア条件を読み終えた亨にはどうでもよかった。
<戦車のクリア条件>
・女王の所有者を殺し、端末を破壊すること。
・世界の所有者の端末を破壊すること。
上記のどちらかを1つを達成することでクリアとする。
なお、前者は順序の逆転は不可とする。
亨は意図は理解できたが、納得はできなかった。
そして、心のどこかで、何かの冗談であって欲しいと期待し寝そべったベッドの上で目を閉じた。
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