第5話

 昨日、人間と夜魔との間に産まれたとか言う5歳位の男の子が届けられた。

 いや、届けられたと言うより捨てられていた。“この子は夜魔と人間の間の子供です”と書かれたメモだけが服のポケットに入れられているだけで、本人は自分が何処から来たのかも、自分の名前すらも分からない状態だ。

 本部の人間はこの子供から採取した細胞を持ち帰り、本当に人間と夜魔との子供かを調べている最中で、そのDNA検査の結果が出るまで子供の見張りを俺達に任せた。

 子供の為に部屋を用意するでもなく、デスクワークする部屋の隅にポツンと置かれた寝床が子供のスペースになっていたのだが、実際子供は寝床で寛いでいる事は少ない。

 夜のパトロールに向けて準備をしていると、1人でボール遊びをしている子供が目に入る。

 嫌でも目に入ってくる。

 何故なら、子供は俺のデスクの上で遊んでいるからだ。無視するのが大変なのだが、俺は1日のほとんどをパトロールに費やしているので、準備さえさっさと終わらせてしまえば関係ない。

 こうして好きなようにさせているのは、他の連中が子供に対して良い感情を抱いていなかったから。

 夜魔の血を引いていると確定した訳でもない子供を毛嫌いする事が出来なかった俺は、こうして自然に子供の世話を任されたと言う訳だ

 それに、少しでも夜魔の血を引いている可能性があるんなら然るべき場所に移されているだろうし、安心だろうとまで思っていた。

 子供が、俺の顔をジッと見るまでは。

 黒い大きな瞳が、目の奥から染み出して来る血のように赤く染まり始め、背中には透明に近い色の綺麗な羽…。

 大袈裟に視線を外すと、パトロールの準備をしている他の連中がいたのだが、誰も子供に注目はしていない。

 ここに、夜魔がっ!

 確認する為に子供を見ると、何事もなかったかのようにボールで遊んでいる子供がいた。

 目の、錯覚か?

 この部屋の空気が悪いせいだと結論付けてパトロール準備を再開させる。

 その間に他の連中は次々と出て行き、部屋には俺と、子供しかいなくなった。

 “何処に行くの?お兄ちゃん”

 突然頭に声が響いてきた。どうやら相当疲れているらしい、幻聴まで聞こえてくるなんて。

 “お兄ちゃん、僕も行くー”

 声を気にせず歩き始めた俺の頭にまた声が響き、同時に服を引っ張られた。

……嘘だろ?

振り返った先には、ボールを手に持ってフワフワと浮きながら俺の服を掴んでいる子供がいたんだ。

 まさか、本当に夜魔の子供だったなんて……。

 美しい顔で人を安心させ、肉を食らい人間をゾンビにする夜魔の子供と言うだけで俺は興奮していた。本部が決定を下さない内から子供にデビルガンを向けそうになる程に。

 けど、本部に逆らえば間違いなくデビルバスターでいる事は出来なくなる。親父達の仇を討つまでは、俺はデビルバスターでいなければならない。

 俺は素早く廊下に出ると二重扉の鍵を閉め、子供が出て来ていないかを確認すると夜のパトロールへと向かった。

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