世界に求められし少女と拒まれし少年のラグナロク

@tosakaryu

第1話

燃えている…


つい二時間前まではそこにあった家が燃えている。

両親は大丈夫だろうか?

愛犬のポチは逃げることが出来ただろうか?


「晴人…ねぇ晴人のお母さんとお父さんは大丈夫なの?ねぇ…なんか言ってよ…」


横で少女が涙を流している

そこは少女の家でないはずなのにそこの住人である俺よりも悲しんでいる


いや、違う……俺が悲しんでいないだけなのか?

後ろから俺たちの名前を呼ぶ声が聞こえる


「無事か!?よかった…お前に何かあったら俺は…」


そういって少年は近づいてきた


俺はその時わかってしまっていた


火に包まれる家を背後に少年を照らす火の灯りで少年の右腕には血のあとがあり

母親が好きだった薔薇の匂いが少年からもすることに…

そして少年は俺に近づいて少女に聞こえないように


「……俺がお前を両親から解放してやったんだ。次は俺の番だろ」


____________________


「うおっ!!」


気がつけばベットから転げ落ちそうになっていた

額には汗が滲み出ている


「またこの夢か、もう10年も前の事なのに今さらになって…」


あれから10年の月日がたった

俺、神代 晴人17歳はとある事情のため日本にある魔術学園へと今日から編入する事へとなった


テレビでは俺がいく魔術学園が映っていた。そしてカメラの好奇の的に金髪のミディアムで左側の髪を三つ編みで編んだ宝石のような碧眼の美少女が微笑みながら学園に入って行くところだった

見出しには


『エーテリオン魔術大国第二皇女アリス・フローリア様がアルザーン魔術学園へ留学』と


「全く、わざわざ自分の国から出て自分の夢を果たすために両親の反対を押し切って日本なんて国にくるお姫様なんてどんだけやばい子なんだよ…」


そんなことをぶつぶついいながら俺は軽い身支度を整えている

もとより自分のものはあまり持っていない。そのため二年間住んでいたこの家に対する哀愁も感じられない。まあ住んでいたといっても1ヶ月に数回しか帰ることが無かったのだが…


「とりあえず義親父に日本へ行くことくらいは伝えとくか」


魔術の発達したこの世界では呪文を唱えれば大概のことはできる

…しかし、どこにでも例外は存在する。まず転送魔法はかなりの魔力を消費する。そのため転送魔法を使える者は世界に一握りしかいないだろう。

そして俺はというと、全く魔法を使えない・・・・・・・のだ。


「っと、もうこんな時間か…魔術大国エーテリオンから日本まではかなりの距離だしな、今回の任務はなかなか長期のものになりそうだ」


そういって晴人は外の世界へと飛び出した


飛行機を乗り継いで約1日。ようやく魔術大国エーテリオンに次いで魔術が発達した国と呼ばれる日本へとついた


「この国はやっぱ暖かいな、とりあえず魔術学園へ向かうか」


道行く人へと話しかける。やはり国が違うとしても全世界公用語があるといろいろ便利だ


そうして辿りついたのが


『アルザーン魔術学園』


今、世界に五つある魔術学園のうちの一つ。そのため世界の各地から人が集まってくる。それが一国の姫であっても、ましてや裏の世界では魔術殺しなんて言われて恐れられている者も…


そして今…


「よく来たな。歓迎するよ神代 晴人くん」


「……」


「なんだなんだ?あまりに久しぶりで緊張しちゃってるのか!?このこの〜」


そういって目の前の人物が羽交い締めにしてくる


「痛い、痛い痛い!!やめろ姉貴!!危うく窒息死するところだわ!」


俺は理事長へと編入するに当たって挨拶に来たわけなのだが…

何を隠そうここの理事長は実の姉なのである


「晴人に会えなかったこの数年の間、私は悲しくて悲しくて…」


そんな事をいいながら綺麗な黒髪を後ろで軽く束ねて、黒いスーツを色気たっぷりに着こなした、とても魅力的な誰もが羨む完璧な姉は目を麗せていた

姉の名前は神代 那月。残念ながら義姉ではなく俺の唯一の血のつながった家族で、歳はまだ28歳。この学園が始まって以来の初めての女の理事長にして魔術の天才。

そんな魔術の天才は現役を引退したいまだに


『蒼炎の魔女』


なんて大層な二つ名で呼ばれている


「『どうせ、ご飯をいっぱい食べちゃった、てへっ』みたいなオチだろ、いい加減三十路も近いんだし食いっ気より男っ気をつけろよ」


ひゅっ


万年筆が頬を掠った

そうまるで弾丸のように…


「言うようになったわね…次に似たようなこと言ったら…あれ・・が…」


そういって手をハサミにして何かを切る動作をした

やばい、俺の息子が恐怖している。


「あの…理事長、そろそろ本題へ…」


秘書らしき人が困った表情でいった


「おほん、すまない。では話を続けよう。

ようこそアルザーン魔術学園へ。今回は封印指定執行官エクゼキューターとしての仕事での編入という事だったな。確か…内容が…すまない、戸川くん。なんだっけ?」


戸川と呼ばれた秘書の男が呆れながら答えた


「同じく今日編入されたエーテリオン魔術王国の第二皇の『アリス・フローリア』様の護衛ですよ。理事長。せめてこれくらいはお願いしますよ!」


この戸川という秘書がすごく気の毒に感じた

俺も小さい頃は散々こき使われていたからな


「おぉ!そうだったな。とりあえずこれが晴人の寮の部屋の鍵だ。明日からのことは一応事前に渡した紙に書いてある。なんか質問はあるか?」


「……俺がどうして封印指定執行官エクゼキューターになったか聞かないのか?」


「ふっ、聞いたところで晴人は答えないだろ。まぁ晴人のことだ、なにか複雑な事情があるのだろ、野暮なことは聞かないさ」


「助かるよ。いつか…話せる時が来たら話すよ」


「あぁ、首を長くして待ってるよ。それと軍の方からも護衛が派遣されるらしいから仲良くしてやってくれよ。まぁ当分先になりそうだが…」


「了解。頼りにしてるよ理事長先生」


俺はそういって理事長室を出て扉を閉めた


「理事長!晴人くんに渡した寮の鍵、間違っていますよ!?」


晴人がでてすぐあと、戸川が慌てていった


「ふふっ、それは姉として私からのサプライズだよ」


那月はそういって弟が出ていった扉を面白そうに眺めていた…

____________________


「ふぁぁ~なんにせよ、今日は疲れたな。さっさと寮の部屋とやらにいって寝るか…」


理事長室から寮へと続く道を行く途中、何度かこの学園の生徒とすれ違ったが誰一人として新参者の俺を好奇の目で見る者はいなかった

やはり、日々魔術を磨いている人たちは雑念に惑わされないのだな。素晴らしい

そんなことを考えているうちに自分の寮の部屋の前へと着いた。聞いた話だと一人一部屋割り当てれるらしい。そして、自分はお姫様の護衛という任務があるため、お姫様の隣の部屋だとのこと


「お姫様が隣となると気を遣わなければいけないな。夜も何かあるかもしれない。思ったより大変な任務なのかもな」


そう思いながらドアを開けると、中で何かの気配を感じた

!?息を押し殺す。相手は魔術師であろう。それならば俺にはあれ・・がある


「♪〜」


洗面所の方から奇怪な歌のようなものが聞こえる。そっとそこに近づいて、一気に相手を拘束する!


「えっ…ちょっ!?」


躊躇は命取りになる。それはこの二年間の封印指定執行官としての任務で学んだことだ


「動くな!お前はここで何を……」


俺はここまでいいかけて相手が女の子である事に気づいた。そして風呂上りらしくバスローブ一枚だけの格好でまだ肌はほんのりと濡れていた。

そして…何より驚いたのが

一度みたら忘れられないような鮮やかな金髪に碧眼。そうテレビに映っていたお姫様に似ていたのだ


「ちょっと話を…」


「さては貴様替え玉を狙っての犯行か!それは運が無かったな。封印指定執行官の権限で拘束させてもらう!」


「だから話を聞けーーー!!」


金髪のお姫様似の少女はそう叫びながら体術を駆使して俺を投げようとした

しかし、二年間の間、幾つもの死線を越えてきた俺はその足を払い、その勢いを利用して組み伏せた。


「痛っつ!…な、な、な!どこを触って…!?」


金髪のバスローブ姿の少女に覆いかぶさるように倒れた俺は

そう。もろに鷲掴みにしていた


「うおっ!わるい!」


思わず恥ずかしくて飛び退いてしまった

これで逃げられたら完全に失態だ


そうしてるうちに少女は顔を赤らめて身体を守るようにして言い放った


「そこのあなた!この私がエーテリオン魔術王国第二皇女と知ってのおこない!?」


まさかまさか!?

…本物のお姫様だったのか?


「お父様がいっていたわ。『日本という国は世界で一番平和な国だ。しかし、日本人男性は性欲の化け物だ。男には絶対触れるなよ』と。さすが蛮族。風呂上りを狙うとは…もうお嫁にいけない」


いやいや、ちょっと待て。エーテリオン王国の王様どんだけ過保護なんだよ!


「ちょっと待て。俺は少なくとも礼節はわきまえているつもりだ。だからそんな警戒しないでくれ!」


「胸をあんな風に鷲掴みしたのに?」


ぎくっ!それを言われると返す言葉が…


「とにかく、まずなぜお姫様が俺の部屋にいるんだ?」


「お姫様という名は好きじゃないわ。私の名はアリス・フローリア。アリス様と呼びなさい。あなたは何をいっているの?ここは私の部屋ですけど…」


んっ?そんなはずは…

そう思って外の名札を急いで確認すると…


「あれ!?違う!?」


「だからいったでしょう。そして恥ずかしいから扉を閉めてください。そしてあなたは中に入って座っていてください。着替えてくるので…逃げたら王族の権威があなたを逃がさないと思って下さいね」


その笑顔がすごく怖い

…今日のテレビのあの可愛らしい金髪の美少女の面影はどこへいったんだろう

とりあえず震えながら正座して待っていた


数分後、寝巻き姿のアリスが出てきた。

その姿に思わず見とれてしまった


そして前のベットに腰掛けると笑顔で


「警察と理事長室どちらがお好みですか?」


「すみませんでした!」


俺は土下座を全力でして謝った


「ふーん、これがジャパニーズの謝罪の最高峰の土下座ね…まぁ話くらいは聞くわ」


そういう訳で俺は洗いざらい話した

まぁ俺はなんも悪くないんだけどねっ


「……つまり、あなたが議会が指名した護衛ってわけね。そしてこの部屋に来たのは理事長のいたずらだと」


全力で頷いた


「まぁとりあえずギロチンいきね」


笑顔でいったいなにを!?


「当然でしょ!私の…私の、は、裸の姿を見たんだから!!」


「いやそのくらいで処刑はないでしょ!世間知らずにも程が…」


「その程度ですって?お父様にも見られたことがないのに!」


ちょっと今のフレーズ日本のロボットアニメ

の有名なフレーズにそっくり


そうやって言い争ってると突然


「面白いことになってるな」


俺を嵌めた張本人がやって来た


「おい、姉貴、なんてことしやがる!」


「理事長。詳しくお話聞かせて貰いましょうか?」


「まぁ待て待て。双方にいろいろ言いたいことがあるのはわかった。お前達はすでにここの魔術学園の生徒だ。つまり魔術師同士の揉め事には…」


「決闘ですか?」


「そういうことだ。ということで明日お前たちの決闘を行う。わかったか?」


くそ姉貴め、最初からこれが狙いだったのか!


「わかりましたわ。お姫様だからって手加減しなくていいわよ。私は最強の座を求めてこの学園へ来たから。楽しみにしているわよ封印指定執行官エクゼキューターの神代 晴人くん」


笑顔で微笑みながら言ってきた

つか正体を知っててあんな事をするなんて姫様も大概魔女だな


「手加減なんてそんなことはしないさ。ところで本当の俺の部屋は?」


「ん?それなら左の部屋だよ」


はぁー、なんかさらに疲れたな


そんなことを思ってアリスの部屋をあとにして左の部屋を開けると


「きゃーーーー」


「すみませんでした!!」


そんな晴人の様子を見てた二人は


「晴人くんか…なかなか面白いわね。ところでどうやってこの部屋へ入ったのかしら?理事長先生?」


「理事長権限かな」


そうして夜を迎えた…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界に求められし少女と拒まれし少年のラグナロク @tosakaryu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ