第6話

 俺の仕事は、夜魔やゾンビを倒すデビルバスター。

 今日も相変わらず夜魔の子供が俺のデスクの上でボールをついて遊んでいる。

 本部は昨日、この子供が人間と夜魔との子供だと正式に発表した。なのに何故生かしておくのか、上司の考えている事は大体見当は付いている。夜魔がどうして現れたのかが分からない今、この子供は絶好の実験材料と言う訳だ。

 俺には、全く関係ない事だし、今日も早い所パトロールに行くとしよう。

 “お兄ちゃん、僕の事嫌い?”

 また、お得意のヤツか。

 慣れとは恐ろしいな。天敵の子供だと言うのに、今ではデスクの上にいる事が普通なのだから。しかし夜魔が敵だと言う事実に何の変動もない。

“聞こえてんだろ?教えてやる。俺は夜魔が大嫌いだ。分かったな?”

 “夜魔って何?”

 自分が夜魔だと知らないのか?だったらその身の為に教えてやろう。

 “夜魔と言うのはお前の事だ。だから俺はお前が大嫌いなんだ”

 “僕の事、嫌いなの?”

 “そうだな”

 ここにいて…否、この世界にいて夜魔が好きだと言う人間は1人だっていないだろう。

 今にも泣きそうな顔をしている子供を気にせず、今日も俺は準備を済ませると二重扉を閉めてパトロールへと出た。

 あの子供は夜魔なんだ。

 普通の子供にしか見えないが、空も飛ぶし人の頭に直接しゃべりかけて来る。いずれは人を食べたり、ゾンビにしたりするようになるだろう。

 パトロールを済ませて戻ると、建物の入り口に大袈裟な位頑丈な鉄格子の付いた本部のロゴ入り輸送車が停まっていた。

 “お兄ちゃん、助けて!”

 耳鳴りよりも強烈に耳障りな音が直接聞こえる。何でこんな時に俺を呼ぶんだ、助けに行くとでも思ってんのか?

 「何処へ行く気だ?」

 「仲間を見殺しにした男が、夜魔の子供を助けるのか?」

 違う、そんなんじゃない筈だ。でも、あいつはまだ子供だぞ?実験材料にされたら、どんな事されるか分かんないんだぞ?

 俺は、どうしたい?

 そう考えた時、俺は走っていた。

 どうしたいかなんて分からない。

 でも、走っていた。

 “お兄ちゃん!”

 本部の奴は、暴れて抵抗する子供を輸送車に乗せるのに必死で、俺には気付いていない。とは言え、デビルバスターである俺が本部に逆らう訳にはいかない。だから、せめて最後に顔を…。

 “お兄ちゃん助けて!僕何もしてないのに!”

 泣き叫ぶ子供は、こんな時ですら頭に語りかけるだけで声を出そうとはしない。もしかしたら話せないのかも知れない。でも、そんな新しい発見も今となればどうだって良い事だ。俺とこの子供はもう会う事もないだろうから。

 “嫌だ!!助けて”

 ここにきてやっと俺の存在に気が付いた本部の奴は、一瞬手を緩め、その隙を付いて子供は俺の方へ飛んで来た。

 慌てふためく本部の奴らと、必死になってこっちへ向かって飛んで来る子供。

 俺はデビルガンを取り出し構えると、1発だけ撃った。

 “おに・・・ちゃ・・・”

 弾は難なく子供に当たったが、一瞬気が迷い、急所を外して随分苦しませる事になってしまった。でも、これで良かったんだ。生きたまま材料として使われるよりいくらかマシだった。

 俺は塵となって消えて行く子供を見つめながら、そう自分に言い聞かせていた。

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