第2話漏斗
今、私たちの足の裏が蹴り上げていった季候は婚約者達の哂いのなかでは本当に必要なものだったのだろうか
死んでしまえば皆同じだと警察官の花束が喋るのは法律と数式の速度みたいな覚束ない標識だったのだろうか
昨日吹き零れた泡立石鹸は今日も戸籍や戸籍を国家に預けては
銃創とコンクリートの石壁に張り付いた蚯蚓のくしゃくしゃのアンモニアの方向を叫びながら見なかったろうか
生きているとは死んでから始まる観光バスの傾斜した窓際に落された蛾の黒電球みたいに曖昧なことだったろうか
ねえ、唄を忘れて狂って死んだお母さんは次々と消えながらブラウン管の電球に吸い込まれて行ったんだろう
ガソリンを撒く夜警巡査は例え昼が来ても壊された蛇口に指をねじ切られてしまうのか
自由に慣れる老婆の咽喉の痰はまるでプラスティックの様に粘りついていたよ
サラリーマンが汗を拭きながら横断歩道に立っている、
ラグビーボールの勝ち負けはいずれどこかへ行って終い草のぎざぎざへと千切れ飛んだのを見たよ
どうして生まれていたのか漏斗の時間は
姦しい造語の腋毛に死んでいた軟膏を何所へ遣ったかなんて誰しもが覚えていなかった
死ねば楽になれるだろう
ああそうさ
死ねば楽にもなれるだろう
三号車が線路を通り過ぎる時に刎ねられたビニール袋は若しかたら僕の半身かもしれない
誰が読むものか星空の死化粧のけばけばしさを
腕時計をじゃらじゃらに鳴らしながら電気工事をしているあの青年は仕事部屋に閉じ込められているのかいないのか
高速道路を背負いながら背骨は地震計の様に軋んだ、
唇のすっからかんな歌謡曲は喚きつづける不自由な質量に耐えられなかったなら一体誰の所有物になるのだろう
言葉が苦しいなら、言葉が苦しいなら、
それでいて人いきれに紛れ込んだ青春は忘れられた画用紙の線香立てだったんだろう
幾つもの鳥篭の中の
幾つもの死顔
今日は今日かも知れない
明日は明日たちかも知れない
死にたく無いと叫ぶ御堂筋千日前通のアパートビルに住む老人よ
傾いた溝底に煙草を投げ捨てた平成の腋臭を引き摺っている一粒の壮年達!
剃刀一枚を茶封筒に押し殺して、
生きたくないと一所懸命に押し殺して、
それでもおまえカラカラ鳴いている歯車みたいに押黙って、
蚊一匹、懐中電灯一つ、書を捨てよ町に出よう一つを、
オランジーナを飲んだと日記に記した莫迦みたいに、
俺はシラフだと喚く派遣社員の頸の皮一枚に繋ぎとめられた国家アメリカへの望郷と憎悪、
狂った茶碗を膝頭みたいに抱えて、
何所へ、棲家へ行くのか、おまえは俺なんかと違って利発なんだろうか
それなら俺を殺していけ
それなら俺を殺していけ
父さーん、お父さーん、目を醒ましてくれ あなたがいないと駄目なんです
屹度、屹度と皆様よろしく、死に帰れ死に帰り、
そして居なくなって、すべてが
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