第5話二人で共同作業
「ん……朝か……」
ここ2日はいろいろとあってあまり寝れてなかったから、久しぶりにぐっすり眠った気がする。心なしか、目覚めもいつもよりスッキリしていると思う。
「さて……ん?」
体を起こそうと体を動かしたら何か柔らかいものに触れた。
「!?!?」
その正体を確かめようと布団を少しまくってみると、ぴょこんとサイドテールが飛び出した。そう、そこにはなぜかみちるが気持ちよさそうに眠っていたのだ。
なぜだ。なぜみちるが私のベッドで寝ているんだ? 昨日寝たときは、ベッドには確かに私だけだったはずだ。
いや、それが私が都合よく作りだした記憶で、実は私がみちるに手を出していた……?
馬鹿な。私は確かに千佳ちゃんと一晩を共にしたが、それは千佳ちゃんに頼まれたからであって、決して、やましいこともしていないし、なんとか理性を保ってきたのだ。そんな私がこの期に及んでみちるに手を出すなどとそんなことが……。
ないとは言い切れないのが悲しいところであった。
「いやいや、でも、確かに昨日までみちるは居なかったはず……」
だったらなんでここにみちるが居るのかという問題が解決しない。恐ろしいが、本人に聞くのが一番確実である。
「みちる。みちる起きて……」
みちるの体を揺すって起こそうとするが、依然として快眠から目覚める気配はない。
そこで私の内なる邪悪ななにかが囁いてくる。
今ならみちるを満足するまで愛でられるのでは? と。
いやいや……眠っている幼女に手を出すなどというのは外道のやることである。こんな性癖を持った時点で道を踏み外しているというツッコミはなしだが。
「んむぅ……」
みちるが寝がえりをうつと、幸せそうな寝顔のみちるが目に入った。
「柔らかそう……」
みちるの頬に目が行く。触れていないのにわかる。あれはきっと至上の触り心地であろう。
「さ、さわりたい……ッ!」
抗いがたい誘惑が私の理性を破壊しようと襲いかかる。最近こういうの多くないですかね? 既に私の理性はボロボロだ。
しかし、ここで私の理性が崩壊してしまっては、待っている未来はお縄につく自分自身だ。
「ううん……ふわあ……」
私が欲望と理性との間で葛藤している間にみちるの目が覚めたみたいだ。
「おはようみちる」
「ん……おはよー……」
眠たそうに目を擦りながらベッドからもそもそと体を起こす。私の葛藤はいざ知らず、呑気なものである。
「みちる、いつから私の部屋に来てたの?」
「んー? さっき。暇だったから遊びに来たらことねー寝てたんだもん」
それで同じベッドに入っているというのは、一体何がどうなってそうなったのか。
「ことねーってば起こしても起きなかったからさー。なんかことねー気持ち良さそうに寝てたし私も一緒に寝ちゃった」
「なんで起こしてくれなかったの!」
その時点で起きていればマイベッドwithみちるをもっと堪能できたというのに……!
「え? 起こしたって言ったじゃん」
「あ……そうですね、はい」
過ぎたことを悔やんでも仕方ない。とりあえず起きることにしよう。
「ほら、起きたんだったら遊ぼーよ!」
「ぐえっ……ちょ、みちる……」
寝起きだというのに、元気MAXなみちるに飛び付かれた。ああ、みちるを全身で感じる幸せ。この重さ、みちるの体温。全てが愛おしい。
いやいやそうじゃないだろ私。
「顔洗ってくるから、ちょっと待ってて」
「んー」
歯を磨いて顔を洗って部屋に戻ると、既にみちるは私の部屋でゲームをしていた。
「おかえりことねー」
「ただいま」
「そう言えば、寝る前におばちゃんとちーちゃんが出て行ったけど、どこいったん?」
「ああ、千佳ちゃんももうすぐ学校でしょ? 必要なものとか最後の準備するんだって言ってたな」
私は見事に放置されていったわけですが。まあ、私が行っても何をすればいいのかという話になるか。千佳ちゃんを見つめることしかやることもないだろうし。
「ふーん。ちーちゃんも遊べればよかったのになあ」
「そんな遅くはならないだろうから、千佳ちゃんとも遊べるよ」
「そっか。ならいいや! ほら、ことねーこっちこっち」
みちるに呼ばれて近くに座ると、みちるはわざわざ私の膝の上に座った。
うんうん。これだよこれ。この私に全てを委ねられているかのような感覚。みちるを一生守ってあげたくなるというものだ。
「よーしっそれじゃゲームしよっ」
にこっと明るく笑ったみちるは見ているだけで自分まで元気になる。まさに、太陽のような笑顔だ。
そう、その笑顔で生きる力が湧いてくる。みちるの笑顔はこの星の命を育んできた太陽の光そのものと言っても過言ではないだろう。
「ことねー?」
「ああ、ゲームね。うん、やろう」
おっと、みちるの笑顔に見惚れてしまっていた。みちるに催促されてゲームのコントローラーを握る。
しかし、いつものことではあるが、みちるが膝の上に乗っているとその感覚にばかり集中してしまって、他のことがあまり気が回らないのだ。
「やった! やっぱりことねーはゲーム弱いなあ」
だから、私がみちるにゲームで惨敗しているのも、私がゲームが下手なわけではない。そう、この敗北はみちるの柔らかさや暖かさ、そして、みちるの笑顔の為なのだ。
「なんかお腹空いてきたなあ」
しばらくみちるとゲームを楽しんでいると、みちるがお腹を押さえて溜息をついた。
「もうお昼だもんね。千佳ちゃんと母さんも昨日外で食べて来るって言ってたし。私らもお昼にしようか」
「うん。でもご飯どうすんの? うちもお母さん今いないけど」
「私に任せなさいって」
「ことねーの料理かあ」
なんだか含みのある言い方をするみちる。私だって料理くらいは人並みにできるのだ。……確かに、作れる料理のレパートリーはちょっとだけ少ないのは認めるが。
「ことねーの料理はだいたい肉料理だもんなあ」
「いいじゃないお肉。おいしいでしょ?」
「おいしいけど、だいたいことねーの料理って生姜焼きとかじゃん? たまには他のも食べたいなあ」
むぐぐ……言い返せない。確かに私の料理はだいたい肉を焼く系の料理しかないが……。
乙女にあるまじき料理レパートリーであるのは自覚はしている。そのうち作れる料理の種類は増やすつもりなので問題ないはず……。
「じゃあ、みちるは何食べたい?」
「オムライスを所望します!」
オムライスか。作ったことはないが、それくらいならレシピ本を見ながらやればできないことはなさそうだ。いや、きっとできる。そうやって受験戦争だって勝ち抜いてきたんだ。この頭と体を使えばできないことなどないのだ!
「いいだろう! オムライスを作ってやろうじゃないか!」
「おー。ことねーがやる気に満ち溢れている……」
私はまるでこれから魔王に挑むRPGの勇者のような気合で
「さて……準備はできたけど」
「本当に大丈夫?」
隣から覗き込むみちるが不安そうに私を見つめる。
「大丈夫だって!」
早速、中身のチキンライスの具材の玉ねぎを刻んでいく。
「……」
「……」
ざくざくと玉ねぎを刻む音だけが私たちの居る空間に響き渡る。
「ことねー……」
「泣いたっていいじゃない。玉ねぎだもの……」
襲い来る玉ねぎの猛攻を受けながらも、なんとか玉ねぎを刻み終える。
「しょうがないなあ。私も手伝ってあげてもいいよ?」
「ぐすっ……サンキュ。それじゃ玉子溶いておいて」
ボールと泡立て器をみちるに渡す。
「ことねー! 卵は、卵は何個ですか!?」
「ふふふ……今回は特別に一人3個だ! 3個なら、そらもうふわとろよ!」
「おー……ことねー太っ腹だなあ。お母さんが作るときはいつも2個なのに」
きっと、いつも卵を多めにしてしまうと、財政的にも健康的にもあまりよろしくないのだろう。なので、今回は本当に特別だ。
「よっし! 卵割るぞー! 一気に二個やっちゃうぞー!」
みちるは勢いよく卵をボールの淵にぶつけている。そのまま割れそうでヒヤヒヤしたが、殻に大きなひびが入っているだけで済んでいるのが不思議だ。
「あっ」
みちるがボウルに卵の中身を入れようとしたが、みちるの両親指が見事に卵の殻を突き破って殻の中に埋まっている。
「どうせ混ぜるからだいじょーぶー」
何事もなかったかのようにみちるは卵をボウルの中へ投入していく。本当に大丈夫だろうか。
「しょうがないなあ。ここは私が見本を見せてあげよう」
ここで一つ、年上の威厳というものを出していこう。
「えー? ことねーできんの?」
「まあ見てなさいって」
まずは殻にひびを入れて、華麗にボウルへ綺麗な中身が……とはいかなかった。
「ことねー」
「……」
私の親指も見事に殻に突き刺さっていた。
「まあ……こういうこともあるよネ」
「……」
みちるの視線が突き刺さるがここは気付かないフリだ。
「さーて、残りの具材も切っちゃおうか!」
「あ、私もやるー」
「え? うーん……わかった。気をつけてね」
みちるに刃物を持たせるのは心配だったが、みちるももう5年生だ。それくらいは大丈夫だろう。学校の調理実習とかでも使ったことあるだろうし。
「でも、その前に一個確認!」
「なに?」
「包丁を持つときの手は?」
「猫ハンド! にゃあ」
「ほわっ!?」
手を猫の手の形にしたみちる。これはいけない。不意打ちにも程がある。
猫を象った萌えというのは定番の中の定番。
例えるならば、小学生女児に対するランドセルといったところだ。
多少はあざといとさえ感じる猫のポーズもみちるがやればそう感じさせない。
むしろいい。もっとやれと言ったところか。ここにネコミミが無いのが非常に悔やまれる。
「ことねー?」
「あ、ああ。うん。大丈夫だよ」
いかん油断していた。みちると一緒にいるということはこういう不意打ちにも気をつけなければいけないのだ。さすがに料理中だし、妄想も自重するべきだろう。……できるかどうか不安ではあるが。
ただ、今度ネコミミを買っておこうと心に決めたのであった。
「さあ、チキンライスを炒めよう」
フライパンでバターを溶かして、ご飯と切った具材を投入する。
「ほあ~、いい匂いしてきたあ」
「うんうん。これは楽しみだねえ」
フライパンから漂う香りが食欲を刺激する。昼食への期待が俄然高まるというものだ。
「よし、そろそろかな。一回ご飯移してっと」
レシピ本に書いてある通り、さっとフライパンを洗ってから卵をフライパンに流し込む。
「みちる。ここからが本番だよ」
「うん……!」
しばらく熱していると、卵が半熟になってきた。ここからが運命の分かれ目といっても過言ではない。
「みちる! ご飯!」
「ホイサー!」
謎の掛け声とともに、みちるが先ほど炒めたチキンライスをフライパンに再び投入する。
「よ、よし……」
卵がいい具合になってきた。火を止めて、仕上げにかかる時だ。
緊張が走る。フライ返しをそーっと卵の下に差し込んでいく。美しいオムライスの完成は間近だ。
「そっと……」
「……」
卵が崩れないようにゆっくりと卵をかぶせていく。
「……ひぅっ!」
突然背筋がぞわっとした。
「あ……あー!」
つい、力が入ってしまい、卵はすっかりぐしゃぐしゃだ。
先ほどの悪寒の正体、いや犯人は分かり切っている。
「みちるー!」
みちるに背すぎをつーっとなぞられたのだ。普段だったら大歓迎だが、今はタイミングが悪い。
「あははははは!」
みちるは腹を抱えて笑っている。かわいいが。ここでこんなイタズラを仕掛けてくるとは……。かわいいのだが。
「わ、私の美しいオムライスが……」
「まあまあ。味には関係ないし」
「はあ……こうなっちゃったものは仕方ないか」
諦めてオムライスを皿に盛っていく。
見映えはいいとは言えないが、おいしそうな匂いが食欲を刺激する。
「あー……お腹空いた。早く食べよ?」
悪びれる様子もなく、みちるに催促される。かわいいから許す。
「そうだね……」
私はデミグラスソース、みちるはケチャップをかけている。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます……おお、おいしい!」
「うん、がんばって作った甲斐があったね」
正直作る前は少しだけ不安だったが、満足な出来だ。
「うまうま」
「みちる口にケチャップついてるよ」
「んー」
みちるの口を拭いてあげる。こういうことを自然にできるというのは、幼馴染の特権と言ってもいいだろう。
「ことねーのもちょっとちょーだい」
「いいよ」
「やった。あーん」
「!?」
そういうのは予想していなかった
まさかこんな役得が待っているとは……!
定番ながら、こういうシチュエーションは大好きです。
「ことねー?」
「あ、うん。はい」
「あむっ。うんこっちもおいしいね。ことねーも私の食べる?」
「おっいいの? 」
「うん。はい、あーん」
「!?!?」
な。なんだと……!? 私がしてあげるだけではなく、私にもしてくれるとは。
これは予想以上に嬉しいことになってしまった。
「いらないの?」
「ううん! それを貰わないなんてとんでもない!」
「そんなに食べたかったんだ……」
若干みちるに引かれている気がしないでもないが、それよりも大事な事があるんだよ!
「あむ……うん。おいしいよ」
正直なところ、歓喜のあまり味はあまりわからなかったのだが、みちるに食べさせてもらったということに大きな意味があるのだ。
「でしょー?」
満面の笑みのみちるが見られて私はお腹いっぱいでございます。
「ふう……お腹もいっぱいになったし、後はゆっくりと休日を消化するだけだなあ」
「えー? なんかことねーオヤジ臭いよー。もっと遊ぼうよー」
「ちょ、みちる、ストップ、ストップ……うぶ」
ゆさゆさとみちるに揺らされる。食後にやられると胃の中が……。
「遊ぶのは後でもできるし、今はちょっと休もうよ。……ふああ」
正直何もしたくないのだ。食後特有の倦怠感に包まれていると、なんだか眠気も襲ってきたぞ。思わず大きな欠伸が出てしまった。
「あれ? なんか私まで眠くなってきた……ふああ」
みちるも私につられてか、大きな欠伸をもらす。
「あー、だめだあ。そう思ったらもう動けない―」
こてんと私の膝の上にみちるが倒れ込む。
「おやすみ……」
そして、すぐに寝息を立て始めてしまった。
またもや幼女を膝枕するというおいしいところではあるのだが、私もどんどん眠くなってきた。
今はみちるの温もりを感じながら、眠るとしよう。きっといい夢が見られるはずだ。
「おやすみ、みちる」
春の陽気とみちるの温もりに包まれながら、私の意識は瞬く間に闇の中へと落ちて行った。
お姉ちゃんがロリコンでも問題ないよね? 入田麻也 @yamada0632
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