第3話

 現代の宇宙往還機はずいぶん前から大気圏内を飛び交う航空機と同じく何ソーティをこなすような代物である。というのも、使い捨てのロケットというものは味気がないという不満を抱いた某企業家によってあっという間に全ての宇宙船と宇宙ステーションが過去の遺物と化した往還機が発明されたからである。

 もちろん、未だに火星にたどり着くのは長い時間が必要であるし、ワープ航法などまさに夢の技術であるので変化したことというのは人類の行動範囲が地球の衛星にまで伸びたというだけのことであるのだが、21世紀初頭のご先祖様からすれば非常に発展をした世の中であるだろう。

 

「こんなに素晴らしい機械を生み出したというのに未だに管制は人が常駐しないといけないというのは時々イライラしますね」

「機械は人が命じたことは寸分違わずにこなすけど、機械の設計、若しくはプログラムが間違っていれば人の期待を裏切るし、機械は人が想像した最悪の事態までしか対応できないからねえ」

「それに加えて、設計者の意図しない方法を使用者が行うこともあるからねえ。私もそれで何度母に怒られたことか…」

「何をしたんです?」

「母親のデバイスで虫を引っぱたいたりとか、父親のアカウントで男を釣ったりとか」

「前者は例にかなっていますが、後者はそもそもできるんでしょうかね。アカウントって性別が絶対わかるじゃないですか」

「私らが生まれるずっと前にはアカウントなんて使い捨てで作り放題で性別詐称も当たり前でプロフ写真もテケトーなものを拾って使ってたっていうやん」

「それは、企業が無制限に開放していたものでしょう。今は年齢も性別も全て紐づけされているからむつかしいんじゃないですか?」

「まあ、そこは腕の見せ所やね。私文学少女やったし」


 最早、文学少女というより源氏物語を溺愛し過ぎた某貴族の娘の狂気すら感じるこの先輩は頭のネジが生まれたときからはずれかかっていたとは本人談。

 しかし、彼女の本性はよほど親しくならないと見えてこないので大半の知り合いが口にするのは、

「ええ人やね」

「優しくて、頭もよくてうらやましい」

「流石は月開拓の先陣に交じっていただけはある」

と高評価であった。

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銀河開拓団始末記 石川暁 @nanzenji

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