第3話若草を編む

今を 咲きにぎわう 

紫陽花の窓縁に 

かしいでいた 夜を兆す姿見が 

死を広告する 喧騒のなかで失われた 

その花鞠を 復 嘱目する


死を吸うたび 綻ぶ青い莟は 

美しい継母の眼の底に 

蟠っていた弓絃に 静か風揺らす沈黙に

死の永続を永続とする

曇雲の婚姻者たちへ

おまえは おろかしいと云い放った


しかし驟驟たる昼霧は知るだろう 

板窓の矩形に だれひとり 

おまえを眺望する存在が 

何処も 何時にも

あらぬということを そして純粋な棘だけが

下階の果を綻びる 地球史を 瞠ることを

  

嵐が 窓を叩く毎に 後悔に鬩ぐ花籠があり

それは 必ず鮮烈ではない

それは 必ず愚劣ではない

心像の花束を抱く かれら 死に孵る 人々

しかし 必然を堕落する 土地の種子は 

水膨らむ影像という名の容をして


鶏頭花を抱き、淋しい、淋しいと笑う 

老齢の独身者達

集合邸宅のはなやぐ遠く遠い季節 

いつしか 居寓を置く窓縁の紫陽花には

求婚者達のための 遺品が 

甲冑の抜殻を 置くように

理由も勿く 死の想像を つみかさねていった

かれらはだれであったのか

それをしるものはすでにない、

                         だから

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書簡,場所に附いて:或はアブサントの効果 鷹枕可 @takuramakan

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