2「後悔編」
失敗した、と青年――ガルディア・ハイマンは頭を抱える。
何故、いきなり対象の目の前に飛び出してしまったのだろうか。
そして何故、これから命を奪おうとしている少女に向かって、
日本語の曖昧な表現と言う物はどうにも慣れないなと、彼は思う。
組織のエージェントとして、こんなにも間抜けな話があるだろうか。
青年は自分が起こした行動の浅はかさを、心の中で悔いていた。
「ま、待て! いや、待って下さい!」
件の少女・白月凛音は既に踵を返し、彼の立つ場所から遠く離れた距離へと移動していた。
全速力でダッシュ。今にも公園を後にしそうな彼女の背中を追いかける。
そこそこ自慢だった彼の脚力は、一瞬の内に少女との距離を詰める。
ガルドは、少女の細い肩をなるべく優しく掴むと、そのまま彼女の歩みを止めさせた。
「……まだ何か用ですか?」
少女があからさまに嫌悪感を露わにした表情で、青年を睨み付けてくる。
「ご生憎様だけれど、貴方みたいな変質者の相手をする義理は、アタシには無いんです」
抵抗の一つでもあるかと踏んでいた青年だが、思いのほか余裕を持った少女の態度に、何だか意表をつかれてしまった。
「すまないが、理由は言えない」
力強い眼差しで、青年は少女の双眸を見つめる。
見つめられた少女が、彼の余りの勢いに気圧されつつ、そこそこ整った青年の顔がすぐ近くにある事に気が付き、少しだけ頬を赤らめながら顔を背けた。
「ただ、君が欲しい」
そして、悩みに悩んだ末に、彼の曖昧な日本語力が紡ぎ出した一言は――
「……強姦魔?」
少女に大きな誤解を与えるのには、十分な破壊力を秘めていた。
「……いや、違うな。そう、君の生命が欲し……は?」
表現の違いを察し、言葉を訂正しようとする物の、少女が青年を見つめる視線は、既に変質者を見る物から、犯罪者を見る物へとランクダウンしていた。
「違う! そうじゃないんだ! 勘違いしないでくれ!」
慌てて否定する青年だったが、時既に遅し。
「そんな、昔のパズルゲームか何かで見た様な求愛の仕方をされても、アタシの身体は捧げないんだから……!」
凛音は肩に置かれた青年の手を払い除け、己の身体を外敵から護るかの様に両腕で抱きかかえる。
「違う。断じて違う」
自身の一言が生んだ状況をイマイチ理解できていない青年は、彼女が何故そんな反応をしているのか、解らなかった。
「頼むから、その汚物を見る様な視線を、俺に向けないでくれ」
とにかく、誤解を解かなければと、青年は慌てて弁解する。
――と言っても、例え誤解が解けたとしても、彼が彼女の命を狙っていると言う事実は、少女にとっても決して許容できる物では無い筈なのだが。
そんな簡単な事にも気が付けない程に、元来の生真面目な性格が、青年のペースを狂わせてしまっていた。
「いいから国へ帰れ。ゴォホーム」
吐き捨てる様な凛音の一言が、青年の心に深く突き刺さるのであった。
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