第3話

 もうスグ満月が来る。

 まだ悪魔が都市伝説でしかなかった頃から「満月になると悪魔の力が増す」と言われていた。

 単なる噂でもなく、それは当たっている。

 夜魔にとってもそれは例外ではなく、姿は見えなくとも興奮しているのが雰囲気と言うか、空気で分かる。

 満月…。

 俺がデビルバスターになる事を誓った日の空にも満月が出ていた。

 それはもう、10年も前の事。

 窓の外には雲ひとつない澄んだ空と、金色に輝く満月。

 子供だった俺は、いつもならとっくに眠っていた時間だったにもかかわらず、その美しい光景を食い入るように見つめていた。

 今から思えば、その時から俺は何かを感じ取っていたのかも知れない。

 目の前を何かが通り過ぎ、慌てて確認するように窓から身を乗り出すと、3体の夜魔が飛んでいた。

 背中からは綺麗な色の翼、人間とは似ても似つかない美しい姿に俺は完全に魅了されていた。

 3体の夜魔は、下の階で寝ている両親の部屋の窓をコツコツと指先でノックしながら笑っていた。

 きっと、部屋の中にいる両親の反応を見て笑っていたのだろう。

 まだ悪魔の存在が都市伝説としてでしか認知されていなかった時代だ、両親も美しい3体の夜魔に魅了されていたに違いない。そうでなければ窓を開ける事はなかった筈だ。

 3体の夜魔が両親の部屋に入って間もなく、母さんの悲鳴が聞こえた。

 慌てて両親の部屋を目指して階段を駆け下り、僅かに開いているドアの隙間から中を覗き込むと、そこには長い牙を剥き出しにして、口の周りを両親の血で汚した3体の夜魔がいた……。

 息があるまま食われていく両親は、夜魔の腕の中で逃げ惑うように暴れ、徐々に弱っていき、後は部屋中に悲惨な声が響き渡るだけ。

 デビルバスターでもなんでもなく、10歳にも満たない俺に何が出来ただろう?

 出来る事なんてのは、黙って見ている事だけだ。

 ただ黙って、声を殺しながら両親が食われていく様子を見ていた。

 両親はゾンビになる事も無く、この世に1欠片の肉片も残さず夜魔の腹の中に消えた。それで満足したのだろう、3体の夜魔はドアの隙間から覗いていた俺をチラッとだけ見て飛んで行った。

 それから10年。

 夜魔は俺の天敵となり、俺は夜魔を倒せる術を手に入れた。

 夜魔をこの世界から抹殺する事、それが俺の生きる理由。

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