第2話

 人間がゾンビになると言う事件が起こるようになったのは何時からだろう?

 原因は夜魔の仕業。

 夜魔とは夜に現れる悪魔の事で、一度ヤツに魅入られた人間は食われるか、気を吸い取られるかして、骨かミイラかになって死ぬのだが、半食いにされた人間は死に切れずにゾンビとして新しい命を生きる事になってしまう。

 そこまで分かっておきながら、被害がここまで拡大した理由として挙げられるのは、ヤツらが人間の前に美男や美女の姿で現れては誘惑する詐欺師だと言う事。

 国のお偉いさんが悪魔の存在を頑なに否定し続けたせいで、デビルバスターと言う職業の認可が下りなかった事。

 こんなほぼ手遅れ状態にならないと国は動かなかったのだ。その癖、ゾンビは人と認めず法案の可決はかなり早かったっけ。

 賛成92人で、白紙と反対が8人いたらしいが、その8人は何をどう思って反対意見を述べたのか本気で理由が知りたい。

 あぁ、駄目だな。なにかあると全て国のせいにしてしまうのはただの逃げだ。

 俺はデビルバスター。悪魔と戦える唯一の職業に就いている。

 気を、しっかり保たなければならない。特に、今は…。

 昨日退治したゾンビの身元が分かったので、今からご家族にその報告に行かなければならない。

 たまたま。そう、たまたま昨日この道を通った。時間は夕方だっただろうか?酷く酔っ払ったオッサンが歩いていたんだ。

 夜魔が現れるようになってからは自分が分からなくなる程飲む人間は珍しかったのだが、時間はまだ夕方、夜魔が出るような時間じゃなかった。だから俺はオッサンに、夜魔には気を付けて帰るようにと注意だけして通り過ぎた。

 空がゆっくりと暗くなった時、突然襲ってきた嫌な予感。

 慌ててオッサンがいた辺りに向かうと、路地から1体のゾンビが出てきた。

 服装から見たって間違いなく、夕方に見たオッサンだった。

 ゾンビは人と認めず…。

 パァン!

 俺はデビルガンを構えて発砲し、唸り声と、シューと言う蒸発音をあげて消えていくゾンビを見届けた。

 夜魔がまだいるかも知れないと調べに入った路地には、大きな袋と、いかにも中にケーキが入ってますよと言うような箱が落ちていた。見るとやはり“ハッピーバースデイ”と書かれたデコレーションケーキが入っていて、大きな袋からはガチガチにラッピングされた箱。その中には人形が入っていた。

 昨日と同じ道を通り、昨日の事を思い出しながら昨日のオッサンの家へと向かっている。遺留品と、買い替えたケーキをご家族に渡す為に。

 もしあの時、俺がオッサンを家まで送っていれば…。

 昨日のオッサンは俺が見殺しにしてしまったんだ。

 しかし、泣き崩れているご家族の前では全てを夜魔のせいにして言うんだ、“これからも誠意を持って夜魔を倒し続けます”と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る